第51話 反乱

 ***


 百を超えるほどに打ち付けられた丸太が、とうとう城門を破った。嫌な音がして、先程までそそり立っていた城門の細い隙間から向こう側の曇り空が覗いた。


「今だ!一気に破れ!」


 イグの声が響き渡る。呼応するように、兵たちの叫びがうねった。押し広げられる隙間からなだれ込むように兵が駆け込んでいく。イグがわずかにこちらを見た。彼が小さく頷いた瞬間、ロタも走りだしていた。


 城門の衛兵を斬り、振り払う。恐怖はなかった。返り血がわずかに口に入り、嫌な鉄臭さが広がる。吐き気がした。でも、進むしかない。この生命が尽きるまで、燃やし尽くさねばならない。


 足を踏み出した瞬間、耳を破るほどの轟音がした。火の粉が散る。大砲だ。先ほどまで門を破る大木に向けられていた大砲が、今は人に向けられて火を吹いていた。近距離で使うものではないはずのその武器は、統制のとれていた兵を恐怖に落としこむのには十分だった。飛び散った土くれと石畳の破片がばらばらと降ってくる。防具を付けた腕を上げ、顔を守った。


 そのとき、自分が何故そこを見たのかはわからない。


 けれど、そこには彼女がいた。


 ロタの視線の先、小さな礼拝堂の露台には、エイラの姿があった。あれほどうるさかった場所から、音が消え失せた。止まった時の中、彼女から目をそらせなかった。彼女の向かいには、アスタルが立っている。何が起こったのか、わけが分からなかった――彼は剣を抜いた。


「エイラさん!」


 叫んだ瞬間、音が戻ってきた。ロタの声は騒音にかき消され、遠くはなれた彼女には欠片も届きはしない。だから、行かなければならない。戦いを抜けなければならない。再び轟音がした。土が、血が、飛び散る。全てをそこに残し、ロタは血に汚れた石畳を蹴った。

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