空の境界線
華京院 あおい
第1話プロローグ
むせ返るような
その空母の
上空には、透き通った青空が広がり、雲がぽっかりと浮いていた。
やがて、空気を揺るがす
何十機もの機体が、まるで渡り鳥のように青空を
それを合図に、艦内から制服姿の少年少女が大勢出てくる。
彼らが全員甲板に並んだのを確認すると、おっさん顔の機関長が
「おまえらー!着艦した機体から
「「「はいっ!」」」
彼らは歯切れよく応答し、持ち場に向かって甲板を走っていった。
その様子を、
すると、その中の一人が集団から外れ、上甲板に向かって駆け寄ってくる。
「おい竣。見ないなと思ったらこんなところにいたのか。んでなにやってるんだ?」
と、彼、
「––––ん?ああ、ちょっと考えごとしててな」
そう答えた竣の前では、次々と戦闘機が機首上げ姿勢を保って飛行甲板に着艦していく。その度、艦上に鋭い風が吹き抜ける。
機体によって機速を充分落とすまでに
「考えごとって女の子か?」
悠人は
竣は彼をジロリと
「なんでいつもお前は、そっちに話を持っていこうとするんだよ!」
「なんでって、年頃の男が考えることのほとんどは、女の子のことだろ!」
臆面もなくそんなことを言う悠人に、竣は気圧されて口を開く。
「……まぁ、それは否定しないが、みんなお前ほではないだろうな。それに、俺はそんな事を考えていたわけじゃない」
「じゃーなんだよ」
「なんでお前に言わなきゃいけないんだ?」
「––––言えないような変なこと考えていたのか!?」
彼は友人の性癖を知った驚きに、表情をかえる。
「だからちがうって……」
この流れでこれを言うのはのせられたみたいで
と、そこまで考えたうえで、竣は言った。
「……ただ、この戦いはいつまで続くのかなっておもっただけだよ」
どうせからかわれるだろう、そう思っていた竣だったが、意外にも悠人は少しの
「……それは、みんな思っていることだろうね。だけど考えるだけ無駄な気がするよ。だってやつらがどっからきて、全部でどれだけいるのか、それを知ってるものは誰もいないんだかさ。それに、俺ら機関科は機体を直すだけ、戦ってるの
そう悠人があごで指した先には、誘導員が飛行甲板の側、白い列線が引かれた上に誘導した機体から、一人の少女が降りてくるところだった。彼女はステップから甲板に飛び降りると、その長い黒髪を磯風になびかせた。
彼女は航空校、航空科の生徒だ。航空校は位置ずけとしては学校だが、それは肩書きだけのまがい物だ。
航空科の主任務は、偵察や
ついでに言えば、艦上にいる誘導員は、後方支援科だ。
竣は視線を悠人の戻すと言った。
「何言ってんだよ。直しても壊れて帰ってくる、それをまた直す。その繰り返し、これもある意味終わりの見えない戦いだろ」
「それもそうだな––––––––ゲッ!」
彼はうなずこうとして下を見た瞬間、短い
何事かと、竣は悠人の足元––––上甲板の下を見る。
そこには、おっさんがいた。いや、正確に言えば、イカツイおっさんみたいな顔をした青年がいた。
「……げ、
悠人が、短い悲鳴を誤魔化すように言った。
「おまえらぁ!こんなところにで何やってんだ!よりにもよってこの
「「はいっ!!」」
二人は大声で返事をすると、上甲板から飛び降り、その場から逃げるようにして戦闘機の方に向かう。
「あの顔は歩く
歩きながら同意を求めてくる悠人に、竣はノーコメントと肩を
彼の投げた危険球を、竣はギリギリで
列線の上に並んだ戦闘機の前に、二人はたどり着くと、機体と一緒にリフトで艦内に降りていく。
艦内の格納庫では、すでに機関科の生徒が機体の修理に取り掛かっていた。修理音が
中に収められた機体の多くがひどいダメージを受けていて、戦いの激しさをものがたっているようだった。
悠人も同じ事を思ったらしく、
「最近、日増しに酷くなってるな」
と、横で言った。
「ああ、だけど俺たちが出来るのは、機体を万全にして無事に戻ってくるのを祈るくらいだ」
竣の言葉に悠人は
二人が驚いていると、
「ええいクソ––––ッ!!さっき戻ってきたばっかじゃねーか!また出動ってどうなってやがんだ!」
そして、作業に当たっていた機関科の生徒に指示を飛ばす。
「おまえらぁ!出せる機体から艦上に回せるだけ回せ!!」
「「「はい!」」」
彼らは、機関長の指示に従って散る。
竣と悠人も、リフトに出撃可能な機体を入れ替えて、艦上に上がった。四台あるリフトがフル回転で回っていた。
艦上に上がると、飛行甲板の側に並び直された機体に、艦内から出てきた航空科の生徒が、飛行前点検をしてから乗り込でいった。
機関科も点検をしてから出してはいるが、飛行中、ましてや戦闘中の機体トラブルは生死を分ける。故に航空科と機関科のダブルチェックが義務付けされている。
その機体はゆっくりと飛行甲板に回ると、中央に止まった。カタパルトが動作する。機関科の生徒が機体にそれをセッティングすると、機体は二発のジェットエンジンを唸らせ、青白い炎を吹き、ものすごい速度で射出されていった。
そして、一瞬のうちに空母の外に飛び出すと、
ここからは、一面に続く水平線しか見えないが、彼らには機体に搭載されたレーダーに映る敵影が見えているだろう。
上空を覆う何十機も機体が、複数の編隊を組むと、
大空に軌跡とジェット音の余韻を残して、海と空の境界線に消えた––––。
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