第12話 初めての彼氏?

「ほらほら、ふたりとも。今日は学校に行くわよー」


 シルフィが、パンパンと手を叩いて割って入る。


「学校? 確かに学校も鳥居の近くだけど……」


「学校でも困ったことがたくさん起きてるでしょ? どうも魔族が学校そのものに巣食ってやりたい放題してる感じなのよね」


 なるほど、確かに「学校にくると身体が重い」とか「わたしの机だけぼろぼろ!」とか、校長先生が飼っていた愛猫もいなくなっているし、そういう声を聴く。


「休みの日に入って怒られないかな?」


 しかも、制服じゃなくて私服だ。

 けれど、亮がけろりとして言った。


「うちの学校、そういうのもゆるいぞ? 明らかに不審者ってわかる人間は絶対入れないけど、俺、警備員さんとも顔見知りだし、実際何度も休みの日に学校にきて遊んだりしてるしな」


「そうだったんだ」


 改めて、亮のアクティブさに感心してしまう。


「いざとなったら透明の扉を使うわ。魔族と戦っているところを第三者に目撃されて、退治しそこなったら困るしね」


 シルフィの言葉に、


「そうか、透明の扉っていう手もあったね」


 と、思い出す。


「今度ははがされないように気をつけないとね」


「そうだな。魔族って蝶の形をしてたからちょっと舐めてたけど、案外頭いいんだな」


「まあ、一応魔王の元で働いている魔族もいるくらいですからね。この世界で悪さをしているのは、その下っ端の下っ端のそのまた下っ端くらいだから、すごく力も弱いのだけれど」


「力が弱くてあれだけ抵抗されたんじゃ、こっちも油断してられないな!」


「そうだね、気を引き締めていこう!」


「おー!」


 三人で円陣を組むと、学校に向かった。

 学校の校門をくぐろうとしたとき、聞き知った声がした。


「あれ……? 陽真ちゃん……?」


 振り向くと、学校で一番の友だちの酒井(さかい)由(ゆ)貴(き)が目をまん丸くして立っていた。


「由貴ちゃん……! 由貴ちゃんも学校に用事なの?」


「ううん、わたしはたまたまここを通っただけだけど……陽真ちゃん、湯川くんといつのまに仲良くなったの? いままで一緒にいるところ見たことなかったのに」


 うわぁ、やばい!

 焦る陽真だったが、亮は冷静だった。

 にこっと笑って、陽真の肩を抱いてみせたのだ。


「俺たち、つきあってるんだ。これからも一緒にいることが多くなると思うけど、よろしくな!」


 うわぁうわぁうわぁ!

 男の子特有のにおいもするし、肩に乗った亮の手の熱さに、そしてその台詞に、陽真は真っ赤になった。

 だけど、つきあっていることにしたほうが魂の欠片を集めやすいのなら仕方がない。

 陽真はも、口裏を合わせる。


「そ、そういうこと……なの。昨日からつきあい始めたから、由貴ちゃんに報告が遅れちゃって……ごめんね」


 すると由貴は、ようやく合点したように笑った。


「なんだ、そうだったんだ! 陽真ちゃん、湯川くんのことあんまり気にしてないみたいだったから、陽真ちゃんの気持ちに気づかなかった! ごめんね。でも、こうして見るとすごくお似合いだよ! わたし、ふたりのこと応援するね!」


「あ、ありがとう」


「じゃ、わたし急がなくちゃならないから、またね!」


「うん、またね!」


 由貴が走り去っていき、姿が見えなくなると、亮はようやく陽真を放してくれた。


「なんかさすがにこういうの、照れるな」


 ははっと照れくさそうに笑う亮に、またまたドキリとしてしまう。


「湯川くん、こういうことして大丈夫なの?」


 ふと心配になって、陽真は聞いてみた。


「好きな人とか、いないの?」


「別になにも都合悪いことはないから心配するなよ」


 にこっと笑って、亮はそう言った。


「俺、いやなことは基本、しないタイプだから。いやじゃないからこういうことしてんの。だから、片桐は余計なことは考えなくていいんだよ」


「う……うん、わかった」


 そんなことをきっぱり言えるなんて、湯川くんって頼もしいんだな。

 なんてことを思いながら、陽真は亮と一緒に、今度こそ校門をくぐった。

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