第29話 最後の戦い?

 ジェイルからもらったどデカイ盾と自作の釘バットで武装した俺の母さんは、ヴァンパイアサイレンの前に仁王立ちになると親しげに声をかけた。


「あらぁ、真島の奥さま。お久しぶりですわね。去年のPTAバザーの準備係になって以来かしら」


 端正な顔だったが、片方の目が潰れ噛み跡で血だらけになっているヴァンパイアサイレンは、残りの目でギロリと母さんを睨んだ。

 暗黒色の顔に人と同じ白目が光っているように浮き上がる。


「あら、あなたは力持ちの吉留さん」


 ヴァンパイアサイレンは、真島の母さんとして玄関で話をした時と同じ声で喋った。


「こんな所に何の御用ですの? まさかその不恰好なハンドメイド作品をバザーに出すつもりじゃないでしょうね」


「確かに見てくれは悪いですけど、工夫すれば使えますわよ。今から教えますわ」


「あら親切にどうも。使えそうだったら、お値段をつけましょう。今年のバザーに提出してかまいませんよ。誰が買うかはわかりませんが」


 近くにいた男たちが、刀を振り上げ母さんに挑んでいった。

 母さんは次々に左手の盾で受け止め──いや、刀を受け止めるのではなく、重い盾をぶつけて相手ごと弾き飛ばしているといったほうがいい。

 弾かれた敵は面白いようにくるくる回って倒れていく。

 二人同時に来れば武骨な釘バットの出番だ。

 片方を盾で始末している一方で、釘の間にもう一人の刀が挟まり、一瞬止まったところで盾の角をぶつけるのだ。

 盾がメイン武器である。


 ヴァンパイアサイレンが尻尾のムチを振るった。

 母さんは盾で防御しながら、相手の目が潰れている側の死角に回り込もうとするが、ヴァンパイアサイレンも死角に入り込ませまいとムチを唸らせ立ち回る。


 俺たちの周りも殺気立ってきた。

 俺は白銀の刃を構え、真島は腰に挿した刀の鯉口を切り、辺りに睨みをきかせる。

 父さんはグリップを握ってトルクを上げ、高鳴るエンジン音で威嚇した。


「ジェイル!」


 舞に呼ばれて、慌ててジェイルは両手で顔を覆った。


「見えない……。俺には『JCのワンポイント付き一分丈スパッツ』なんて見えない……」


 舞は庭の平らな敷石の上に乗った。


「さっきの記憶がまだバッチリ焼き付いてるわね。また操られたくなかったら、ジェイル! 手拍子をちょうだい。戦闘舞踊『妖精と英霊の謝肉祭カーニバル』。思い出しな!」


 戦闘をサポートする舞のダンスは強力だが、準備と効果が現れるのに時間がかかるのが難点だ。

 早目に用意しなければならない。


 ジェイルは固まっていたが、すぐに真剣な顔で一定の拍子を叩き始めた。

 叩く音も時に甲高く、時に低く奏で、掛け声も加えて気分が弾むようなリズムにさらに色を加える。


 舞はジェイルの伴奏に合わせて足を踏み鳴らし、手を振りはじめた──が、すぐに手拍子や足踏みの音が聞こえなくなった。

 ヴァンパイアサイレンが音を消すフィールドを張ったらしい。


 しかし、舞はニコッと笑って、さらに強く足で岩を打ち鳴らし、情緒豊かに腰や手を動かす。

 ステップは元よりつま先、踵と打ち付け方も変えて、地面から伝わる振動がより複雑な音階となって体に響く。

 音には聞こえなくても舞曲のメロディが体のうちから湧いてきた。

 いや、音が聞こえないからこそ、それ以外の感覚が冴えて曲を作り出しているのかもしれない。


 手や体の動きも視覚に捉えていると、神に感謝しながら祭りを楽しむ人々の情景が想像できる。

 舞のそばにいる俺たちの体が自然に揺れ始めた。

 いつのまにかこれまでの疲労感も取れていた。


 俺たちには心地よい舞のダンスは、ヴァンパイアサイレンに操られた男どもには動揺を与えていた。

 動きがぎこちない。自分もリズムに乗りたいが、体が言うことをきかなくてもどかしい──そんな風に身をよじっている。


 いつの間にか踊っている舞の足元に、大黒様のような風貌で太鼓を持った幼稚園児くらいの小人が二人並んでいた。

 舞の動きに合わせて体を動かしながらバチを振るっている。

 最初叩いている音は聞こえなかったが、音量のツマミをゆっくりまわしたようにだんだんと太鼓の音が大きくなっていった。


  祭りにゃ、太鼓じゃ、お囃子じゃ!

  祭りにゃ、太鼓じゃ、お囃子じゃ!


 気づけば、笛の音も加わって、横笛を吹く小人もひらひらと宙を舞っている。

 舞のダンスに誘われて湧いて出た小人というか、この小さい神様みたいな奴らの力で、ヴァンパイアサイレンの音のない空間をかき消してしまったのだ。


 俺は真島の顔を見た。

 真島とうなずきあい、二人で近くの敵に斬りかかった。

 真島は峰で次々に肩を砕き、手の甲を打ちつけて武器を持てなくして戦意を奪い、俺に斬りつけられて術が解け呆然となる。


「わ、私も行くか……」


 連携して動く俺たちを見ていた父さんが、もう一度バイクを走らせようと前かがみになった時、リズムを刻んでいるジェイルに肘で小突かれた。


「あんまり慣れねえ事すると、また爆死しちゃうよ」


「爆死? 私は、前世で爆死したのか⁈」


「それよりも、スマホでなんか音楽ならしてくれねえか? あんたが戦うくらいなら、俺がフリーになる方が役にたつ」


「音楽って、どんな?」


「ノリのいいやつならなんでも。姉さんなら、なんでも踊りこなすさ」


 父さんは自分のスマホを触ると、ロックテイストのダンスナンバーを選曲した。

 音量を上げて舞に向ける。


 舞はまたニコッと微笑むと、父さんが選んだ曲に合わせてダンスにアレンジを加えてきた。


 一緒に踊っている小人はどんどん数を増してきている。

 植木の陰から、地面の中から、空中から、あらゆるところから現れて「お祭りだ! カーニバルだ!」と騒いで踊りの輪に加わる。

 和風よりのもの、和洋折衷な風体のもの、楽器を持つものもいれば持たないものもいて、持たないものは舞の真似をして踊っている。

 独特な振り付けでノっている奴もいるが、それぞれみんな楽しそうだ。


 ジェイルは手拍子を止めた。周りに片手でクルクル回すナイフを見せびらかしながら、スマホで何やら指示を伝えている。


 ヴァンパイアサイレンが吠えた。

 精神攻撃。脳への圧と脱力感を感じる。


 舞がダンスを変える──切れ目なく『情熱のコンパス』。

 みんなもそれに合わせて手足を振る。

 抜けた力が蘇ってきた。


 母さんの攻撃をかわしながら、ヴァンパイアサイレンはさらに精神攻撃を加える。

 錯乱の波動がくる。

 俺は魔法の盾を作ろうとした。

 みんなは防げないかもしれないが、無いよりマシだ。


  お祭りの邪魔しないで!

  邪魔はいかんなぁー

  せっかく楽しんでいるのに……


 三人の小人が飛び出して、せーの!とヴァンパイアサイレンの前に大きなシールドを張った。

 完全に錯乱の波動が塞がれた。


  踊り場ができた!

  女神さま、来て来てぇ〜

  良き舞手がおりまするぞ!

  賑やかですぞ。良きおのこたちもおりまするぞ!


 操縦の錯乱には逸楽の乱舞を!──小人たちの呼びかけに応えて、辺りに花びらが舞い散り始めた。

 スマホから流れるアップテンポに合わせて、べべんべべんと楽器の弦が鳴り響く。


 わあ! と小人たちの歓声が上がって、踊りは一層激しくなった。

 彼らと舞はシールドに守られた真島家の庭中に散って、花びらを巻き上げながら踊り狂った。

 俺は盾を作りかけたまま、真島や他の男たちは武器を構えたまま、口をあんぐりと開けてただただテンションが益々高くなるダンスを眺めていた。

 見慣れている俺ですら、この戦闘舞踊のパワーには一瞬魂がどこかに飛んで行ってしまう。


 ジェイルは近くの男が持っていた槍を手からもぎ取ったが、自分なんて全く眼中にない相手に呆れ「ああ、こりゃ手応えねえわ。脳がイカレっちまったかねえ」と呟きながら、一応念のためと、小人たちの間でステップを踏みながら敵を締め落としていった。


 ヴァンパイアサイレンが翼をはためかせた。

 空に逃げる気なのか。体が浮き上がりそうになる。


「お待ちになって! 奥さまぁ!」


 母さんが、両手に持ち替えた盾をえいや!と魔物の足の甲に突き立てた。

 足を地面に縫いつけられ、浮力を失った魔物は怒りの爪を持ち上げた。


 母さんの頭上に落とされようとした爪を、間一髪俺が剣で受け止めた。


「うう……勇也ぁ」


 背中から感動する母さんの声が聞こえたが、無視。

 真島が居合で爪を切り落とした。

 振り向き再び切りつけようと鞘に収まった刀に手をかける。


「真島」


 俺は彼の決意を察して声をかけた。


「俺の刀で戻せるよ。仮にでも、飯作ってくれたり一緒に食べてくれる人は必要さ」


 ふんっと真島は不満げに鼻を鳴らした。


「飯は爺やの方が美味かったがな。ただの人になれば、もっと上手くなるかもな」


 魔物の背中に飛び乗った真島は、翼の根元を峰打ちした。

 魔物は短い悲鳴をあげる。弱点だった。


 動きの止まったヴァンパイアサイレンの顔に、俺は飛び上がって一太刀浴びせた。


 傷だらけの魔物は、悲鳴をあげた時の表情のまま固まった。

 黒い小山のようだった体がどんどん縮んでいった。

 それと同時に、操られた男たちも次々に倒れていく。


  おお! 我々の勝利ー!

  この場は私たちが乗っ取ったぁ!

  勝利の舞じゃ! 踊れーぃ!


 舞たちは止まることなくキレッキレに踊りまくった。


 その足元で、気絶した裸の女がうずくまっていた。

 真島家に来た時に庭にいた老人が、毛布を持って走ってきて女の上に被せた。


「この乱痴気騒ぎはいつまで続くのだ?」


 真島がため息をつきながら尋ねた。


 舞が戦闘舞踊を使うと、このようなどんちゃん騒ぎで戦場が収拾つかなくなって休戦という事がよくあるのだが、俺はこの混乱は嫌いじゃなかった。

 血が流れないに越したことはない。


「もう少ししたら収まるよ。戦闘舞踊は、だいたい召喚した妖精や神さまの力を借りるから、彼らが満足するまで付き合わないといけないんだ。ウィンウィンだな」


 真島はふーんと鼻をならしながら聞いていたが、それが終わると、少し言いにくそうに目を逸らしながら言った。


「なあ、来るよな、あっちに。俺、お前と一緒に戦いたいんだ。楽しいし」


 俺はついニヤリとしてしまった。


「最初からそう素直に誘えよ。ごちゃごちゃゴタクを並べないでさ」


 真島もニヤリとして頷いた。

 それから、毛布に包んだ傷だらけの母親を、よいしょと小さく掛け声をかけて抱き上げた。


「爺、布団を敷いてくれ」


 老人が屋敷に走ろうとする。

 俺はふと、魔物の気配を感じて反射的に刀を構えようとした。

 この老人も魔物の記憶を持っている。

 どうやってヴァンパイアサイレンの術を免れたのかは分からないが。


 カチャリとなった刀の音に老人は気づいて、丁寧に頭を下げた。


「私は脆弱な魔物でございました。でも、前世からこの世まで、ずっと魔王様の味方でございます。記憶を持っているほうが、お役に立つこともあると存じます」


 真島の信頼を得ているようだったので、俺は刀を下げた。

 老人は一礼して走っていった。


「あ、私も奥さんの手当てを手伝ってくるわ」


 母さんは真島を支えながら、一緒に屋敷へ歩いていった。


 さて──俺は周りを見渡した。

 ロックテイストの曲が一曲終わって、小人たちはよりスローなナンバーに体を揺らしている。


 小人たちの間に、ヴァンパイアサイレンの錯乱で気絶し操られ、俺たちに無力化された敵が、累々と倒れている。

 ジェイルに絞め落とされた奴も何人か。


「おーい、ジェイル」


 俺はジェイルを呼んだ。

 頭をかきながらまたスマホで何か話しているジェイルがこっちを向いた。


「回復魔法が使えるの俺とお前しかいないからさ。しかも、俺まだそんなに強いの使えないし。こいつら治すの手伝ってくれよ」


 ジェイルがスマホをきってから、こっちに寄って呟いた。


「さすがにこの人数じゃ、二人は少ないな。せめて魔力回復のダンスでも見せてくれないとな」


 舞が微笑みながら別のダンスを披露した。

 お望みの魔力を少しずつ回復する、ちょっぴりエロティックなダンスだ。

 小人たちがヒューヒューと口笛を吹いた。


 俺は真っ先に安永のところへ行った。

 ダロスはいなかったが、安永は相変わらずニヤニヤしながら寝ていた。


 安永の擦り傷を治した後、俺とジェイルは舞のダンスのサポートを借りながら、夜がとっぷり暮れるまで、倒れている奴らを回復し続けることになった。


 父さんは初めて見る魔法に感動しながら、踊り続ける舞や俺たちに飲み物を運んでくれたり、治した人を道場に運ぶ手伝いをしてくれた。




        × × × × ×




 その後、俺と舞と真島、安永は、母さんの車に乗って、父さんの喫茶店『緑林亭』に集まった。

 父さんは自分のバイクで先に帰った。


 大活躍した俺たちは、腹が減って腹が減ってもう一歩も動けないような状態だったので、父さんが何かご馳走してくれるということになったのだ。


 ジェイルは現場や警察署での事情説明があるとかで来なかった。


「俺、絶対、何とかファイルのある未解決事件専門部署みたいな所に飛ばされるな。人間相手が気楽だったんだがなぁ……」


 ジェイルは自嘲気味にそう言いながら、俺たちを見送った。


 緑林亭は喫茶店だから、そんなに手の込んだ料理はない。

 でも、父さんはありったけのパスタを茹で、ピラフを炒め、サンドイッチの具で作ったサラダとハムを盛り付けていた。


 俺と真島と安永は、出てくる順番にほとんど秒で平らげた。

 とにかく体がエネルギーを欲していて、食べ物が現れると自動で口と手が動く。

 そんな奴が三人いるのだ。何を出してもすぐゼロになる。


 母さんは、近所の弁当屋からおにぎりと揚げ物のオードブルを買ってきてくれた。

 それもすぐに侵食されていく。


 シャワーを浴びに二階に行っていた舞が悲鳴をあげた。


「あたしだって踊りっぱなしだっつうの!」


 舞、お冷やを片手に参戦。俺たち三人を押しのけながら食べまくった。


 トンカツやハンバーグやフライドチキンを頬張り、父さん作り置きのケーキやジュースやアイスで流し込む頃、ようやく落ち着いてきたのか、真島は俺たちを連れて行かなければならない理由を、まだ直接話していなかった父さん、母さんに簡単に説明した。

 勿論、安永も聞いていた。もう隠していられない。


「すっげー! 俺も行きたい! 行く日教えてよ」


 安永は話をなんの抵抗もなく信じて、食べカスを飛ばしながら叫んだ。


「行ってどうすんだよ。簡単に言うけど、どんな目にあうかわかんないんだぞ」


「大丈夫だって。アリサ姫いないかなぁ」


 心配する俺の言葉も気にならないようだ。

 どこからこんな自信が出てくるのだろうか。


 真島はバニラアイスを食べながら話しを続けた。


「まあ、こいつが行くかどうかはともかく、連れて来なければならないメンバーはいなくちゃいけないんだ。人間側の最強パーティーをな」


 一人で行くほうが気楽な気はするが、一人ではどうしようもない時もある。

 今日はそれを思い知った日でもあった。


 真島が指を折りながら数えた。


「勇者アトレウス」


 これは俺。


「舞踏家ミーナ」


 これは舞。今、ケーキを爆食している。

 どんな世界でもノってしまえば最強だ。


「戦士レグルス」


 これは母さん。

 母親になった今も、戦闘力は衰えてはいなかった。


「盗賊ジェイル」


 同意はもらっていないが、ついてくるだろう。

 舞がいる限り嫌とは言わせない。

 今度こそ、本物の魔王を撃ち抜いてほしい。


「魔法使いカーナ」


 ……?


 俺たちは一斉に互いの顔を見合った。


「カーナさん、どなたですかぁ?」


 安永がのんびりと呼びかける。


 カーナ……カーナ!

 魔法使いカーナ! すっかり忘れていた。

 いや、どちらかといえば、忘れていたかったと言った方がいいかもしれない。


「あ、もしかして俺かなあ」


 安永が笑いながら自分を指す。


 いやいやいやいや、ふざけんなよ──俺と舞と母さんは苦笑しながら首を振る。


「も、もしかして、それが私かな……?」


 父さんが恐る恐る自分を指す。


「その人、爆死してます?」


 いやいやいやいや!──俺、舞、母さんは、必死に首を振った。


 魔法使いカーナ。

 人間でありながら聖属性だけでなく魔属性の魔法も使いこなす謎の婆さんだ。

 カトレア姫が産まれた時ふらりと城に現れ、祝福を与えて以来行方不明になっていたが、ある日再び急に現れ、勝手に仲間に入り、勝手に暴れまわり、勝手に活躍していたババア!


 強いのはいい。大歓迎だ。

 聖属性だけなら俺の方が力は上だが、彼女はあらゆる魔法を扱う専門家で博識だった。


 だが、性格も我が強く、気まぐれだった。

 集団行動で一緒に動くなんてもってのほか。

「年寄りだからついていけないんじゃ」なんていう理由じゃない。

 突然戦場に現れて白髪をなびかせながら、ドレスとハイヒールで決めたキャットウオークで歩きまわって魔法を放つのだから。

 こっちの作戦はほとんど無視する参謀泣かせだった。

 カトレア姫の事には真面目に取り組んでくれたから、最後の作戦にはついてきてくれたが……。


「困ったな。この魔女は是非連れてこいと、ダロスが言付かっているみたいなんだが……」


 母さんがあっと声をあげた。


「もしかして、今から産まないといけないんじゃ……」


「「「ええー!」」」


 俺と舞と父さんが一斉に叫んだ。


「今から夜頑張る⁈」


「妹ができるの? 何歳差? あ、弟かも……」


「戦力になるまで何年待てばいいんだ⁈ それに、もっと大人しい兄妹がいい! 選ぶ権利はないのか? これ以上は勘弁してくれあだっ!」


 テーブルの下で舞からの蹴りが俺のスネに入った。


「まあ、まずは周りを探してみたほうが賢明だろうな」


 真島が冷静に言う。


「心当たりはないか。似たような人物はいないか。変わった噂はないか。あっちのほうに行くのは、この人物が見つかってからだな」


「ええー! まだ行かないのー!」


 安永ががっくりと肩を落とした。


「なんでお前ががっかりするんだよ。一番関係ないだろう」


「せっかくデスメサみたいな世界に行けるかと思ったのに……」


 安永の気楽さが本当に羨ましい──俺は心底そう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る