第32話 三日後
***
磨いても、古い鎧は鈍くしか輝かない。けれど、傭兵時代に死んだ仲間から引き継いだこの鎧は、何度も直しながら使ってきたから愛着もあるし、身体にも合っている。念入りに油を吹きかけ、堅いブラシで関節部をよくこすり、錆付きを落としていく。布で拭き取ると、ほとんど軋まなくなった。汚れた指も布でよく拭いて、綺麗になった兜を被ってみる。狭くなった視界には、ランタンの明かりで淡く照らされた部屋が浮かび上がる。
三日。三日後には自分はまたダナイの地にいるのだろう。ぶるりと身体が震えた。戦場の土は自分には合わない。傭兵でいるくらいがちょうどよかったのかもしれない。でも、この恐怖はきっとロタの味方だ。恐怖を感じるうちは、生きたいと思っているのと同じだ。
しかし、また考えてしまう。フレックが以前言っていた。自分たちを、逃げ出した背教者だという人がいたと。自分は逃げずに、命を散らしてでも神のため戦うべきなのか。
「……エイラさん」
死んだら、エイラが悲しむ。
そう思うと、自分が神のため戦うのか、エイラのため生き残るのか、どっちがいいのかわからなくなる。神は、人を大切にせよと言っていた。その人を、神自身の次に大切にすべきなのか、神と同じように思って大切にすべきなのかは、言っていない。
誰も、答えは教えてくれないのだろう。
「結局、会えなかったな」
兜を外しながら、小さく呟く。帰ってきたら会えばいい。ハイケにも、自分でそう言ったではないか。エイラも忙しいのだから、仕方ない。
ロタは立ち上がって明かりを消すと、ベッドに倒れ込んだ。
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