大罪人

のりまきさん

第1話 幸せ。

ボトッ。

頭が落ちた。

これで何回目だろうか。

ボトッ。

壊れた人形みたい。

これで何回目だろうか。

ボトッ。ボトッ。ボトッ。



「おい、聞いてるのか!?おいっ!」

同僚の声に僕ははっと意識を取り戻した。

彼が言うには今日で彼女と一年が経ったらしい。めでたいことだっと思うと同時に僕の中の悩みがまた大きくなった。

僕はみんなと同じような幸せを持って良いのだろうかって。

「じゃ、今日も行ってくるわ」

彼がマスクをかぶりながらそう言った。手にはちゃんと仕事道具が握られていた。まだ前の跡がこびりついたままで。



ザクッ。

こんな遠くまで聞こえてきた。今日は彼の仕事の日だ。彼の仕事は処刑人。罪を持つ人を裁く仕事だ。けどこの仕事に誰も誇りなんて持っちゃいない。この仕事に選ばれるのは前に罪を犯した大罪人しかいないから。逆に彼らはこの仕事を楽しんでる。合法で人が殺せるからだってさ。けど自分のやり方で殺せないのが不服らしい。彼ららしいなって思った。政府は大罪人にこの仕事をさせることで罰を与えてるつもりらしい。けどそんなの意味ないっていつも思ってる。

僕はなんでこの仕事に選ばれたのかわからない。僕は父親を殺した、それも無残に。そう言われてこの仕事をしている。けどまったく覚えていない。頭を半分に切って脳みそを見てもらっても構わない。僕にはその記憶がない。



そして僕の番になった。

僕はいつも通り大きな斧を取り処刑台に向かった。僕は最初この斧が振れなかった。小柄な僕の体にはこの斧は大きすぎたのだ。

処刑台に行くと、拡声器を持った男が高らかに罪を叫んでいる。観衆は皆、殺せ、殺せと喉が千切れるほど叫んでいる。この人が殺されるのか。無残に泣きながら必死に許しをこうている。僕は斧を振りかぶって一思いにおろした。

ザクッ。白菜が切れるような音。

ガギィーン。鉄同士が擦れる音。

それと同時に観衆から大歓声が沸き起こった。僕は何も聞こえちゃいなかった。



おつかれ。同僚が言った。

おつかれ。僕は機械的に応えた。

彼はうっとりとしながら今日の処刑について語っていた。彼が言うには落とした頭が下に落ちてイチゴをすりつぶしたみたいになったらしい。

ズキッ。

頭に痛みが走った。僕はそれに気づかないふりをしながらまた同僚と会話をした。

僕は決して殺人を楽しんでなんかいない。そう思いながら。



僕は昔からパンが好きだった。後1つ好きなことがあるが…忘れてしまった。

このパン屋は父親が処刑されたらしい。

何をした、なんて野暮な質問はしなかった。

僕はこのパン屋に何年も通っている。パンが好きって理由の他に、僕はここの店主と付き合っているからだ。

けど僕はこの人といて幸せなんて感じたことなかった。僕が手に入れてはいけない幸せだと思ったからだ。それでもいいって彼女は呟いた。それ以来僕はずっと彼女と付き合っている。幸せだって思わないけど…




今日も僕は仕事をする。

昔は1ヶ月に1回あるかないかだったが、今では毎日のように処刑がある。

罪を犯した人をどうするかは市民の投票で決まるからだ。

僕は処刑をするたびに思う。人間は皆、大罪人だって。心の奥底には止められない衝動があるんだって。

けど僕は違う。僕はそんな衝動に駆られたことはない。そう断言できる。

なんて考えてたら僕の番になった。

今回はとても小さな子だった。まるで昔の僕みたいに。

殺せのコールとともに僕は斧を振りかぶり、おろした。

無機質な音だけが響いた。

この子は何をしたんだろう。ズキッ。頭に痛みが走った。




次はこの子の父親。僕は斧を振りかぶった。

するとこの子の父親が叫んだ。

なぜ息子を殺した!?あの子は私に命令されて人を殺しただけなのに!

僕は斧をおろした。

ズキッ。

観衆からは大歓声が沸き起こっていた。

人々は皆、正義のためにと叫んでいた。

ズキッ。ズキッ。

頭が痛い。

ズキッ。ズキッ。

頭痛が止まない。

ズキッ。ズキッ。

いやだ。思い出したくない!



僕は反乱を起こした。

処刑された家族の怨念を身に守って。

同僚は自分は仕方なくなんて言ってた。

僕は無言で斧をおろした。

同僚は僕も処刑人なんて言ってた。

誰も信じなかった。

大罪人なんて信じてもらえる筈ないことは知ってた筈なのに。

政府の偉い人は市民だって罪を犯した筈だ!

私は!

なんて言ってた。

聞きたくなかったからサクッと殺した。

もう躊躇なんてしなかった。斧にはおびただしい血の跡が付いていた。

手入れしようなんて思わなかった。切れ味が悪い方が良いなんて思って。



僕は英雄になった。

みんなからたくさんの信頼を得た。

けど僕は進んで処刑人をまた選んだ。

まだまだ処刑しないといけない人は多いらしい。また処刑するたびに歓声があがる。

これでよかったのだ。

結局何も変わっちゃいないけど。

僕は幸せを手に入れた。パン屋の店主と結婚したのだ。僕は毎日幸せと感じた。

だって…

僕の好きなことは人殺しなんだから。

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大罪人 のりまきさん @Norimaki-Gohan

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