4

 ドンッという音がして背中に激痛が走った。思っていたより低いところから飛び降りたようだ。


 鮫川の乗ったバケットが飛び降りたのは宅配トラックの荷台の上で、上を見るとビルの二階の窓が割れていた。


 窓からは大勢がこちらを見ていた。


 鮫川が荷台から飛び降りると、皆は驚いて立ちすくんでしまった。


 目の前にあったのは大都会・東京ではなく。廃墟だった。都市だったものの廃墟。瓦礫の山だった。


 鮫川の目の前には巨大な廃墟都市が広がっていた。


 どれもコンクリートがむき出しで、錆びついた鉄骨が飛び出している。


 高層ビルは最上層がどれも寸断されていて、低いビルも壁が崩れ落ちていたりひしゃげていたり地面にめり込んでいた。どのビルも窓ガラスは一つもなく只の穴だった。

 アスファルトはひび割れ、盛り上がり、あちこちにクレーターができていた。そして、瓦礫の山の数々。ぺしゃんこになった車、破壊された自動販売機。


 これはどういうことだ?

 ついさっきまで整然とした綺麗な都市がそこにあったのに…。


 更にその光景をいびつにしているのが、所々に点在する真新しいビルだった。瓦礫の中に突然新品のビルが建っていた。


 中途半端に再建されつつある都市…。


「薄木川心の治療院」が入っていたビルもそうだった。

 そこから叫び声が聞こえた。振り向くと二階の破られた窓からは小野木先生だった物ともう一人がこちらを見て何か言っていた。

 一階のエントランスからは二人の警備ロボットが飛び出してきた。

 警備員なのに腰にはホルスターがあった。「警察?」いや、警察などではない、明らかに警備員の制服だ。


 鮫川は走って逃げた。ロボットにだけは捕まりたくない。瓦礫が積もる街路へ向かって必死に駆けた。


 突然、鮫川の顔と腿の横を熱線が走った。レーザービームのような光線。いや、まっすぐに走る稲妻のような火の玉がヒュン、ヒュンと音をたてて鮫川に襲いかかった。振り返ると警備員が鮫川を狙って銃を撃っていた。


「日本で銃撃戦なんて、マジかよぉ」


「撃っちゃいかーん。彼を傷付けるなぁ!」後ろから小野木先生の叫び声が聞こえた。


 鮫川は、今まで立派なビルだった瓦礫と瓦礫の間の小道に飛び込んだ。小道には瓦礫が雪崩れ込んでいて走りにくかったが、大きなコンクリート片を避けながら必死に走った。


 小道から路地へ、そしてまた路地へ、何度も曲がり角を曲がって追手を撒きながら右へ左へと曲がりながら必死に走った。


 やがて、角を曲がった所でエンジンを点けたまま駐車しているオフロードバイクが見えた。


 鮫川は二輪車の免許など何も持っていなかったが、動かし方だけは知っていた。普通自動車の免許も見栄を張ってMT車で受けたから、クラッチの使い方もなんとか分かる。


 鮫川はバイクに跨り、ウイリーしないように注意してスロットルを開きながら、バイクを加速させた。


 バイクの持ち主が慌てて出てきたようだが、既に遠くはなれていた。


 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。数台のパトカーが集結しているようだ。


 大通りに出てみると、道は空いていた。殆どが配達用の二トントラックで、乗用車は殆ど無い。大型トレーラーの方が多いくらいだった。

 車は異常なくらいに車間距離をとって走っていた。


 鮫川はその隙間を縫うようにして追い抜かしていった。後ろからパトカーがサイレンを鳴らしながら追ってくるが、トラックの隙間をすり抜けてまでは追って来ない。

 

 しかし、幹線道路を走った途端にパトカーが次々と追ってきて、その数は段々増えてきた。


 幹線道路脇には所々に真新しいビルが建っていた。時には複数のビルが連なっているところもあった。


 恐らく、この新しい建築物がアンドロイド達のテリトリーなのだろう。幹線道路の歩道には何体ものアンドロイドと人間が歩いていたが、その数は廃墟になる前の都市より遥かに少なかった。


 鮫川はバイクを狭い道路に向かわせ、瓦礫が道路脇を埋め尽くす小道に入って、何度も廃墟の角を曲がった。


 小高い丘を登った所で、巨大な鉄の塊に出会った。何か巨大な建築物が高温で完全溶け落ちて一塊になっていた。

 周りに残った廃墟と建築物の名残の形状から見て、それは東京タワーが溶け落ちたもののようだった。


 反射的に東側を仰ぎ見た。東側の高層ビルは全てなぎ倒され、砕き落とされていて、何も障害物はなかった。そして、そこに見えるはずのスカイツリーすら見えなかった。





 to be continued



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る