第3話

「いたたたた!!だから痛いのよ!もういい加減にしなさいよ!」


 相変わらず状況は変わらず、敵の攻撃を幼女イジッテちゃんの陰に隠れてしのぐ僕……心が痛む!


「あのさ、このままだと じり貧だから、攻撃を防ぎながら敵に接近して斬るとか、そういうのやりたいんだけど……上手く息を合わせて移動できます?」


 少しでもこの状況を打開する方法を探したい。


「いや、盾なんだから私を持ちなさいよ。ちゃんと背中見てよ痛っ!」


 背中…?よく見ると、背中の中心に出っ張りのようなものがあり、出会った時から着ている白いワンピースを僅かに盛り上げている。


 っていうか、チャックが付いてる…?

 横向きのチャックだ。


「これ、開けていいの?」


「いいわよ、開けるためのチャックなんだから痛っ」


 な、なんだろう、ドキドキするな……幼女の服の背中のチャックを開けるという背徳感!!


 幼女の!!背中の!!!チャックを!!


「いいから早く開けなさいよ!!痛いっ!」


 もはや語尾が「痛っ」みたいになってるイジッテちゃんに言われて慌てて開けると……取っ手が出てきた。

 どうやら、背中から直接生えているらしい横向きの取っ手だ。


「もうちょっと下にもあるから、そっちも開けて」


 確かに、腰のあたりにも横に開くチャックがあり、そちらを開けると、上のものより少し大きめの取っ手が出てきた。


「そこを持てば、私の持ったまま移動できるでしょ?」


 ……あ、なるほど!腕を入れるのか!


 腰のあたりにある大きな横向きの取っ手に下から腕を入れ、背中にある取っ手を掴むと……なるほど、これはまさに盾の持ち手だ。


 よし、これなら持って移動が出来る―――


「はぁん!」


 ……ん?なんだか艶っぽい声が…。


「ば、バカ!取っ手の部分は敏感なんだぞ!もっと優しく…あはぁ!痛い!いやん!」


 相手の攻撃に痛がりつつも色っぽい声を出すイジッテちゃん……え、何この状況。


「もっ…もっと繊細に扱いなさいよばかぁ…!痛い!あはぁん!いたたた!!いやんっ!」


 戦場に響く悲鳴と嬌声!なにこれほんともう。


「ちょっと!!ちゃんとしてよ!このままだと私、痛いのと気持ちいいのが混ざって最終的にドMに目覚めるわよ!それでもいいの!」


 人生で初めてそんな怒られ方したな……けど……


「……まあ、それはそれで?」


「やっぱただの変態じゃないのアンタ!!」


 とは言え、このままでは戦いづらいことこの上ないし、なにより、モンスターの皆様がさっきよりさらにざわざわしておられる。


「あの野郎、幼女に後ろから何かして、感じさせてやがるぞ!!」

「盾にするだけでも鬼畜なのに、さらに背後から性的なイタズラするとは、とても常人の思考回路とは思えないぜ!!」

「あんなにも攻撃を受けているのに、その状況で感じさせるなんて、どんなテクニック持ってやがるんだ!」

「そもそもこの状況すらプレイなんじゃないか!?俺たちはプレイに利用されている!なんてハイレベルなプレイ、なんてハイレベルなご主人様! で、弟子入りしたいぜ!どんな調教をしたのか教えて欲しい!」


 ……最終的に尊敬を受けた!!

 倒しに来たはずのモンスターから!


 しかし、そんな話を耳にしている間に少し落ち着いてきたのか、イジッテちゃんからは高い声が聞こえなくなってきていた。


「もう大丈夫?」


「……ふぅ~~~……なんとかね。さあ、行くわよ。とっとと終わらせましょうこんな戦い」


 汗で濡れた髪をかき上げたイジッテちゃんの表情は、戦いに向かう戦士のそれだった。

 伝説の盾……そう呼ばれて数々の戦場を渡り歩いた歴史が嘘じゃないと、そう思わせるに十分な強い瞳。


 それを見て、僕も覚悟を決める。

 冒険者としては駆け出しだが、剣術の練習は人一倍やってきたはずだ。

 行ける!行ける!!覚悟を決めろ!!


 背中の持ち手に力を込めて、イジッテちゃんを持ち上げる。


「んっ…」


 軽く声が出たが……大丈夫そうだ。


 それにしても、思っていたよりもだいぶ軽い。

 重量感はそれなりにあるが、盾としてはそれほど重い方ではない。

 人間だとしても、この身長の女の子だと考えるとだいぶ軽い。

 敵の攻撃に合わせた機敏な動きが出来そうだ。


「じゃあ……行こうか!!」

「つまらない戦いするんじゃないわよ!伝説の盾の所有者!」


 イジッテちゃんを左手で持ち上げ、右手に剣を構えて、モンスターへ間合いを詰める!


 獣人型のモンスターが鋭い爪を振り下ろしてきたのを、盾で防ぐ!!

 以前一人で戦った時は、その衝撃で身体が吹き飛ばされるくらいの重さだったが、イジッテちゃんが衝撃をある程度吸収してくれているのか、耐えられる!


「さっすが伝説の盾!」


 相手の攻撃後の隙に、剣で斬りつける!!


「ぐああ!!」


 深く入った!効いてる効いてる!


 しかし、その隙に別のモンスターが、右側、盾の反対側から攻撃を仕掛けてくる!


 やば……っ!


 しかしその攻撃は、甲高い金属音と共に弾かれる。


「油断しないの!」


 イジッテちゃんが、腕を伸ばしてガードしてくれたのだ。


 それを理解した瞬間、返す刀でそのモンスターに反撃!!


「助かったよ!」


「私が何のために人間の形になったと思うの?自分の意志で、あらゆる方向からの攻撃を防ぎ所有者を守る……それが、盾の究極系だと思ったからよ!」


 その言葉が真実だと実感するのに、それほど時間はかからなかった。


 モンスターの攻撃を、身体で、腕で、脚で防ぎつつ、時には敵の武器を掴んでへし折る。


 防御はイジッテちゃんに任せて、僕は攻撃に専念することが出来る。


 凄い……まるで長年連れ添ったパートナーに背中を預けているような安心感、信頼感!これならイケる!!


しかし……そのまま、敵を大半を倒して、もう残り僅かだと思ったその時……敵の増援が現れた。


「うへぇ…キッツいなぁ」


 思わず漏れた本音に、イジッテちゃんの檄が飛ぶ。


「しっかりしてよ、私は盾だから攻撃は出来ないのよ。敵の攻撃は私が防ぐし、私は絶対に壊れない。だから頑張りなさいよ」


 そう言われてもなぁ……ん?


「今、絶対に壊れないって言いました?」


「……なによ、なにその突然の敬語。嫌な予感しかしないんだけど」


 あからさまに怪訝な顔をするイジッテちゃんに対して、僕はと言えば自分の悪魔的な発想にニヤニヤしている。


「ちょっと、この剣持っててもらえます?両手で」


「なによ、聞いてなかったの?私は攻撃は…」


「いいからいいから、それを持って、ここに寝て?」


「はっ?ここって何よ、ただの地面じゃないのよ」


「いいからいいから」


「なんなのよまったく……」


 不満を言いつつも、横になってくれるイジッテちゃん良い子。


「僕さ、実は風の魔法もちょっと使えるんだよね」


「それで、あのモンスター全員吹っ飛ばせるの?」


「まさか、そんなに強い魔法じゃないよ、人間一人ちょっと浮かす程度のちっさい竜巻を作れるくらいさ」


「じゃあいったい……って、ちょっと何してるのよ!」


 会話をしながら僕は、イジッテちゃんの両足を、両脇で抱えるように持ち上げた。


「この状況でパンツ見ようっての!?私ワンピースなのよ!?」


「見るっていうか、出るよね」


「は?何を―――」


「ごめんねー、剣ちゃんと持っててねー」


「ちょっと、ちゃんと説明をぉぉぉぉおおーーー!?!?」


 僕は、イジッテちゃんの両足を脇に抱えたまま持ち上げて、グルグル回転を始めた。

 遠心力でイジッテちゃんの身体が水平になり、僕を軸とした、剣を持ったコマのようなものが出来上がる。


「そしてここでーー風の魔法!」


 小さな竜巻で体を包み、回転力を上げる!


「待って待って!!凄い見えてる!!パンツ超見えてる!っていうか出てる!!もはやパンツとかじゃなくて、上半身もほぼ出てるんですけど!」


「出るって言ったじゃん」


「言ったけど了承してないよね!?私それ、了承してないよね!?」


 風の向こうから聞こえる声を無視して、僕はそのまま敵の群れの中へと突っ込んだ!!


「うぎぁぁぁーーー」

「なんだこの狂った技はぁぁーー!!」


 敵の阿鼻叫喚が響き渡る。


 僕の予想としては、剣で相手を斬りまくれると思ってたけど、イジッテちゃんの握力が思った以上に弱かったので、かなり早い段階で剣はどっかに飛んでった。


 しかし、それも計算のうち。


 絶対に壊れないというイジッテちゃんで、ただひたすらに回転しながら敵を殴る!!


「こ、こいつ!!盾にするだけじゃなくて、幼女で殴ってきやがった!!」

「ち、ちくしょう!なんて非道な!!幼女を武器にするなんて、人間のやることじゃねぇ!!」

「鬼だ!!こいつはきっと人の形をした鬼だぁぁぁーーーー!!!」


 数分後、敵は全員地面に倒れたり、逃げたり……もうこの場で立っているのは僕だけだ。


 そう、掴んだのだ、勝利を!!


 幼女で敵を倒したぞ!!


 呪文を解いて、ゆっくりと回転を止めて、イジッテちゃんを地面に下ろす。


 着ていたワンピースは完全にめくりあがり、パンツどころか首元までめくり上がり、スカート部分が完全に顔を隠している。


 良かった、ブラしてた、最低限のマナーは守れたな(?)


 しかし、僕も回転のせいで目が回り、ふらついて倒れそうになる。


「うおっと…」


 イジッテちゃんの体の上に倒れそうになったので、慌てて体の両側に手をついて、四つん這いのように形で耐える。


 ……けどこれはこれで、傍から見たら裸の幼女に覆いかぶさっているように見えるのではないか……誰も見てませんように。


「……あんた、なにしてくれてんのよ…」


「………名付けて、ローリング幼女…うぷっ」


 やばっ、吐きそう……。


「今は眩暈が酷くて服を治す気力もないけど、あとで全力で殴るわ」


「そんなこと言わないでよ、僕だって勝つために必死で…れろれろれろれろ」


「ちょっと、今の何!?なんか変な音したわよ!?ねえ!なんか、私のお腹に生暖かくてドロドロしたものがかかってるんだけど!?ちょっと!ちょっとねえ!!」


「――――――――ごめん、これはマジでごめん」


「訂正するわ……あとで全力で殺す!!!」



 こんな感じで、僕とイジッテちゃんの冒険は、これからも続いていくのだ――――



 ――――――僕が、殺されない限りはね。           

                   

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