第15話 自分とかけひき

そして、トーナメントは終了した。そしてトレーニングの日々に戻ろうとしていた。しかし、何をしたらいいか解らないぞ。今までのトレーニングは、本場では通用しないことが解ってしまった。

サクラさんは対策を練る。そして出した答えは、

「手本となる選手のデータをよく観察すること」

大地は質問する。

「データに頼っていたから、通用しなかったんじゃないのか?」

「オーナーの意図はそこにあるの」

と、サクラさんは指示を出していく。

そして僕は、テツとトレーニングを続ける。テツは言う。

「ワードさんはいいよな、凄い才能があって。実力もあって。エントツ選手を引き出して。俺はそこへは一生辿り着けない」

「そうかもな。しかし、ホシ選手もチームナゴムも序盤はひどい成績だ」

と、僕は答える。

そこへ山川が加わる。

「シロップ選手は消えた存在だ。だけど、悔いはなかったんじゃないかな。彼らチームシロップは、最後まで笑顔だった」

大地は言い切る。

「ただの負け犬どもの傷の嘗め合いじゃねーか、俺はそうはならない」

「そうそう」

と、シオも続く。

サクラさんは考える。

「手本となる選手には、きっと何かからくりがある。オーナーの意図はきっとそこ。赤山選手にも学ぶべきところがあるということ」

そして、各々が手本となるデータを解析していきつつも、基礎トレーニングを続ける日々だ。

テツが言い出す。

「例えば大地とシオの林選手。本当に林選手驚異のスキル『意地』を会得しろということなのだろうか?」

「どういうことだ? テツ、教えろ!」

と、大地。シオも興味を示す。テツは説明を再開する。

「林選手がそのスキルを、ゴールを奪われることで会得したことは有名だ。しかし、大地はそういうタイプではない。つまり、そこに大地とシオを飛躍させるヒントがあると俺は思う」

「ぼっちのくせに、いいとこついている気がするぞ」

と、シオが明るく言う。サクラさんも言う。

「私の場合、赤山選手は何を求めたかってことだと思うの」

しばらく練習を行い、みんなでデータを確認する。昼間のトレーニングは必要ということで、研究は夕方以降の時間帯となる。まずは赤山選手。彼はまさに一流のパサー。チームプレーに撤し、ディフェンスも凄い。優れたプロ選手だ。だが、地味だな。派手さがない。

赤山選手の兄、青山選手もタイプは似ているなあ。おっ、ここで赤山選手の目付きが変化する。何処だ? ホシ選手を見ている時。連携値は凄まじいものを感じる。そして、林選手はマイペースだ。

ここで僕は、サクラさんと連絡をとる。彼女は、ホシ選手と赤山選手について、気がついたことがあるとのこと。サクラさんは、通信を飛ばしてくる。

「まず、赤山選手を誤解していたわ。チームプレーに徹し、ホシ選手の陰に一見隠れているの。だけど、目は燃えているよう。赤山選手は、ホシ選手にはないチームの和を正すことで、存在感を消すようで異なる。つまり、赤山選手は自らの武器で、まだトップ選手になることを諦めずにいた」

僕は答える。

「僕にはそこまでは解らなかった。テツとワード選手は、タイプが違いすぎる。同じパサーなのに、テツはぼっちで連携値がマニュアルレベルだ。サクラさんはどう思う?」

サクラさんはここで少し笑う。親友のテツが気になるかって話で、少し時間をつぶした。そしてサクラさんは、本格的にワード選手を印象を教えてくれたんだ。

サトル選手と並び、ワード選手は圧倒的存在だった。そしてそれは、チームガイコツとチームアローの登場で壊れていく。それでも、ワード選手の勝利への執念は凄まじい。冗談の数々も、自らの鼓舞へと使っていった……か。

テツがみんなと馴染めるには、どうしたらいい? 余計なお世話かもしれないけど。そうだ、明日はトーナメントの参加賞として、チームナゴムのブレーンであるユキ選手の、コメントが収録されているビデオが届く。五分程度らしいが、楽しみにしていたんだよな。

どういうことかというと、オーナーがかつて連サカ製作の時、かなりの額を支援したサービスらしい。僕にはどうでもいい理由だな。取り敢えず次の日のトレーニングを済ませ、そのビデオを見る。僕のプレーは、どう評価された? 緊張してきたぜ。

おっ、ピンクの髪の女性選手ユキさんが、映し出される。

「はーい、ユキだよ。十六歳という設定だけど、そろそろその設定厳しいかも……。いや、いける。まだ私は十六歳!」

僕は突っ込む。

「前置き、長げーよ。五分しかないんだぞ!」

ユキ選手が、遂に僕のプレーについて語る。

「うむ。テツ選手に頼りすぎているね、もっと、周りを見なよ。仲間達がいるよ。それは、ホシ選手の望んだ『可能性のツバサ』の一つ。キミも知っているよね、ホシが傷を残してきたこと。でもシュウ選手は、一つの可能性しか選べない。その範囲内で出来ることは、キミが決めるんだよ。これは、あくまでアドバイス。聞き流してもいいよ。テツ選手にも言ったけど、二人で一つのセット。二人で考える。テツ選手を見捨てることも可能。あと、連携とは何か。ホシと『似た』ヘルシュートは強力だね。それは何のためにあるか自覚している? キミはホシに憧れているだけではない。ゴールを決めることによって、連携値を高めることが出来る。ヘルシュートは、そうやって連携の魅力を伝えてきた解りやすい方法よ。最後に一言。連携サッカーは楽しい?」

もう五分経過したか。僕は、何度もそのアドバイスを確認した。前置きカットが面倒だったけど。僕は、やはりテツを見捨てることなど出来ない。そしてユキ選手のアドバイスとして、ゴールを決めることで連携値を高める方法。連携を意識しつつヘルシュートを打つ。それも、ホシ選手なら強引にやってのけたんだ。

どんなに望もうとも、僕はホシさんではない。だから、ユキさんのアドバイスを生かすには、やはりもっと周りを見ることだろうか、テツ以外のチームメイト達を。五分間のビデオでは、解らないことに多い。

しかし、一つ解ったことがある。ホシ選手のいいところを盗みつつ、僕自身を確立することだ。何時かゴールを決めることで、チームメイトのモチベーションを上げるほどの選手もなってやる。このビデオで、気合いが充電されたぞ。

そして、またトレーニングばかりの日々が続く。そうしているうちに、遂にチームサクラは次の試合が決まる。相手はチームシロダ。このチームは、クロキ選手を手本にしているんだったな。チームプレーとパススピードが売り物だ。しかし、チームクロキを打ち破ったチームナゴムの戦略は通用しないだろう。チームメイトも違うし、何より相手チームも研究してくる。

サクラさんが、プロになれるかを左右することになりかねない、重要な試合だ。全力でいく。山川が難しい顔をしていたので、僕は彼に尋ねてみる。

「どうした、山川? 元気がないぞ」

「ああ、シュウか。ユキ選手のビデオによると、チームシロップはチームナゴムの肥やしに過ぎなかったということだ。そしてチームクロキは、チームナゴムの踏み台にされたんだ。どう捉えたらいいか、幾つかのアドバイスを貰った。有力なのは、シロップ選手と同じスタイルで、俺は他のチームの踏み台にも肥やしだけの存在にもならない。シロップさんが見ることが出来なかった世界を見ること。不安なのは、結局同じ道を歩まないかってことだ」

僕は言う。

「難しいな」

「ああ。だが、シュウと二人でゴールを決めまくってやる」

「その意気だ、山川!」

と、僕と山川は繋がっていくんだ。ホシ選手のヘルシュートは、何時か世界中に連サカの魅力を届ける。僕は、そのかけらの一つになりたいんだ。つまり、貢献したいってことだ。これがユキ選手の質問に対する答えだ。連サカはすごく楽しいよ。

テツが言う。

「似ているが、少し違うということだな、大地。俺は俺を貫く。連携値は無理をしても上がらない、自然体でいく。そのかわり、一回のパスに『重り』を乗せてやるさ。アロー選手がかつて見た世界を、山川とシュウに見せてやる」

大地がテツの肩を軽く叩く。

「ぼっちテツも言うようになったな。重いかどうかは、上手く計ってやんよ」

「いくわよ。チームシロダに勝つ! そして私は、赤山選手の魂だけを受け継ぐ」

と、キャプテンサクラさんは決意を固め、チームをまとめる。いくぜ、シロダ。戦いが始まる。

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