終わりを告げる調べよいつか

かずほ

第0話

 やけに夕日が印象的だった。

 大地を朱に染めるその色だけが鮮烈だった。


 そこは戦場だった。


 命尽き、積み重なり、散らばった骸すらも夕日は朱に染め上げた。

 その地に流れた血も涙も、同様の色に染め上げた。


 そのそのただ中に一人立つ者がいた。


 項垂れた姿勢で動く事のないその身の内では、確かに鼓動が脈打っていた。

 顔色に生気なく、その瞳は茫洋としている。

 垂れた両手の指一本動く事なく、生を共にした武器を落とす事こそないものの、引き金には指がかかっていてもそれを引く事すらなかった。


 荒涼とした風が埃と血に塗れた髪を嬲る。

 されるがまま、動く事のなかったその眼が動く。


 朱に染まった大地にするりと風が一つの白を運んだ。


 それが合図であるかのように、しんしんと降り出したソレは羽根だった。


 現階と呼ばれるこの世界の上位にある天階の存在の振らせるが故に下位の世界の発する色に染まらぬ羽は、際立った白をその眼に焼き付ける。

 地面に触れると溶け消えるそれは、浄化の羽根だ。


 大地を癒し、新たな命を育むそれは、決してヒトを癒す事はない。

 彼らの祖が神の加護を放棄したがゆえに。彼らの祖が禁忌を犯したがゆえに、ヒトが神の運命を拒んだが故に。


 かさついた唇がわずかに動く。


 お……


 無音の中に一滴たらされた、そんなかすかな一音だった。


 おおおぉぉぉ……


 一音は更なる音を連ね、重なった。


 風が空洞を吹き抜ける音に似たそれは、たった一人の生き残りの怨嗟であった。


 音は声になり、声は呻きとなり、呻きは嘆きとなり、嘆きは咆哮へと変わった。

 天から降る白に向かって咆えた。その白をまき散らす光の眷属に向かって吼えた。

 光の眷属をこの地に遣わした「父」と呼ばれる存在それに向かって吠えた。


 空を仰いだその頬を伝うのは血か、涙か。





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