第14話 アドバイスくれた写真家の話 1


 日本にいた学生の頃、たまたますごく好きだった写真家の人がいます。


 その素材を見せてもらえる機会に恵まれたのは本当に偶然で、とある会合だった。俺はまだ、カメラさえ持っていなかった。今や、その時のことが俺の中で伝説なのは、その素材を披露した人が、外部の人だったのにもかかわらず、その人は今や美大の学長となったから。


 俺は、まずその素材に惹かれ、そのアーティストの撮るものがすごくいい写真で、その後、古本屋巡りしたり、写真集を買っていました。絵葉書なんかは実は以前から持っていました。海外のアーティストで、俺は、まさか本人に会う日が来るとは思わず、実は遠方の展示まで、ふらりと訪れたりしました。


 それくらい好きだったんだろう。今も好きだ。


 こっちの美術館の展示で、たまたま質疑応答があり、俺はいそいそと出かけて行きました。俺は、すごくゲンキンなところがあり、自分がやりたいことには急にフットワークが軽くなるようなところがあるんです。


 美術館は回顧展。そのアーティストについて、俺が本当にすごいな、と思うのは、彼はきっぱりと写真をやめてしまっているから。


 そのことについて、俺はとても残念に思っていて、本人に本当にもう撮ることはないのか、聞きたいというのもありました。


 全部の展示を見ても、本当に「一部の隙」もなく、偶然の写真などは一枚もない手法なので、俺は「アートとはこういうものだ」と、考えながら見ていました。


 世界というのはこういう感じに提示されて初めて意味が出て来る。


 俺は自分の世界がそうじゃないので、「本当に自分と違うもの」に惹かれます。


 俺の世界は結構、作り込みが甘く、行き当たりばったりで、どんどん勝手に広がって、よく分からない煙のように気がつけば、消えてしまう。


 質疑応答でも感動したんですが、俺は、その後にまだ会場にいる本人を追っかけて、話しかけました。すごくいい感じの写真家、アーティストで、あっさりと俺に「よかったら家に遊びに来ませんか?」そう言うので、俺はまたとないチャンスに驚き、早速、後日の約束を取り付けました。


 流石の俺も、世界的に有名な人に会うのに、通訳を連れて行かないわけにはいかないと考え、その時、たまたま仲が良かった女の子を連れて行きました。


 彼女はすごく頭が切れる人で、俺は大好きでしたが、個人的な付き合いは全くなかったので、彼女の歯並びさえ直せば、すごく美人になる、というところをよく覚えているだけで、俺は彼女のことをほとんど知りませんでした。頭が良くて感じがいいから、彼女に白羽の矢が立ったんです。俺は、彼女のような人を連れて行けば、安心だと思いました。


 彼女はその後、すぐ帰国し、日本の最高学府の院に入りました。台湾人の友人が、東京に遊びに行った時に、誰か東京の友達を紹介してくれというから、観光案内してやってくれないか、と、メールで連絡してみたくらいで、それっきりの関係です。


 とにかく、俺たちは緊張しながら、アーティストのアパートを訪ねることにしました。取材じゃないですが、取材のような気分で。二人で緊張しながら、白いアパートの呼び鈴を押しました。



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