世界は透明で溢れている

ぽん

プロローグ

 みーんみんみんみんみん……


 セミの鳴き声が、私の町に夏を連れてきた。


 木の影のおかげで少し涼しいベンチに座りながら、そんなことを考える。


 あれから……あれから1年、1年が過ぎた。


 早い。


 早い。


 時間が過ぎるのは、とても早い。


 気がつけば、もう高校3年生の夏が始まろうとしている。


(夏……夏かぁ。)


 何気なく、一年前の記憶を思い出す。あの子が来るまで、きっとまだ時間がある。それまで、あの日々を懐かしんで思い出すのも悪くはないだろう。

 鞄から、炭酸水を取り出す。ぷしゅ と腑抜けな音を出して、私の鼻に爽やかな匂いを漂わせる。


 1口飲んで炭酸水を太陽に透かしてみる。


 炭酸水が太陽に反射して、キラキラしている。



 色はない。


 色はないが、



 透明だ。



 あぁ、本当に。世界は……世界は透明に溢れている。

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