10話


 かくして。

 会議にて決定された作戦は実行段階に入った。そのためにエンデリアの王城は追われるような忙しさを迎えることとなる。



 目に見えるような多忙を迎えたのは部隊編成を決める騎士団長や遠征指揮官に拝命したディック。そして、グラスウォール王国の土地勘を持っているグレイとスティーブだ。エンデリア王国を含む周辺国の地図がこちらにあるとはいえ地図には載っていない機密の道のりがあるかもしれないということで、国王より作戦本隊に抜擢されたのである。とはいえ今回は緊急事態ということもあって特別という形ではあるのだが・・・それはさておき。


 他にも慌ただしいことになっているのがエレミアとリフェイルの二人。

 エレミアの方は宰相や国王とともに今回の作戦にかかる費用や傭兵組織ギルドへと流す噂の統制、それから新たに届けられた情報の整理に追われており、一方のリフェイルはエンデリアの第一王子から王族の何たるかや心得などを学ぶ日々である。貴族間の作法においては侍従長自らが教師をつとめ、休憩や他の授業の合間を縫って教えているらしい。

 毎日が分単位の教程だがだからこそやりがいがあって楽しいのだと、食事の時間にリフェイルが楽しそうに話をしていたそうだ。


 その2つの集団間をこまねずみのようにチョロチョロ動き、情報共有しやすくしているのがジェシカである。彼女はというとエレミアたちの情報をディックたち作戦本隊に運搬したり、反対にディックたちの情報をエレミアたちのもとへ運んだりとまさに行ったり来たりして動き回っているようだ。他にも作戦にて使用する物資の調達に傭兵組織への顔出し、統制された噂の流布などできることを片っ端からやっていく姿が見える。

 彼女は彼女なりに動き、少しでも作戦がうまくいくようにと頑張っているようであった。




 ―――さて。肝心のレイラは何をしているのか、だが。

 彼女は彼女で侍女長やエンデリア王妃から淑女としての作法を、城にいるエルフの学者たちからあらゆる分野の勉強と自らの持つ力の探求を行っていた。他にも近衛騎士たちから武器の扱い方や体術・身の守り方を学び、城下町に降りては傭兵組織にいる魔導師たちに魔力の制御を教えてもらったりと慌ただしく動いている。

 ―――眼の前で生まれ育った故郷が、仲の良かった隣人たちが、助けてくれた恩人が儚くなった時の後悔と、何もできなかったことによる無力感が大きいのだろう。

 自身の力が少しでも戦力になれるようにと頑張っているようだった。









 毎日が飛ぶように過ぎていく。"グラスウォールの姫君復活"の噂はすでにいろいろなところで広がり、かの国から逃げてきたという者たちが接触することも増えてきた。さらには隣国のアルステッド王国も協力したいという申し出があり、さらに慌ただしくなっていった。グラスウォール王国から逃げてきた者たちはアルステッド王国やエンデリアの傭兵組織に保護されて、来る時まで英気を養っているそうだ。


 一度だけエンデリアの傭兵組織にレイラが顔を出したことがある。

 その時はちょうどグラスウォール王国から逃げてきたという者たちが傭兵組織の屋敷に何人かいて、レイラを見たとある老人から発せられた『不死鳥の乙女の再来』という言葉で屋敷内全体が沸き立つということが起こった。

 ""。その事実がグラスウォール王国の者たちに希望をともしたのだろう。




 そうしてさらに活気づく城下町。季節は巡って暑さのくどくなる夏に近づき、レイラの提言した作戦実行の日が迫るなか。

 まさに動き始めようとする一歩手前で、その""は音をも超える速さで駆け巡ったのだ。














 曰く、

 ―――――『魔力マナ調

 とのことだった。

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