東雲神社

「あんた等に向かってもらうんはな―――丹波・篠山にある『東雲神社しののめじんじゃ』や―――」

 

「……東雲神社?」

 

 俺と利伽は、互いに顔を合わせて確認してみたけど、分かったんはどっちも知らんっちゅー事だけやった。

 そのままビャクと蓬の方にも振り返ってみたけど、二人とも首を横に振るだけやった。

 

「まーな―――あんた等が知らんのも無理無いこっちゃ―――。東雲神社は古くから続いてるし霊験あらたかやけどな―――山中深くにあるし―――小さい神社やからあんまり知られてないんや―――」

 

 なるほど。

 最近やとパワースポットとかゆーて、有名無名な寺社仏閣もメディアに取り上げられてるけど、それも「行きやすい」所に限るわな。

 どれ程山の中か知らんけど、ばあちゃんがゆーんや。簡単に行けるとこやないんやろな―……。

 嫌やな―……。

 

「嫌もへったくれもないで―――。もー行くことは決まってるんやからな―――」

 

 はいはい。心の内を読んでくれてありがとう。

 

「おばあちゃん、そこではどんな問題が起こってるん?」

 

 前向きな利伽の質問に、ばあちゃんは優しく微笑んで頷いた。

 

「事態は簡単―――……やけど深刻やで―――。今代の封印師してはる『新宮しんぐう 良庵りょうあん』さんが体壊しはってな―――……。封印の力が極端に弱まったんや―――。そこに付近の化身が群がった―っちゅー訳やな―――」

 

 確かに、問題は簡単や。

 つまりは、その化身を遠ざけるか倒せば話は終わる。

 けど、封印師の問題は残るっちゅー事やな。

 

「代わりの封印師は……おらんの?」

 

 利伽もその事に疑問が湧いたようやけど……。

 考えてみたら、俺等にとっては“初陣”や。

 化身をどうにかした後の話より、まずは俺等がやられんようにせなあかん。

 

「良庵殿には娘がおってな―――。その娘が後を引き継ぐっちゅー話になってるらしいんやけど―――……まだまだ幼のーてな―――。端的に言えば、力不足なんや―――」

 

 ばあちゃんも、その話をしだしてからは深刻な表情で眉根を寄せてる。

 俺が気になったんは、その娘が力不足やっちゅー事よりも、幼いって言われる年齢で封印師なんちゅー重たいもんを引き継ぐって事やった。

 

 封印師になったら、封印してる霊穴から遠く離れることが出来へん。

 もしその娘が封印しだしたら、その娘は人生の大半を諦めなあかんのや。

 それは、俺等よりも辛い話かもしれん。

 

「封印師の話は―――向こうで良庵殿に直接聞き―――。その場での判断は―――全部あんた等に任せるわ―――」

 

「はぁっ!?」

 

「おばあちゃん、そんなん勝手に決めてえーのん!?」

 

 俺と利伽は、同時に声を上げた。

 だってそうやろ?

 ばあちゃんが勝手に決めた事を俺等がするんやったら分かる。

 ばあちゃんは何や“竜洞会”に顔が利くみたいやし、最悪すべての事はばあちゃんの責任っちゅー事になるんや。

 

 けど、現場におる俺等が勝手にやったことは、全て俺等の責任になるんや。

 んで、俺等に責任をとる能力なんか無い。

 

「かめへんかめへんで―――。あんた等の決めた事は―――ぜ―んぶウチが責任とったるから―――」

 

 ある意味、理想の上司って感じのセリフや。

 これほど頼もしい言葉も、ま―ないやろう。

 けどそれでも、俺と利伽の不安は消えんかった。

 俺等の失敗はばあちゃんの責任……。

 これはこれで、ある意味嫌なプレッシャーや。

 

「ま―――ここでそない深刻になってもしゃーないやろ―――。向こうに行ってから―――どーするか決めたらえ―――」

 

 確かに、こんな所で……しかも現場すら見てないのに、兔や角ゆーてもしゃーないわな―。

 

「それでおばあちゃん、いつ行ったらえーん?」

 

 腹を決めたんか、利伽はその事についてそれ以上の質問は止めて、話を先に進めた。

 

「ほんまやったら―――今日すぐにでも発って欲しいところやけど―――」

 

「そんなん、無理に決まってるやろ」

 

 ばあちゃんの話に、俺はすぐダメ出しをした。

 俺等は学生や。

 明日も明後日も……とりあえず、日曜までは休みはない。

 

「まぁ―――あんた等も学生やからな―――。土曜日は休んでもらうとして―――金曜日の夕方からここを発つ―って事でどうや―――?」

 

 まぁ、一応常識的に考えればそんなとこか。

 土曜日に休むんもどーかと思うけど、法事やらなんやらで休む生徒もおるんや。

 とりあえずの折衷案ってやつやな。

 

 ―――けど……。

 

 ばあちゃんにしては、なんや普通すぎるな―……。

 

 って思ってたら。

 

「そやけど―――1回取りかかったんやったら―――解決するまで帰ってきたらあかんで―――」

 

「えぇっ!?」

 

「……やっぱりな……」

 

 利伽は驚きの声をあげてるけど、俺はなんとな―く想像ついとった。

 ばあちゃんから、至極まともな意見が出ることの方が驚きやろう。

 

「そらそうやで―――。さっきもゆーたけどな―――状況はのんびりしてられるもんやないんやで―――。どんな形でも一応の決着がつかへんのに―――帰って来てどないすんのや―――」

 

 それが、さも当たり前って口調のばあちゃん。

 ゆーてる事はもっともなんやけど……。

 

「そんなん、学校どないするん!?」

 

 学生の本分は勉強や……なんて建前ゆーつもりはないかど、確かに無期限で、しかも理由も言わんと休む―なんて出来へんわな―。

 

「もし帰ってこられへんかったら―――利伽ちゃんは病欠やね―――。はよ治すよーにしなあかんな―――。龍彦―――あんたにもちゃーんと病気―――……―――」

 

 にんまりと笑ったばあちゃんには、いたずら心満載って感じしか受けん。

 

「……何てゆーつもりなんや?」

 

 大体の予測はつくけど、俺はあえて聞いた。

 

「そやな―――……。股間が異常に腫れ上がって歩かれへん―――っちゅーんはどうや―――?」

 

「嫌に決まってるやろっ! どんな奇病やねんっ! ってゆーか、俺、学校行かれへんわっ!」

 

 一応の抗議はしておいた。

 っちゅーか、マジでそんな病気で休む―ゆーんは止めてくれ。

 

「ほな―――別の奴考えとくわ―――」

 

 こらー、マジで早く帰ってこんと、俺の今後はブルー処か真っ黒確定や。

 俺と利伽は目配せして、その決意を確かめあった。

 

「因みにな―――浅間あさまんとこの良幸よしゆき君や篠子しょうこちゃんも―――家の務めや―ゆーたら―――学校も休んでるんやで―――」

 

 でた……殺し文句……。

 

 良幸と篠子の名前出されたら、もー引くに引けんやんけ……。

 なんや、さっきまでの不安はどこえやら、利伽も静か―に闘志燃やしてるし。

 ばあちゃん、ほんまは浅間家と張り合いたかっただけちゃうんか?

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