第16話 失敗がたくさん

明日は遂にチームシロダ戦。僕達にはまだ未来が残されているが、サクラさんは半年くらいしかない。ここを落とす訳にはいかない。まあ試合に負けても、サクラさんが評価されればいいんだけどね。

シロダは、二年生にして八十六点の成績を残している強敵だ。時代は変わる。学校そのものも、時間と共に成長してきたってこと。僕達は自分を手にしたんだよ。いくぜ、ヘルシュート! お前と共にどこまでも。飛ばしてやるさ。

そして試合当日。サクラさんが号令する。

「今までと違うところを見せるよ」

「おう!」

と、みんな。シロダも号令する。

「格下のチームサクラだ。冷静に対処すれば勝てる。しかし、気を抜くな。ホープリーグの上位にはつけているチームだ。いくぞ」

「へーい」

とみんな。

そして、シロダは僕に声をかける。

「七十六点の成績か。悪い数字ではないが、俺とシュウの差は開いたのだ。ホシさんを手本にしているからといって、いい気になるなよ」

「どうでもいいさ」

と、僕は言い返す。

そんなことをしている間に、試合が開始される。三十分の試合だ。いびつだ。チームクロキは、驚異のパススピードで生き残った。だが、チームシロダは、その上に少し知恵が追加されている。パススピードの緩急だ。常に速いとは限らないってことだ。

山川にボールがわたる。

「いくぜ」

と、山川は気合いが入っているぞ。一人、二人、三人目いくか? ドリブル突破に山川が失敗する。相手チームのメンバーが言う。

「シロップ対策ならしてきたぜ」

「くっ、シロップ選手と同じかよ」

と、山川。大地がつぶやく。

「シオ、頼りにしているぜ」

しかし、シオ対応れ出来ず。

「くそっ」

しかし、ここに待っているのはサクラさん。そして、そこからパス回しによる連携が始まる。シロダの動きをよく見ろ! パスはテツへわたる。

「いくぞ」

と、テツは僕に合図を送る。確かに受け取ったぜ。ってシロダを警戒し過ぎた。三人に囲まれては、僕ではどうしようもない。

ボールはチームシロダへ。そして、シロダのシュート。

「決めさせるかー!」

と、気合いだけのキーパー大地。シオもブロック出来ない。連携は弱かったはず。やはりチームシロダは強い。ゼロ対一。負けている。あと十八分。まだまだいけるぞ。

しかし、まともに動けているのはサクラさんだけだ。僕達のパターンが、シロダ達に読まれているのか? どうするよ。僕達の道は塞がれた……。

サクラさんから僕へボールがわたる。テツがノーマークだ。ここはテツに賭けよう。そしてボールはテツへ。仲好し効果は絶大だ。いけー、テツ! ワード選手はシュート力もあったんだぞ。しかし、テツにシュート力はあまりなかった。奇襲は失敗だ。

残り十二分。ドローでもいいぞ。とにかく点を取れ! このままでは、サクラさんが悪い印象を受けるぞ。サクラさん、自ら行った。シュートだ! しかし、キーパーがはじく。テツがつめているが、効果はない。そして、ボールはシロダへ。

ロングシュートが決まる。

「くそー。これでは林さんと同じだろう」

と、大地。ゼロ対二。やばい、これは無理だ。そして、残り五分。何とかサクラさんに見せ場だけでも作らないと……。しかし、やはりその作戦も読まれていた。そして試合終了。チームシロダに白星がつく。

しかし、シロダの様子がおかしい。僕をののしってくると覚悟していたんだが。シロダは汗を吹き出しながら言う。

「何時ものチームサクラではない。我々はスタイルの模索に利用されたのか?」

「それでも勝つつもりだったんだけど」

と、サクラさん。よく解らないが、この結果は合格点だったらしい。しかし、サクラさんには時間が少ししか残されていないぞ。このままでいいわけがない。

そして僕達は、次こそ勝つと誓い、トレーニングに戻る。山川はドリブルを研究している。

「シロップさんは、テクニックと絶大な信頼を得ていた。俺は、それを超えねばならん」

そこでサクラさんは、テツと山川の連携強化を提案する。その効果は高いように思えるが、実際の試合で使ってみるまで、明白にはならないだろう。

シオと大地も、連携の復活を試みる。死んだ連携と言われたもんな。僕のヘルシュートは、誰の想いも乗せていない。自分勝手に、気ままに飛んでいく。しかし、それは僕の理想ではない。マニュアルも良いところは取り入れる。そして、トレーニングと試合の日々が続く。サクラさんは八十九点だ。あと少しでプロ入りだ。

テツの想いは、まだ発展の余地はある。それが完成すれば、チームシズクにだって勝てるさ。もう少し待っててサクラさん。僕はみんなを見てきた。ユキ選手の指摘から始まった。

連携が上手くいっていれば、ヘルシュートは敵チームから見て、更に驚異と化す。何故なら、ゴールイコールチームの士気アップにつながる。ヘルシュートよ、僕に何時までも付き合ってくれよ。僕も頑張るから。

サクラさんは、赤山選手を見る目が変わった。サクラさんは、赤山選手を超える器だと僕は信じている。本当ならば地味な印象というチームプレーを、変化させるかもしれない。

ある日、山川が提案する。

「俺の力を試したくなった。俺とシュウはチームの得点源だ。どっちが上か、白黒つけようぜ」

「それはいいが、どういう勝負だ?」

と、僕は聞き返す。

「どうすっかな」

と山川。考えてなかったのかよ。

ここで大地が名乗りをあげる。

「俺は、全てのシュートを止められるくらいのキーパーになるんだ!」

結局、ドリブル突破からのシュート対決となったが、五対五で僕と山川は決着が着かない。山川は言う。

「次で決める!」

「そうはさせるか」

と、僕も負けてはいない。

そこでサクラが、この勝負を止める。

「大地を見て」

んっ、大地が落ち込んでいる。

「俺は、前よりゴールを決められやすくなったのか? 俺の成長は止まったのか?」

林選手を超えるキーパーになると、言い続けた大地。しかし、思い通りにいかない。気持ちだけでは無理なことは、大地も知っているはず。

僕達には、まだ未来がある。

「焦るな、大地」

と、テツが言う。

「ぼっちテツにまで言われるのか」

と、更に落ち込む大地。これでは、林さんどころか並みのキーパー以下だぜ、大地。こんなところで終わるなよ。

僕達が強化を行っている頃、チームシズクは練習試合に、チームサクラを指名した。どういうことかというと、シズクはプロ入りがほぼ確定しているが、カケルの方は微妙とのこと。そして、練習試合で弾みをつけ、カケルの運命を決める大切な試合とやらに挑みたいとのこと。

そして僕達チームサクラも、サクラさんがプロになれるか試される試合を控えている。相手はチームナガレ。死んだ連携にまだこだわるが、安定感は抜群のチームだ。マニュアルを愛し、それこそが最強と語るナガレとサトシ。ホープリーグでも一位、二位を争うほどの実力と聞く。

シオが力強く言う。

「チームシズクの踏み台にはならない。逆に踏み台になってもらう」

サクラさんは静かに語る。

「思い出だけでは物足りないの。私には未来があるんだ」

しかし、テツは浮かない表情を浮かべて言う。

「俺の連携値が高ければ、このチームサクラは通用するはず。俺は不器用でどうしようもないただのぼっちだ」

みんなはテツに告げる。

「お前だけだよ、俺達は仲間だって思っていないのは」

テツの心が少しずつ溶けていく。仲間と言われて、嬉しかったのだろう。僕はテツに力強く言う。

「プレーで返せ、テツ。そうすればお前はぼっちではない。これは避けられないぜ」

「当然だ」

と、テツが笑う。笑顔のテツなんて、僕でもほとんど見たことがない。失敗をたくさんしてきたチームサクラとテツ個人……。だけど、それが明日に繋がると信じて。

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