第2話

 とりあえず、腰に巻いていたポーチの中から汗拭き用の布を取り出し、それで股間を隠すことで、一息ついた。


 脱衣ボンバーでポーチが吹き飛ばなかったのは幸いだが、脱衣芸としては不完全と言わざるを得ない。不覚である。

 ポーチにはいろんなアイテムと財布も入ってるので頑丈なヤツ買っていたんだった。それが災いしたな……いや、幸いしたのかもしれないけど。

 全裸にポーチは変態度が高いのでそれはそれで評価できると言えなくもないし。


「で、あなた何者なんですか?どうしてここに?お爺さんに聞いてきたの?あとなんで全裸なの?」


 女の子は矢継ぎ早に質問してくる。

 そうだろう そうだろう。

  突然目の前に全裸の男が現れたら、聞きたいことは山ほどあるだろう。


「よし、じゃあまず、脱衣ボンバーの説明からしようか、この技は…」


「……待って、それを聞くと私の魂が汚れる気がするから、それ以外の話題にして」


 額に手を当てて頭が痛そうな顔をしている。どうしてだろうか。


 しかしよく見ると、金と銀のマーブル模様の長い髪の間から見える青紫の瞳がとても美しく、わずかに下がった困り眉と、薄い唇。

 純粋に見て、素直に可愛いと思う。

 大人になったらきっと素晴らしい美人になるだろう。


「そういえば、さっきもお爺さんとか言ってたけど、なんの話だい?」


「あなたから質問してくるの……?まあいいわ、お爺さんは、私をここに隠した人よ」


 ……隠した?


「たまに様子を見に来てくれたけど、最近見ないのよ。あなた知らない?いつも、自分の身長より長い杖を持っているの」


 杖……ああそうか、きっとあの空中の仕掛けを、その杖で開けて入ってきてたんだな。お年寄りがジャンプしたところで届く高さではないが、長い杖で引っ掛けていたなら納得だ。


「うーん、そのお爺さんはしらないなぁ、一番最後に来たのはいつの話?」


「いつだったかしら……もう、15年くらいかしらね…?」


「………は?」


 待て待て、どう見てもこの子は10代前半に見える。

 もし仮にだいぶ上に見積もって20歳だとしても、15年前では5歳だ、そんなころの記憶がハッキリしているものなのか?


「はっ……もしや……ロリババアなのか!!?!?すげぇ初めて見たよロリババア!!」


「ていやっ!!」


 めっちゃ殴られました。


「って、痛っ!!何今の!?なんか、ガイン!って音がしたよ!?なんか金属的な武器持ってる!?」


 幼女の手で殴られたとは思えない音がしたよ!?ただ、力は弱いのか さほど痛くは無い。


「何も持ってないよ、だって私、盾だもん」


「……盾?」


「そう、伝説の盾。古くはイージスの盾って呼ばれてたりもしたけど、最近だともう名前も忘れられてるみたいね。まあ、世界大戦で名を挙げたのはもう100年も前だから当然か」


「100年!?やっぱりロリババアじゃないか!」


「ていやっ」


 再びの殴打。良い音がしたが、やはりさほど痛くない。


「いやでも待ってよ、人じゃん。何よ盾って。確かにこの洞窟には伝説の盾が眠っているとは聞いてたけど……それがキミだってこと?」


その言葉に彼女は少しだけ眉をひそめて嫌な顔をしたが、ため息とともに語り始めた。


「そうね、そうなるわね。昔は戦場で活躍したもんだけど、長い年月を経て命を宿し、意志を持ち、人の形を得たのよ。けど、私を奪い合って略奪や戦争が起きるようになってね、嫌気がさしたからお爺さんにここに隠れさせてもらったの」


 ……にわかには信じられない話だけど……あえて信じる!!

 だってその方が面白いから!!!


「でもそろそろ、寝てるのにも飽きたわ。本当はもっとちゃんとした人が良いけど……この際あなたでもいいわ。私を外に連れ出してくれる?」


「いいよ!道が分からんけど!」


「……全裸の迷子……考え得る限り最悪に近い状況ね…まあいいわ、道は私が知ってる。私は一応盾だからね、決められた場所から移動するには所有者が必要なのよ」


「そういうもんですか」


「そういうもんよ。私は外に出られる、あなたは伝説の盾が手に入る。良い取引でしょ?」


 確かにそうだ。というか、むしろ僕の利益が大きすぎて恐縮してしまうな。

 外に出られる、というのも僕の利益でもあるし。

 まあでも、ここはありがたく乗っからせてもらおう。


「……OK!交渉成立!よろしく、僕の名前はコルスだ」


「私は……まあ好きに呼んでいいわ」


「じゃあ……イージスの盾って言ってたから……縮めて…イジッテちゃん!」


「ていやっ」


 どつかれました。


 こうして、駆け出し冒険者の僕コルスと、イジッテちゃんの冒険は始まったのだ。


「ちょまっ……名前本当にそれで決定なの!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る