ひなかご 3

 カミーユの婚約者の話が一段落ついたころに、訪問者がやってきた。

「お久しぶりです」

 庭へむかって投じられた言葉に、全員が驚いたように振りかえった。

 愕然とするエマにむかって青年ははにかむように微笑した。

「シリルなの?」

「ええ。お元気そうでなによりです」

 アランとエマに挨拶のキスをしたあと、シリルは強張った顔のカミーユにすこし笑いかけた。

「随分大きくなったなあ」

「それは、あなたも同じでしょう?」

 シリルの軽口に答えながら、カミーユは必死で自分の心を静めようとしていた。焦茶色の短髪に、はしばみ色の瞳。子供のころはもっときつい目をしていたような覚えがあるのに、今のかれのまなざしは理知的で柔和なものだ。

 シリルの笑顔が深まる。カミーユはさりげなく目をそらした。

 今の笑みは、似すぎている。カミーユはグラスの薄い黄色の液体を飲みほしながら、心のなかで呟いた。いまこの場を占めている微妙な空気は、シリルがかれの父親に瓜二つだという事実を裏書していた。だれもが次の言葉を切りだせなくて、お互いの動静を見守っている。

「婚約したそうだね。おめでとう」

 カミーユは立ちあがると、白ワインをグラスに注いでシリルに手渡した。

「セリーヌは元気にやってる?」

「元気ですよ。さいきんはバカンスにくるお馴染みさんがついたから、仕事に張合いがあるらしくて、ここにいるときよりも身体を壊してない。冬だけはこちらが懐かしくなりますがね」

「むこうはやっぱり寒いのかい?」

「ええ。光の色が違いますよ。ここはまるで南国だけど、ドーヴィルの冬はなんでも灰色に見える」

 食卓にシリルがつくと、皆はいっせいにドーヴィルのことや、シリルの現状について尋ねた。それに丁寧にこたえるシリルを横目で眺めながら、カミーユはシリルをそっと観察していた。シリルがかれの父に似ていると思ったのは、顔かたちだけではなく、髪形がまったく同じであることや、父と同じような白地に緑と茶のチェックのシャツを着ているからだった。

 シリルは胸ポケットから煙草をとりだして口にくわえた。紫煙を吐きだすシリルをみてちいさくため息を洩らす。ジォンは煙草を吸わなかった。シリルがアランとともに快活にわらいながら煙草の箱を手でもてあそぶさまを、カミーユは複雑な面持ちで眺めていた。

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