第13話 対決
さながらそれは自爆ゾンビというべきだろうか。
僕がやったにせよ、その顔は異様といえた。
右目には電磁警棒がまだつきたっているし、左目はえぐれて内部の機械が見えている。
顔自体もゆがみがあり、左頬のあたりがへこんでいた。
スキンはところどころはがれ、下地の表情人工筋が露出している。
体は、ミニニュークをダクトテープで巻き付けてあり、ミニニュークの丸い頂上部から出ているリードが胸部中央の胸骨にささっている。胸骨が制御機器の端末なのだろう。
「おおっと、へんな動きはやめたほうがええで。いつでも爆発させられるからなぁ」
ねねさんに助けられながら、蹴られた腹を押さえて立ち上がった僕に、そいつはいった。
あれだけぶちのめしたのによくしゃべることができるなと思ったが、口はろくに動いていないので、たぶん喉あたりの発声スピーカーでしゃべっているのだろう。
「やってみろよ」
腹の痛みをがまんしながら僕は笑った。
「はったりやと思ってんの?」
「はったりさ。今爆発させたら、おまえは金も、ねねさんも手に入らないし、僕をその手で殺すことですらできなくなる。はったりじゃなければ、ごたく並べる前に起爆させてはじけ飛べよ!」
こいつはぐだぐだしゃべりすぎたと思う。生き残ることを考えてるやつが自爆なんかできるものか。案の定、やつは少し黙っただけだった。
「くそが……。この
右手があがる。銃が握られていた。
「ゆうくん、危ないっ!」
一瞬硬直したところを、ねねさんに抱えられ、机の影に転がり込んだ。
同時に発砲音が響き、跳弾の音がした。
「……ねねさん、助かった……ねねさん?」
だがねねさんの顔が冴えない。はっとして彼女の足に目をやる。
血ではないが、なにかの液漏れで赤紫色に左足首が染まっている。
「だいじょうぶ、ただ左足はちょっと動かないかな」
「仲ええなぁ、そんなに人形がすきなんか? 変態野郎!」
今度は僕がねねさんを抱えて、別の机の影に飛び移った。背後で再度銃声。
「ねねさんが好きでなにが悪い!」
「女に向き合えへんで人形に慰めてもろうとる情けない男なんか死ねばええんや」
ねねさんを背負い、必死で次の物陰に走った。ぞっとするほど近くで銃声が鳴る。
「ゆうくん、あそこ」
背中のねねさんが指さした先に、僕の拳銃があった。腰にはまだマガジンが残ってる。
あいつはなにで物を見ているのか? サブカメラがあの体のどこかにあるのだろうか?
ただダメージがやはりあるのか、少し動きが鈍く、狙いが甘い。おかげでまだ生き延びていられる。
「女性に迷惑かけてないなら、なにをしようと自由だろうが!」
「女を勝ち取る努力もせえへん弱いオスが、人形相手にセックスごっこをやるとゆうおぞましさに気がつけへんなら死んだほうがええ」
「……わけがわからないなっ! 人間の言葉をしゃべれ!」
腰から閃光手榴弾を取り出し、ピンを抜く。そして手榴弾を地面にするっとすべらせた。
「ねねさん、目を閉じてっ」
言葉とともに僕も反対側に向いて目を覆う。
閃光が部屋を包み、僕はねねさんを背負って飛び出した
「だぼがぁ!」
今度は銃声が遠い。拳銃を拾い上げて、小部屋の陰に滑り込んだ。
ここなら弾は通らない。
ねねさんを降ろして、指で小部屋の壁に沿って向こう側に行くよう指示した。
彼女は黙ってうなずくと、よつんばいでそろそろと移動していく。
それを見ながら僕はマガジンをリリース。
新しいマガジンをセットし、コックする。
ケースレスガンの樹脂製マガジンは捨てても構わないので、放り投げた。
乾いた音がすると、やつはそちらを向いて発砲した。
「おぞましいんや。おまえらは。自分のオナニー人形にすがりつくとゆうのが、気色悪いってこと、なんでわからん? 性癖をさらしとるし、なんかいったら黙っとれとか、あほ丸出しやで。ほんとおまえらは死んでええクズや」
息をゆっくりと吐いて、1.2.3……
飛び出して、引き金をひきまくった。
いくつか命中して、やつが転倒する。
だが……
「非殺傷弾なんかきかへんで」
あわてて隠れたところに銃撃が何度も来て、身をすくめる。やつは何事もなかったかのように起き上がってきた。
「人と人が真摯に向きおうて愛しおうて、そこにセックスがあるんや。女に向き合わずセックスだけ楽しみたいってゆうのはな、女の体の泥棒や。そやから人形遊びはあさましいし、おぞましいんや」
やつの向こうで、ねねさんがゆっくり静かに動いて何かとろうとしていた。
「だからな、あたしが清めたる。おぞましいこの国も、あんたの命も、人形も全部あたしが始末したるわ。人形はあたしの新しい体にしたる。あんたみたいなクズにはもったいない。あたしが大事に使うてやる。男に媚びるくさったAIはちゃんと捨てとくけどな」
ねねさんに注意をいかせないために、銃撃で牽制した。
銃撃中、やつの目が気になった。
つぶれているはずなのに、なにかねとりとした光があったように思った。
それはたぶん幻だったと思う。だけど、僕もおぞましさを理解した。
勝手にやってきて、自分の美意識を暴力で押しつけるおぞましさを理解した。
そのくせ、ねねさんの体に執着するおぞましさも理解した。
おぞましさを理解したから、わき起こるものがある。
「……そうか、おぞましいかよ。よくわかった」
「……ほう、わかったんか」
ねねさんがそれをそっと拾ったのが見えた。
「……おぞましいならぶっこわしていいんだな?」
「……いい覚悟やんか」
やつの姿を思い浮かべる。
両目がつぶれている顔はだめだ。
その下、胴体。今度こそ!
「ねね!」
「……受け取って! ゆうくん」
言葉とともに走り出した僕の手の中に、絶妙という言葉では足りないぐらいにぴったりと、ねねさんから投げられた拳銃が収まる。ハンマーを起こし、両手で狙いを定めた。
「くくく、あたしが非殺傷弾なんかでどうかなると思うん?」
やつが体を揺らして笑う。
けれどそれは僕の銃「ではない」。テロリストが持っていたものだ。
「食らえ!」
引き金をひいた。それは僕のわき上がった殺意の現れだ。ためらいなどもう微塵もなく、連射する。
弱装弾ではない強いキックバックが腕を痛めつける。
銃からながながと炎が伸び、偽フェンテスがぶっとんで倒れた。
ミニニュークは拳銃では爆発しないとわかっていた。
撃ったのはたったの5発。だが腕に痛みが残った。
撃ち尽くした銃を捨てて僕とねねさんは倒れた偽フェンテスに歩み寄った。
慎重に近寄る。動かない。
ほっとしたとき、僕の首に腕が巻き付いた。
「あははははは、あたしがただ考えなしにミニニュークを巻き付けたと思った?」
ぎこちなく壊れた人形のように、偽フェンテスが僕の首を締め上げた。
金属がかみ合う不快な音をたてながら、やつが立ち上がる。
「ええ具合に弾を防いでくれたよぉ? どう? あたしって頭ええやろ?」
「ねねさん! 僕ごと撃て! 撃ってくれ!」
「そんなのだめ! できないよ!」
僕の絶叫にねねさんが首を左右に振る。
「……さんざん好き勝手やってくれたやんか。次撃ったら、ミニニューク爆発させる。もうなめたまねは許さへん」
余裕が消え追い詰められたものの悪意がむき出しになった声だった。
そのとき、部屋の扉が開いた。
「警察だ! 銃を捨てろ!」
警察の特殊部隊が、降って湧いたように現れて僕達を包囲していた。
20人以上はいるだろうか?
何丁もの銃口が、僕達に向けられ、ねねさんが警察官の人垣の後ろに運ばれていく。
ごりと僕の頭に銃が押し当てられた。
「近づいたらこいつを殺すし、爆弾も爆発させる。いっとくけど、これはミニニュークやからな! 一発でも撃ったら、ドカンや! わかったか? わかったなら下がれや!」
「人質を解放しろ。解放しなければ射殺する」
でかい口径の銃を持った婦警ガイノイドが、音をたてて僕達を狙った。
警察は一切下がらなかった。恐ろしいほどの殺意をやつに向けている。
「かまわない! 僕ごと撃ってくれ!」
「だまれっ! 余計なことをゆうな!」
これほどにあせるやつを見て、爽快な気分になる。
「もう終わりだよ。さっさと僕を撃ち殺して、蜂の巣になったらどうだ? 鉛玉が新しい体になるさ……ぐうっ!」
笑いながらの僕の挑発に、僕の首を絞める腕の力が強まった。
「船を港に用意してもらおうか。ここの屋上にはVTOLをパイロット付きで用意してや。船で出たら超空間ゲートに入るまでは誰も追ってこんといてや。燃料は1000光年分、人質は途中の星系で解放やな」
「人質は屋上で解放だ。解放しなければ船は用意できん」
やつの要求をにべもなく警察の隊長が切り捨てる。
「頭固いことをいってると、ミニニュークが爆発するで?」
「貴様が脳を頭に置いてないということはわかっている。大口径銃でミニニュークごとミンチにすれば済む話だ」
「あ? やってみーや。人質がいることを忘れてるんやないで?」
その脅迫に対する警察の回答は、大口径銃を持つ者のさらなる接近だった。
「選べ。人質を解放して生き延びるか、ミンチになるか」
やつが黙る。
やがて僕を引きずりながら、ゆっくりと移動をし始めた。
「VTOLや! VTOLを用意するんや!」
もちろん銃を構えながら追尾してくる多数の警察官を引き連れてだ。
部屋を出て、エレベーターホールに出た。
やつの足が不気味なきしみ音とたてなから、僕を引きずってエレベーターに近づく。
「エレベーターを途中で止めよったら、ミニニュークを爆発させる! 箱の中に警官入れても爆発させる! ええか? 邪魔するんやないで!」
そういうとやつはホールボタンを殴りつけた。
すぐにベル音がして、エレベーターケージの扉が開く
偽フェンテスは恐ろしい力で僕をひっぱりこみ、屋上のボタンを押した。
陸戦団のユアン・ベルナルド伍長は、スペースセツルメント「アダムの楽園」に設けられた陸戦団防御陣地の後方でせっせと働いていた。
彼の愛機であるボーディングアーマーを用いて、ひたすらに重迫撃砲砲弾を下ろし、機関銃弾帯を下ろし、小火器の弾薬を下ろし、応急手当の終わった負傷者を搬送車輌に積み込みとまじめにやっていた。
これが期待されたボーディングアーマーの使い方であったが、ベルナルド伍長の望むこととはもちろん違った。それでも彼がまじめにやっていたのはもちろん独断専行で怒られたからである。
戦果をあげたとはいえ、無茶をやらかしたので叱責され、(叱責で済んで)まじめに働いていたのだ。本人が戦果をあげたので納得していたというのもあった。
そんな彼に、中隊長や小隊長を飛び越え、三佐からまた直接連絡が入ったものだから彼はげんなりとした。
しかししつこい叱責を予想していた彼は裏切られることとなる。
「警察へ協力ですか?」
「ああ。バックアップということだが、おまえのアーマーならちょうどいい。こちらも落ち着いてきているから、行ってこい。一応向こうの指揮下に入るが、疑問があればこっちに連絡してこい。以上だ」
直後に中隊長と小隊長から連絡があり、了承を得ると彼は整備部隊の充電車とともに、指示されたポイントにおもむいたのだった。
そして陸戦団陣地で、国籍不明の敵に対応している三佐は、指示を出し終えると考えにふけった。
「人工子宮センターか……」
「どうしたのです?」
戦況図を見ながら考え込む三佐に曹長が声をかける。
「ああ、人工子宮センターに核爆弾テロを企んだやつが現れたそうだ。今警察と犯人がにらみあってるらしい」
「……それはひょっとして?」
三佐の話を聞いて、曹長にひらめきが走る。
「そうだ、曹長。この敵とたぶん連動している。やつらがおとりで、我々をここにひきつけ、破壊工作員がそのすきに人工子宮センターを爆破する……というシナリオだったんじゃないかな」
「やられたら、ケイナンの人口再生産に大きな影響がでますな」
「長期にわたってな。だがこれで敵の不可解な動きにも納得がいった」
そこへ通信兵が声をかけてきた。
「失礼します。報告します。陸戦団増援部隊は敵の別働隊を撃破しました。まもなくこちらに向かうとのことです」
「よし」
「陸戦団司令部からの情報もあります。星系防衛司令部はセツルメント群付近での安全を確認したとのことです。現在敵逃走中クルーザーを捕捉と」
「ありがとう。では我々もぼちぼち、やつらをたたき出す準備するかな?」
「イエス、サー」
軍曹と通信兵は見事な敬礼をした。
「影響半径内からガイノイドは退出したか?」
「完了しています」
「陸戦団からのパワードスーツ、配置につきました」
「軍のパワードスーツが使う周波数を指示してくれ。現場とリンクできるやつだ」
「
「特殊弾狙撃班配置につきました。ドローンを放出中。指示次第発砲可能です」
人工子宮センターから少し離れた森の中に、警察の指揮車輌が停まっている。
「人質の様子はどうか?」
「落ち着いています。むしろ彼のブライドロイドのほうが問題です」
「ちゃんと抑えておけよ。作戦概要は教えてあるのだろう?」
「はい。ただ人質の鎮痛剤と賦活剤がまもなく切れるらしく懸念しているようです」
「状態が良くないのか?」
「セツルメント間の移動時に暴行を受けて負傷しているとか」
「……そんな状態でここまでやってくれたわけか」
押収されたミニニュークとその爆破装置、逮捕されたテロリストの画像をちらりと特殊部隊指揮官は見た。
ふうとため息を一つつき、オペレーター達を見回す。
「一つ一つ丁寧にするんだ。あと少しですべてが終わる。作戦のチェックを急げ」
そして僕は、建物の屋上の縁にいた。もちろんとなりには偽フェンテスもいる。
相変わらず左腕を僕の首に巻き付け、銃を突きつけている。
一歩下がれば、そこは虚空だ。10階建てビルの屋上から落ちれば助かるのは難しい。
僕達がわざわざそんな場所にいるのは、偽フェンテスの戦術だった。
VTOLを要求したやつは、屋上に着くとフェンスを破って縁に僕を引きずっていった。
そしてビル屋上の縁に立ち、狙撃などの実力行使をすれば、落下する最中にミニニュークを爆発させると脅したのだ。
刺激しないためか警察官達は少し遠巻きになって銃を構えている。
「どうしたんや! 早くVTOLよこせ! ないとはいわせへんで!」
「時間がかけるといっている。ここは今戦闘地帯指定になっている! 飛んでくれるパイロットは避難中なのを呼び戻している!」
僕は体の痛みが復活してきているのを自覚していた。同時に恐ろしい疲労も押し寄せていた。……おそらくねねさんにもらった薬が切れてきたのだ。
当たり前だが、そんなに傷が早く治るわけもなく、そんなにすぐに元気になることもない。僕は薬で一時的にどうにかなっていたに過ぎなかった。
けれど、ねねさんは救えた。
できればミリーさんも救いたかったが、僕にできるのはせいぜいここまでなのだろう。
これがヒーローでもない普通の一般人ができることの限界なのだろう。満足ではない。けれど……ねねさんだけでも救えてよかった。
「おい、ふらふらすんなや。落ちたいんか!」
「しょーがないだろ。あのくそ女がスタンガンでいたぶってくれたんだ。そろそろ限界さ。あんたに殺されなくてもな」
そういうと偽フェンテスが驚いたような気配を出した。忘れていたらしい。
「なんなら先に落ちてみようか?」
「やかましい、黙れ」
首を絞める腕が強まった。
「あと、10分や! それ以上は待たんで!」
「もうすぐ着く!」
その言葉とともに、上空を飛行機がフライパスし、反転して速度を落とし始めた。
ゆっくりとビルに近づいてくる。
そのとき、森を挟んだ別のビル、その屋上あたりでなにかがきらりと光った。
なにかが猛烈な勢いでこちらにやってきて、僕達の前で炸裂した。
それは中世の対戦車誘導ミサイルに似ていた。
ランチャーは大きく、ミサイルは固体燃料である。
ただし中世の物と違って、ランチャーは電磁誘導ランチャーであり、固体ロケットは推進よりも主に精密誘導に使われる。
一番違うのが、これは警察の装備品であり、弾頭がEMPパルス発信弾頭だということだ。
一つ離れたビルの屋上から発射されたミサイルは、ガイノイドと観測誘導ドローンの連携によって、正確に目標に突入した。
そして目標との距離が設定値になると、弾頭から60度の危害円錐での高密度EMPバラージを発したのである。
これは暴走オートマタ対策の制圧武器であり、歴史は古く300年前にはもう現在のものと似たような形になっている。
昔と違うのはEMPバラージの強度ぐらいである。
「特殊弾狙撃班、発砲! 目標、EMPバラージ圏内確実!」
「よしっ。これで核はつぶした」
指揮車内で指揮官が小さくガッツポーズをした。
まず感じたのは、耳の熱。そしてゴーグルのゆがみ。
あわてて外したイヤフォンとゴーグルが燃え上がる。
腰のマガジンが熱くなっていたので投げ捨てた。
そして僕の右頬にも熱を感じる。
振り向くと、ミニニュークのリードワイヤーが燃えていた。
あわてて引きちぎってから、偽フェンテスは何もしないのに気づく。
やつはただ動きを止めていた。
僕の首にまわされた腕から火花が散り、そしてやつがぐらりと後ろに傾いた。
あわてて手を伸ばすが、偽フェンテスの体が落ちていき、僕の首にやつの全体重がかかる。
首が絞まって後ろに引きずられ、足下の感覚が消えた。
もがいた手に、でっぱりが触れて必死でしがみつく
すぐ目の前に警官達がかけつけ、手を伸ばした。だが遠い。
手をかけたでっぱりは階下用のわずかな日よけだったのだ。屋上からは50cm以上は下だった。
息が詰まった。僕の首に動かなくなった偽フェンテスがぶら下がっていたのだ。
やつを振り払おうと体をめちゃくちゃに振りまわす。
しかし偽フェンテスの腕がなかなか緩まなかった。
祈りながらやつの体を蹴り、後頭部をぶつけ、体を振り、ねじった。
ずるりとやつの腕が緩む。
たまらず片手をフェンスから離して、やつの腕をもぎ離した。
酸欠の苦しみの中で、僕はあがき続け、ようやく首にまわった腕が外れた。
やつの重さが消え、体が遙か下に落ちていく。
だが残った片手の握力も限界だった。
必死の懸垂で、もう片手をでっぱりに伸ばした。
「もう少しだ。手を離すな」
「ゆうくん! ゆうくん!」
やさしい顔が見え、僕は微笑んだ。
けれど手が震え、力が抜けていく。あと少しなのに届かない。
「ごめん」
するりとつかんでいた指がすべる。
愛しい人が遠ざかっていく。
「ゆうくん!」
僕は落ちていった。
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