詩人の広場 第三回 前編

皆さま、明けましてというには少々遅いですが、明けましておめでとうございます!さて詩人の広場も三回目の開催になります。どうでしょう?そろそろこの奇妙な生きものたちの生態が見えてきたでしょうか?ますます、解らない?そうでしょうねぇ。知れば知るほど迷ってしまう。詩の世界と同じかもしれません。さてさて、今日はまた新しい顔ぶれがひとつ。(今回から小林素顔さんに加わって頂きました。ありがとうございます)

イブプロフェン詩集  作・小林素顔

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887428284

では皆さま、お楽しみください。


草月玲 さんより

他薦:

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885622721/episodes/1177354054885653580 …(「詩集」より)


帆場蔵人

ではでは第三回始めていきま〜す。まずは拙作からです。


『球体の僕』  作・帆場蔵人


深夜一時、痛む肋を押さえながら夜間診療の

文字を潜り抜け、診察待ちをしている

母子から離れて座る硬いシート


救急診療科の周囲は不自然に清潔で明るく

少し離れた片隅は薄暗く境い目は見えない


口から吐いて出る息は熱く

その度に僕の中の

熱は失われて身体は縮んでいくようだ


十歳の頃も

こうして病院の硬いシートに座って

足をぶらぶらさせて、うす暗い病室にいた

多分、母を待っていた


何故か灯りを点けもせず

夕闇が部屋にそろり、そろりと

這いいるのを気配に僕は手足を

少しずつ少しずつ丸めて夕闇の中で

球体になって幾年月か幾年月か

きっとまだあの病室の硬いシートの上で

僕は球体のままなのだ


時計の針が変わらず何者も刻んでいくなかで

無数の選択が僕と球体を隔てている


息を吸ったときの肋を

鷲掴みにされる痛みだけが

現実だと体内に鳴り響く


今は球体でない手足を動かして

這い寄る暗がりを払い、また片隅に追いやる


傷痕は残っている

深くもなく痛みもなく

ただ瘙痒感に苛まれる


あの少年と僕は連続しているのか

それともあれは暗がりに刻まれた

残滓か、逃避への手招きか


硬いシートの感触だけが

いつも重なりあっていく


ただ肋が痛いのと同じくらい

僕はあの球体の感触を知っている

それはこの頭の中の脳髄と同じ孤独

誰とも分け合えない感触だ


診察室の戸をくぐる


ドウサレましたカ


肋が痛むのです


ホカニは、ほかニハあリマセんか


肋だけです


瘡蓋に覆われた傷口の瘙痒感など

ひとにみせるものではない


そうして次はレントゲン室の扉をくぐる


放射線が細胞の隅々までつまびらかに

僕を解明していく


息を止めた一瞬、僕しかいない部屋を

また球体が横切っていく

あのまま消えてしまいたかった願望と

生き汚く存在する猿の変種たる人類の

癌細胞のような生存本能


病棟へと続くであろう階段は

非常灯の緑に染まり蒼白な手を伸ばして

あのときの病室への扉をくぐるとしたら

そこに終わりがあるのか


どちらにしろ先行きは暗闇のなかか

病院の外で響いたブレーキ音に足が

動き始める


待合室の硬いシートに座り

手探りの明日を待つだけだ


さよなら、球体の僕


◇◆◇◆◇


帆場蔵人

ぼくは丸まってますので、皆さん、始めてくださいね。詩としては初期作品ですね。


草月玲

この作品を選んだ理由は一つです。カクヨムに投稿される無数の詩の中で、私にはこちらの作品が一番印象深いからです。ただ、その理由があまりよくわからないので、この機会に皆さんの客観的な意見を聞いて理由を解明したいと思っております。


おきらく@雨いろプロジェクト

母子から離れて、というところに家族という概念と疎遠なのかな、とおもいました。あと孤独感がこの冒頭で一気に加速しているような。


帆場蔵人

こうしてみると大分、散文的にかいてますね。詩です!という詩句、があまり使われていない


小林素顔

孤独感が「球体」と「肉体」との差異で強調されている印象はありますね。つかみどころのない球体と、肋はじめつかみどころの沢山ある人間の肉体と。


草月玲

確かに、「母子」という語を除けば、孤独とか痛みとか、マイナスイメージの言葉と完全に切り離された言葉は前半くらいにしか見当たりませんね。「球体」という表現、私はとても個性的だと思います。痛みで丸まっている状態なんでしょうか? 何にせよ、排他的な形状ですよね。


草月玲

猟奇作家、氏賀Y太氏の作品「サエトユキ」を当時読んだばかりだったからかもしれませんが、とにかく私にはこの球体という語のインパクトが強いです。


帆場蔵人

テトラマト体を感想にあげてもらってましたね。たしか。


小林素顔

皆さんは「球体」という語から、どれくらいの硬度をイメージしましたか?

柔らかいとか、硬いとか、質感というか。


しづき(失言工房)

「今は球体でない手足を動かして」から、球体は手足のない状態、あるいは体のない状態というか、決まらない状態かと思いました。というのも最初に、私は「母を待っていた」を迎えに来る母ではなく、分娩台に横になった母だと思い込んで読んでいたからですかね。誕生前としての球体というか。


小林素顔

私は勝手に硬い殻のような質感を覚えていました。


おきらく@雨いろプロジェクト

球体というと手足がない状態あるいは手足が使えない状態なので、身動きができない。明日を迎えられないイメージもあります。そのあとさよなら、球体の僕とあるので、前に向いていくのかも。


帆場蔵人

だいぶ個々のイメージに相違がありますね。殻、胎児、、


草月玲

そうですね! テラトマ体のえもいわれぬ不気味さが、この球体に反映したんだと思います。私の場合。


草月玲

球体は、人間の皮膚が少し固まったような質感だと想像していました。


しづき(失言工房)

「時計の針が変わらず何者も刻んでいくなかで/無数の選択が僕と球体を隔てている」というのも時計の針に刻まれない、選択がない状態として球体が捉えられていると思ったり。


おきらく@雨いろプロジェクト

停滞と孤独と一筋の希望を感じました


おきらく@雨いろプロジェクト

球体に関しては私は木製の玉をイメージしてました。視覚的なイメージなのですが


帆場蔵人

ほう、木製の玉。

もう少し聴きたいです。木製


しづき(失言工房)

刻一刻と刻まれる現在の老いを感じるのですが、どことなく、私も希望を感じます。



おきらく@雨いろプロジェクト

木製でころころどこにでも転がれるような、けれど重みがあるためにうまく転がれないし、水には弱いし、固いけど弱い、といったイメージです。


帆場蔵人

固いけど弱い。脆さを抱えて丸くなっている。小林さんの殻のイメージも脆さなのかな?


草月玲

希望。確かに、最終文の「さよなら、球体の僕」をみて、脱皮ような印象もありますね。卵の殻を割ったとはまた違う、なんというかー生まれ変わるということではなく、状況からの脱却に成功した、みたいな。


小林素顔

私の殻のイメージは、金属ですね。硬質で冷たい感じがします。


おきらく@雨いろプロジェクト

みんな球体のイメージが違って面白いですね


草月玲

木製や金属というのは意外でした! でも、違和感ないですね。案外よほど場違いなものでなければ、何でも当てはまってしまうのでしょうか。……、いや、逆に球体そのものがシュールなので、それが何で出来ていてもしっくり来てしまうのでしょうかね?!


おきらく@雨いろプロジェクト

球体には人間じみた寂しさを感じますが、神秘的なところがあってなんにでもしっくりくるのかも??


帆場蔵人

この球体のイメージは意外と読み手に委託されているようですね。心理テスト的かもしれない。


草月玲

確かに心理テストっぽいですね(笑)。でも、最初に読んだ時のイメージから、今でも変わりません。その時の気分とかによって変わったりしないのが、また面白いです。


しづき(失言工房)

病院の入口をくぐる前は、深夜の月が煌々としていて、そこから白い(私には白い)球体のイメージが残って(以上は書かれていない部分の空想)、その時々の状況とリンクしていったという印象もあります。「蒼白な手を伸ばして」も老いたそれともとれ、また月光ともとれるかなと。


しづき(失言工房)

手で闇を払うんですよねこの主体は。そこに光るもののイメージもあります。


小林素顔

この詩には、「闇」や「球体」が、とにかく掴めないものの感じがして、一種の恐怖を感じます。


しづき(失言工房)

また時間を刻むのは大体昼で、夜はどこか時間(人間が計画的に動く)から抜け落ちたころですし。


しづき(失言工房)

恐怖


おきらく@雨いろプロジェクト

蒼白な手のイメージは、私は大人になってしまった少年の病に侵された手……的なイメージでした(若い感じかな、と)


しづき(失言工房)

恐怖といえば怖いのはこの詩の中では、医師の声ですかね。対話が人の時間を強調するのかも。


帆場蔵人

夜であり、夜間診療の病院という舞台は普段と違うものを垣間見る場所でもありますね。


しづき(失言工房)

ああ、たしかに言われてみると若いともとれそうです。


おきらく@雨いろプロジェクト

みなさんイメージが違っていて深みがありますね。


草月玲

肺結核みたいに、蒼白は病的な体の印かな、とか私は思っていました。医師のカタカナ交じりの言葉は狂気が滲み出ていますね。ただこれは、医師がそう発したからなのか、主人公の体調不良のせいで、聴覚が変になったからなのか……。後者でしょうか。


しづき(失言工房)

私のイメージは後者でした。聴覚というより朦朧として認知がゆがんでいるイメージ。


帆場蔵人

球体には手足がなく無力である。時を隔てた今は闇を払いのける手足が少なくともある、みたいな読み方もあるなぁ、と。読み返しながら、新しい読解をしてみたり。話者は大分、病気がちですね。幼い頃から。


草月玲

夜の病院って、私も小さいころ言って以来、いい思い出がありません(^^; ただやはり診療所とは違って、病院って当事者かその家族とかに「嫌なこと」が無いといくことの(あまり)無い場所ですから、その点では墓場や廃坑のように、万人が恐怖を感じるモチーフだと思っています。


草月玲

それ故「球体」が、私の場合は変な方向へ想像がいってしまったのでしょうか……


おきらく@雨いろプロジェクト

話者が幼い頃から病気がちだとしたらやはり母親との接触も少なかったのでしょうね……。母親というのはこの世界観で重要なポイントなのでは? と勝手におもってます。


草月玲

恐怖とか、孤独とかいったものとはほぼ反対の位置にありますものね、母親って。その一筋の希望のような言葉が後半出てこないので、暗い印象です。


草月玲

少なくとも母親という概念が、主人公の思考にはかなり干渉しているのだろうなと思い始めてきました


小林素顔

「さよなら、球体の僕」には、母性や懐古などの総てを振り切ろうとする覚悟を感じます。


帆場蔵人

母親はたしかにポツリと出て後半には現れないイメージですね。いやぁ、暗い少年時代だな。なるほど、振り切っていくイメージ。最初に希望と言われていた部分に入りますね。


おきらく@雨いろプロジェクト

超解釈したら語り手がアダルトチルドレンだというのもありかなぁと考えています。世界観にただよう闇とかもありますし。


小林素顔

病弱、未熟な感触はこの詩には通底している気がしますね。


しづき(失言工房)

病院というのが彼にとっては自分の命を守るもの(「不自然に清潔で明るい」)で、でもその"殻"を破って非常口から抜け出したい。でもそうするとより生存したくてやることが彼を死なすことになるような、うーん、まとまらない。逆転がある気がする。


しづき(失言工房)

病院の中に球体があり、そこを抜け出すことで球体に別れる。


小林素顔

病院を抜け出したいだろうなという印象は私も感じました。


おきらく@雨いろプロジェクト

球体とさよならしたあとの彼がどうなるのか、私には想像つかないです。こわいところですね。


しづき(失言工房)

守られて生きるか、殻を破って環境に晒されて死ぬるかみたいなイメージもちますね。


帆場蔵人

この最後の一行は感傷的過ぎるかと、悩んだ記憶がありますね。あまりいただけない、と。


帆場蔵人

あぁ、いま病院自体が球体化したイメージが湧いてきました。これはこれで面白い。あと、五分ぐらいで切りますね。


しづき(失言工房)

最後の一行は私きらいじゃない。


おきらく@雨いろプロジェクト

しづきさんの持たれたイメージすごく分かります……


しづき(失言工房)

やっぱり私はどことなく老いと胎児のイメージもそこに付随していますね。守られること、生きること。


小林素顔

私もしづきさんに一票。


帆場蔵人

いずれ推敲して奇譚詩コレクションとか作りたいですね。


おきらく@雨いろプロジェクト

コレクションいいですね!


しづき(失言工房)

でも、正直一人で読んだときはここまでのイメージはなかったですね。


おきらく@雨いろプロジェクト

病院というところ自体が生と死という運命を分かつところですよね。


草月玲

こういう作品探すの大変なので、作っていただけるとありがたいですね!


帆場蔵人

最近、書いたとても良い日、とかは近いかな。取り組みましょう^ ^


草月玲

(個人的に)色々な象徴が入り混じっている作品なので、それをどの順番で紐解いていくのかがひとそれぞれで興味深いと、改めて感じました


帆場蔵人

いま描くとかなり違う構成になりそうですね。


草月玲

どれくらい前に書かれたものなのでしょう?


草月玲

あ、4月ですか!


帆場蔵人

書いたのはちょうど一年前ですかね。投稿掲示板用に現代詩ぽくね?とわからないまま書き上げました。


おきらく@雨いろプロジェクト

一年前だとけっこう前ですね〜。


帆場蔵人

詩を書いて三カ月くらいでしたか。


帆場蔵人

さてさて、ではお次に進めていきましょうかね。


後編へ続く!

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