12話(グロ表現あり)

 ことはほんの数十分前、とある街人の悲鳴から始まった。



 小さく短いそれはしかし、平和の消え去ったこの王都ではもはや日常的に流れている雑音と変わらなくなっていて。そのせいか誰もが最初は―――またどこかで悪漢が、盗人が、盗賊が見境なく暴れているのだと気にしていなかったのだ。

 誰もが絶望に瞳を移し、秩序のあった頃を思い出しては嘆き、早く嵐が去ってくれないかと願いながら。


 ・・・けれど。

 収まるかと思われた短い悲鳴それは、消えることなく徐々に増えていく。それもそこかしこで、あらゆる人々の嘆声を響かせながら。

 やがて響くのは悲鳴だけでなく物が破壊される音、あるいはなにかの唸り声と数も増えてきた。



 ここでようやく彼らは気付く。―――いつもとは違う空気がこの王都を漂っていることに。







 それがモンスターの襲撃だと気づいたのは、いつの頃だっただろうか。

 それが惨事への幕開けだと悟ったのは、いつの頃だっただろうか。







 とある民家で何があったのかと無邪気な王都の子供が大人の静止を聞かず、隠れている場所から顔を出せば―――そこにはただ地獄が、災禍が、厄災の景色が延々と広がっていた。


 唸り声を上げて闊歩するモンスター。


 瓦礫を黒く染める鮮血。


 壊れていく何もかも。


 煌々と燃え上がる見慣れた家や店。


 黒煙の多く舞う空。


 炎が明るく照らし、見えてくる惨状。


 あちこちで聞こえる住民たちの悲鳴。


 跳ね上がる血しぶき。


 武器と武器がぶつかり合う音。


 肉を断つ音。


 ドシャリと"ナニカ"が投げ落とされていく音。




 そして―――無造作に転がっている、の山。

 鮮明に見えてしまうその光景は、悪夢として脳裏に焼き付かせるには十二分なものだった。








 のちにその子供はと言うと―――その場で発狂した末に、親ともどもモンスターの餌食となって物言わぬ骸へ変わったという。









 この光景に一体誰が、誰が平常心を持てるというのか。

 誰が瞳に色をなくすことなく、この光景を見ていられるというのか。



 この辺獄のような場所にその答えを出せる者はいない。

 ただ・・・誰かが出せるのだとしたらそれはきっと、この悲劇を作り出した元凶だけなのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る