第6話 異能

 木刀を持って向かい合う若い兵士と翔。

 急所を狙ったり、致命的な怪我をするようなことは禁止であり、あくまで身体能力を確認するための簡単な模擬戦ということになっている。


「ではミコシバ殿、どうぞ打ってきてください」

「分かりました」


 兵士が構えを取り、翔を誘う。


「テヤァッ!!」


 翔は剣道のように木刀を上段に構え、踏み込んで面を放つ。

 兵士はそれを軽々と木刀で受け止めていた。


 翔はその後も面や胴、小手などを放つが、全て兵士に簡単にいなされていた。


「力と速度は結構ありますね……ちょっと手が痺れてきましたよ。では今度は少し、こちらから打ち込んでみますね」


 兵士は手をプラプラして笑った後、翔に向かって踏み込んだ。

 兵士が振るった木刀を、翔はなんとか受け止める。


 その後も翔は受け止めたり躱したりしていたが、ドンドン追い詰められていく。

 兵士は翔の限界を見極めるように、徐々に速度を上げていく。


 そして遂に兵士の木刀が翔の身体に当たるといった瞬間、翔は身を翻して兵士の木刀にキックをかました。


――バギャッ!!


 キックが当たった木刀は半ばからへし折れ、それを見た兵士が素早く身を引いた。

 翔はすかさずそれに追いすがり、追撃にキックを放つ。

 兵士は木刀の柄と左腕を交差させてそれを受け止めたが、残った木刀の柄も砕け散り、兵士は後ろへふっ飛ばされていた。

 兵士は無傷で受け身を取ったが、その状態で目を点にしていた。

 また同じく翔や真一、クラスメイト、アルフレッドまでも驚きに目を見開いていた。



「恐らく《異能》ですな」

「《異能》とは、なんでしょうか……?」


 翔が前のめりになってアルフレッドに迫る。

 自分に特殊な力が宿っているのだ、興奮するのは必然であろう。


「《異能》とは、異世界人が身に付けていることがあると言われる特別な能力のことです。先程のミコシバ殿の蹴りですが、あれは筋力Dの威力ではありません。私にはC以上の威力が出ているように見えました。自身の身体能力以上の力を発揮しているミコシバ殿の蹴りは、恐らく《異能》なのではないかと思われます」


 確かに、普通の人間の蹴りで木刀を粉々にしたり、成人男性をふっ飛ばしたりはできない。

 真一は、翔がサッカーを得意としていたことから各々の特技が異世界に来ると《異能》として昇華されるのではないかと考察した。

 自身が他人の魔力が視えるというのも、観察力が《異能》に昇華したものと考えられる。

 自分の存在感が希薄になる現象も、特技ではないが影の薄さが《異能》として昇華したと考えると納得である。


「翔の特技のサッカーが《異能》に昇華したと考えると、皆も特技に関する《異能》が発現しているかもしれない」


 真一が自身の考察を皆に述べると、皆ものすごい勢いで色々と試しはじめた。

 走り回る者、目を瞑って考え出す者、地面にパンチを放ってみる者、三者三様に可能性を探っているようだ。


 そんな皆を眺めている翔に、真一が話しかける。


「翔、身体能力はどうだった? 傍から見たら結構凄い動きをしてたけど」

「あぁ、戦ってみたらすごい実感したけど、体が軽くなって力も強くなってる気がする。ちょっとだけな」

「なるほど。やっぱり僕らの世界からこっちの世界に来たものには力が宿るのか……」


 顎に手を当てて思案する真一に、翔は不思議そうに質問した。


「なぁ、アサシンは何か《異能》が発現してるのか? 一人だけ余裕っぽいじゃん」

「一応、これかなってのはある。地味だけど……」

「はは、地味なのか。どんな《異能》なんだ?」

「魔力が視える」

「魔力が視える……?」

「例えば、翔は赤いオーラに覆われてるから火属性なんだなってのが分かる。あとはオーラの強さで魔力量が分かるみたいだ。アルフレッドさんなんかは結構強く光ってるから魔力量が多いんじゃないかな」

「へぇー……それ、未知の敵相手には結構役に立ちそうじゃん?」

「翔みたいに戦える《異能》じゃないから、完全に脇役だけどね」

「んじゃ俺が戦ってやっからヤバイ敵が出てきたら教えてくれよな!」

「……翔は、戦うつもりなのか?」

「うーん、と戦うかはまだ分かんないけど、一切戦わずに生きていけるほど甘い世界じゃないだろうなーとは思ってるかな」

「確かに、その通りだな……」


 真一は眉を下げながら、翔にそう答えた。



 試行錯誤の結果、クラスメイトの内六人の《異能》が判明した。

 足が速いとか、力が強いとか、物を早く投げられるとか、スポーツに関する能力が多かった。

 残り四人はインドア派であるため身体能力に関する《異能》はないが、何かしら他のことに関する《異能》が発現している可能性が高いため、引き続き模索していくこととなった。


 また戦闘面についても真一達に突出した力はなかったが、未訓練で兵士に近い力を持っていることから鍛え上げれば結構いい所まで行くのではないかと言う結論になった。

 そのため騎士団長のヴェインをはじめ、戦闘力の高い騎士達が特訓をしようと申し出てくれた。

 実際他種族との戦争に加わるかは別としても身を守る力はあった方がいいという意見は満場一致したため、全員訓練を受けることとなった。

 ちなみに戦闘訓練は近接戦闘と魔術の訓練を並行して行うかたちである。


 本日は魔術を使ってみたいという声が多かったので、魔術の訓練となった。

 ただひとり魔術が使えない無属性の真一はまたもや顔から感情が抜け落ちていたが、魔術を使ってくる相手との戦いにも知識は必要だろうと話を聞くことにした。


 まず魔術とは、身の内に宿る魔力を放出するものである。

 放出された魔力は属性と使用者のイメージにより現象として発現し、魔術となる。

 ちなみにこの属性というものが重要で、無属性だと現象として発現しないため放出しても魔術とならずただ魔力が失われるだけだそうだ。


 魔術の使用回数は限られており、一回の戦闘で魔力Eでは三回程度、Dでは五回程度の使用が限界らしい。

 使いすぎると倦怠感に襲われ、魔力切れになると意識を失うため無茶は禁物だそうだ。


 ちなみに魔力Eの翔が放った火球は、防具に覆われていないところに当たればまぁまぁな火傷を負わせられるくらいの強さであった。

 あれを利き腕に食らうだけでも戦争では命取りであろうと考えると、剣や槍が主流なこの世界では割と強力な遠距離攻撃手段であると言えるだろう。


 魔術の解説が終わり、わーきゃー言いながら魔術を行使しているクラスメイト達をしばらく眺めていた真一であったが、これ以上眺めていてもあまり意味が無いと思い訓練場を抜け出して書物庫へ足を向けた。

 もちろん、影の薄い真一がいなくなっても気付く者はいなかった。

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