理屈をこねると某モンスターゲットゲームはできない

深田くれと

第1話

 エアコンの効いた冷えた室内で、少年は手元のゲーム機の画面を見つめている。

 物語もあと少しで終わるらしい。

 発売日から欠かさず毎日プレイしている。

 選ばれたモンスターマスターだけが通れる道を乗り越え、とうとうチャンピオンとぶつかる手前の四人衆と戦う場面。

 印象的な音楽と、特徴的なデザインの建物。

 このゲームをプレイする誰もが胸を熱くするラスト。

 しかし、操作する少年にそのような様子は見られない。

 無機質に次々とモンスターを交換しながら、出てくる敵の使役するモンスターを撃破していく。


「兄ちゃん、『かえんほうしゃ』くらって生きてるってありえないよね」

「ん?」


 同じL字型のソファに座る一回り歳が離れた兄にそんなことをつぶやいた。

 兄は読んでいた小説から目を離し顔を上げる。

 だが少年の目はゲーム機から離れていない。声だけだ。


「いきなりだな」

「だって、草タイプが『かえんほうしゃ』くらって何で生きてるの?」

「燃えにくい草なんじゃね?水分が多いとか」

「それ水タイプ混じってるじゃん?違うって。草タイプのみのやつ」

「……」


 兄は声にならない声を上げ、腕組みをした。

 そして、自分が小学生だったときにプレイした記憶を遡る。


「あんま覚えてないけど、俺のときはエスパータイプが異様に強かった記憶しかないな」

「今は違うんだって。タイプも色々あるし、しかも意味不明な技も覚えるし」

「意味不明?」

「うん。こいつなんか、電気と地面タイプなのに水技の『ねっとう』使えるんだよ?」

「『ねっとう』?」

「熱湯かけて火傷させる技」


 一息ついたのか、少年が兄の元にゲーム機を持って移動してきた。

 そしてゲーム内のモンスター情報を開いて、兄にそのモンスターを見せる。

 映っているのは平べったい魚型のモンスター。

 ちょうちんアンコウとカレイを足して二で割ったような容姿。

 はっきり言ってカッコいいモンスターには入らないだろう。


「ね?使えるでしょ?でも電気と地面で熱湯なんか作れないじゃん」

「地面って水もあるし、電気で温めれば何とかなるんじゃない?それに魚っぽいし」

「戦闘中にそんなの使えないって」

「まあ……な」

「それに『じしん』で何でダメージくらうのって感じ。家が壊れるわけでもないし」

「割れた地面に落ちるとか?」

「それは『じわれ』って技があるじゃん」

「そんなこと言ったら『はかいこうせん』とかもっと意味不明だろ。あれだって属性関係なしに撃てるやついるし」


 少年は兄の真面目な返しに「ふーん」と言いながら元の位置に戻っていく。

 自分で話を振った割に、大して興味は無さそうな様子だ。

 とうとうラストのチャンピオン戦が始まったのか、BGMが一層アップテンポになり、少年の顔が今日初めて純粋にゲームを楽しむものに変化する。

 

 だが――

 

「バカ話はいいけど、もうゲームの時間終わったから止めなさい」


 キッチンで料理をしていた母親から放たれた無慈悲な言葉に、少年はこれ以上無いくらい泣きそうな顔で振り返った。

 少年には、母親の言葉こそ、一番ありえないものなのである。

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理屈をこねると某モンスターゲットゲームはできない 深田くれと @fukadaKU

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