初めての……お使い?

 学校から帰ってきた俺と利伽りかは、今朝言われた通りばあちゃんの居る社裏の離れに来とった。

 俺等の他にも、この場にはビャクとよもぎが同席してる。

 普段はビャクはネコ、蓬は小鳥の姿で、不知火と八代両家でそれぞれ暮らしてるけど、今は所謂“人型”をとってる。

 

 もっともそんな擬態なんかせんでも、余程の力がない限り二人の姿は見えへんねんけどな。

 

「あんた等に話―ゆーんは―――前にゆーたウチ等一族の能力と―――それに伴う“使命”っちゅーやつについてや―――」

 

 相変わらずばあちゃんは、何とものんびりとした話し方や。

 そこだけ聞いたら、ほんまに大したこと無い話に聞こえる。

 けどその内容は出だしから核心突いとって、とても気楽に聞けるとは思えんかった。

 

「龍彦―――ウチ等の能力については―――……もう知ってるわな―――?」

 

 『知ってるやろ? 知ってなおかしいわな―。知らんかったら……分かってるやろな?』

 

 ばあちゃん……にこやかな笑顔で俺に聞いてくるけど、そこにはまさに脅迫染みたもんが込められとるで……。

 

「え……え―っと……。た……確か、地脈に接続することで、俺等は地脈の力を借りて、高い霊力を扱える……」

 

「……はぁ―――……」

 

 俺が答えてる途中で、ばあちゃんはわざとらしい、深ーいため息をついた。

 なんや……? なんか間違ったんか?

 

「ほんま―――……アホな孫でゴメンやで―――……。利伽ちゃん―――代わりに答えたって―――」

 

 ばあちゃんが、サクッと俺をディスって利伽に回答権を移した。

 うん、聞くまでもなく、俺の回答は間違っとってんな。

 

「えーっと……八代と不知火の一族は、他の一族には出来へん『余所の地脈に接続できる』力があるから、それを活用して困ってる封印師の人達を助ける……かなー?」

 

 ……あぁ……ああ、ああ……うんうん。

 知ってる。知ってるわ。

 なんか聞いたことあるわ……それ。

 

 俺が漸く気付いたって察したばあちゃんは、またまたわざとらし―――くため息をついた。

 

「ほんま―――ありがとうな―――利伽ちゃん―――。このアホはこれからも抜けてるやろ―けど―――仲良ーしたってな―――」

 

 見事正解を言い当てた利伽には褒め言葉。

 んで、俺にはチクチクと嫌味をゆーて、ばあちゃんは利伽に微笑みかけた。

 

「はい! 頑張ります!」

 

 正解して嬉しいんか、ばあちゃんに誉めらて照れてるんか、顔を赤くした利伽は興奮気味に答えた。

 

 しかし、俺への口撃はこれだけに留まらん。

 

「全く……。同じ環境で育ったニョに、何でこうも違うんかニャー?」

 

「……元々の……素質の問題かと……思われます……。後……努力……」

 

 後ろに控えてるビャクと蓬から、まさかの追撃を食らった。

 なんやこれ……ここって、針のムシロの中心地かいな……。

 

「兎に角やな―――その能力を活かして―――古くからウチ等一族は余所の霊穴に赴いては―――色んな問題を解決してきたんや―。その殆どは―――やけどな―――」

 

 トラブルっちゅーたら、化身絡みが一番手やろうな。

 封印師の封印する霊穴から、僅かに漏れる地脈の霊気に引かれて、あちこちから化身が寄ってくる。

 厄介な案件は、出ばった俺等が解決する。

 んで、そこの封印師から報酬なり何なりを得るっちゅー寸法かな?

 

「それで早速―――依頼が何通も来てるんや―――。あんた等にはこれを一つずつ―――解決してもらうで―――」

 

 いつかはそうなる……俺等が動くって思ってたけど、なんやいきなりの急展開やなー。

 作者もネタに困ったんか?

 

「龍彦―――滅多なことは考えんとき―――偉い目にで―――」

 

 得意の「俺の心を読む」で俺の考えを察したばあちゃんは、にこやかな笑みを浮かべつつ俺を見た。

 その糸目になって見えへん瞳は、多分ギロリと睨んでるんやろな―――……。

 

 ―――閑話休題。

 

「そんなしょーもない事は置いといて―――まずあんた等に取りかかってもらうんは―――」

 

 こういう時、ばあちゃんの間延びした喋り方は、どっか勿体つけてるみたいで、なんやもどかしい。

 俺と利伽に緊張が走る。

 ビャクと蓬はいたって平静や。

 

「兵庫に行ってもらうで―――」

 

「兵庫県?」

 

「神戸?」

 

 俺と利伽は、かなーり素っ頓狂な声でばあちゃんの言葉を繰り返した。

 因みに俺の感覚では、「兵庫=神戸」てなってる。

 実際、兵庫県は広く南は瀬戸内海、北は日本海に面してる位やから、冷静に考えたらそんな事はあらへん。

 明石やら赤穂、城崎やら丹波やら……他にもぎょーさん、兵庫を代表する地名は多い。

 けど俺の中ではなんでか、兵庫は神戸って出てくるんや。

 

「まーな―――……。今回行くんは―――神戸やないけど―――その兵庫やで―――」

 

 ばあちゃんも俺の言葉の意味を把握してくれたみたいで、やんわりと訂正してくれた。

 

「兵庫県のどの辺りなん? ってゆーか、そんな近くにも“霊穴”があったんやね―」

 

 利伽も、俺の言葉に違和感なんかなかったみたいで、気にした様子もなく考えを口にした。

 

 確かに、関西には“不知火山”“八代山”っちゅー、強い霊穴がある。

 他にも、京都や奈良にあるっちゅーんは知ってるけど、兵庫ってのは意外っちゃー意外やった。

 

「大小に拘らんかったら―――それこそ日本各地に霊穴はあるんやで―――。今回の霊穴は―――そん中でもかな―――り小さい部類や―――」

 

 利伽の……んで、俺も抱いた疑問に、ばあちゃんが解説してくれた。

 

「……私が……以前巡っていた場所も……それほど大きな霊穴ではありませんでした……」

 

 それに続いて、蓬が自分の体験から意見をゆーた。

 

 蓬は以前、があって色んな場所の霊穴を転々としてたんや。

 何よりも実際に見てきたもんの言葉には、これ以上無い説得力がある。

 

「小さい霊穴やゆーてもな―――集まってくる化身の種類には関係ないんやで―――。事の大小に関わらず―――ウチ等は対処していかなあかんのや―――」

 

 まぁ、それはそうやな。

 問題なんは霊穴の大小やなくて、そこが抱えてる深刻度合いが重要やっちゅーこっちゃ。

 

「兵庫県丹波・篠山が―――あんた等に行ってもらう霊穴の所在地で―――あんた等の最初の“仕事”になんな―――」

 

 まるで“初めてのお使い”を言い渡すような表情のばあちゃんは、ホワホワとなんや楽しそうや。

 

 ―――けど、俺は知ってる……。

 

 ばあちゃんがこんな態度、表情ん時は、絶対ろくなことが無いっちゅー事をな。

 

 利伽も……ビャクと蓬もすでし知ってたか……。

 今、この部屋ではばあちゃんだけが楽しそうで、俺、利伽、ビャク、蓬の顔には、嫌―な緊張感がありありと浮かんでたんや。

 

 

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