種付けおじさん vs. 異世界魔王

ちびまるフォイ

肌色の異世界侵略者

「おお、神よ!! 偉大なる神よ!!

 どうか無力な我々に救世主をお呼びくだされーー!!」


超高等儀式魔方陣を何重にも重ね掛けされ祈祷され、

ついに煙とともにソイツはやってきた。


「あなたは……」


「私かい? 私は――」



「種付けおじさん、だよ」



召喚魔術に参加していた全員が凍り付いた。


「あの、私たちは我々の世界を救って下さる救世主をですね。

 ここにお呼び立てしたんですけど……」


「そうか、私のことだね」


「いやわかってないでしょ!?

 この世界は魔王によってすでに半分以上の人が死んでるんですよ!?

 いったいあなたに何ができるっていうんですか!?」


「種をまくことくらいかな」


「ふざけないでください!!」


「平和の種を、さ」


種付けおじさん、スタンドアップ。



ドラマチックでセンセーショナルな登場を決めたそのころ、

世界を手中に収めていた魔王は爆笑していた。


「あははは! 人間どもヘマやらかしてるわ!」


魔王は投影された魔法ビジョンを見て何度も笑った。


「大陸の全魔力を使って何をしでかすのかと心配した自分がバカだったわ。

 あんな普通の人間を呼び寄せただけなんて、ホントおろかね!!」




――それはどうかな



「殺気!?」


魔王は強烈な殺気かれいしゅうを感じ取り振り向くと、

種付けおじさんがすでに背後に回り込んでいた。


「ば、バカな!? あの厳重な門をどうやって!?

 いや、それにお前はさっきまであの町にいたはず!!」


「知らないのかい? 種付けおじさんは魔法が使えるんだ」


「なに!?」


「常に女性の背後を瞬間移動して回り込める魔法がね」


「バカな……!! 瞬間移動だと……!?」


「どんなシチュエーションでも、どんな状況でも神出鬼没に現れる。

 それが種付けおじさん。

 もっとも、瞬間移動の負荷で全身の毛は抜けて服ははがれてしまうがね」


魔王は女性の天敵を前に、生理的な嫌悪感から戦闘モードに入る。

全裸でハゲの男をこいつはヤバイと本能的に感じていた。


「面白いな人間。どうやらその瞬間移動がお前の自慢のようだが、

 ぺらぺらとしゃべってしまったのはお前のミスだ!!」


魔王は杖を振りかざすと、あたりの魔法の結界を作った。


「見たか! これが我が究極遮断魔法【ヴァルハラ】!

 瞬間移動でもこのバリアを突破することはできない!!」


「ふふ……」


「なにがおかしい」


「こんな結界……、数多の法律けっかいを破ってきた

 種付けおじさんに効くとでも思ったのかな?」


種付けおじさんは結界に向かって走ると、高くジャンプした。


「貴様! 何をする気だ!!」


「必殺!! 種付けプレスッッ!!!」


種付けおじさんは結界に全身をたたきつけた。

結界は1度目は阻んだものの、壁面にくっついたおじさんが何度も体を打ち付ける。


「おら! ハラめっ! ハラめっ! ヴァルハラめぇぇぇ!!」


ボコォ!!


『らめぇぇぇ!!』


ついに結界は種付けおじさんによって破壊けがされてしまった。

これには魔王も嫌な汗が流れる。


「なるほど……ただの人間じゃないってことね……!」


「私は種付けおじさんだ。覚えておくといい」


「我は人間などに絶対負けない!」


今にも負けそうな言葉を発した魔王だったが、

戦闘姿勢は本気そのもので魔方陣を同時にいくつも展開した。


「さぁ、瞬間移動でもなんでもしてみるがいいわ。

 どこに隠れようと、何をしようと、この魔法がお前を射抜くわ。

 お前1匹ごとき倒すのなんてわけないのよ」


「君は種付けおじさんの本当の恐ろしさを知らないようだね」

「えっ……!?」


種付けおじさんが腕を動かすと、2人目の種付けおじさんが出てきた。


「そんな!? いったいどこから!?」


「種付けおじさんはね、自分の種で自分を増やすこともできる。

 そして、都合や状況に合わせていつでもどこでも分身できるのさ」


「う、うそ……!?」


1人でも脅威だった種付けおじさんが今や部屋を圧迫するほどに増えていた。

だらしない体つきなのに、圧倒的な威圧感を誇る。


「「「 待たせたようだね。ではおっぱじめようか……! 」」」


「あわわわ……!」


魔王は恐怖のあまり言葉を失ってしまう。

初めて心から『死』を実感した。


「「「 いくぞ!! 即堕ちアターーック!! 」」」


「いやぁぁぁーーーー!!」


 ・

 ・

 ・


魔王の悲鳴を聞きつけて魔物たちは部屋に駆け込んだ。


「魔王様!! 魔王様、無事ですか!!」


部屋にかけつけた魔物たちはその惨状に目を疑った。


「魔王様……」




「あ、うん。私は大丈夫。こいつらはみんなやっつけたわ」


「さすがです、魔王さま! この種付けおじさんどもを

 いったいどんな究極魔法でやっつけたんですか!?」


「えっと……普通に室温をめっちゃ下げただけなんだけど……」


魔王は折り重なるようにして倒れている裸の種付けおじさんを気まずそうに見下ろした。

種付けおじさんは最後の力を振り絞って、言葉を告げた。




「やっぱり風邪には勝てなかったよ……」

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