最終章・大団円なら丸く収めるもんでしょっ⁈

「ふ・はははははっ! 攻撃対象しか見ずに虫ケラの姿は完全に見落としてたようだなっ!」


百鬼神め。いじめに遭ってた女の子をいつのまにか荒縄で縛り上げて手繰り寄せてたなんて。

それにしても・・・


「虫ケラはあんたでしょうが、百鬼神!」

「何を言う。虫ケラはこのイジメられっ子であり、ウツムキでありプサムだ。俺は神だ」

「どうする? ウッチー。まさかあの女の子もろともセロトニン枯渇させるわけにもいかんだろう」

「ええ。あの女の子は辛酸のリミッターが振り切れる寸前よ。そんな時にうつ状態になったら・・・」

「ポジトじゃ無理か?」

「残念ながら百鬼神にお笑いは通用しないわ」

「え。さっきの僕のポジティブシンキングがお笑いだと?」


あら?


あの子・・・・

口を開くわ。何を言うつもり?


「もう、いいです」


え。


「もう、どうでもいいです。早くこの百鬼神を消してあげてください」

「何言うの。そんなことしたらあなたまで廃人になってしまうわ」

「いえ。わたしはもう死んでるのと同じです。今更生き返ったってわたしの小学校時代は戻ってきません。早く百鬼神を消してあげてください」

「ふっはははははは! やっぱり虫ケラだな。生きる気力すら無くしておるわ!」

「ウッチー、いけるぞ!」

「ええ。いけるわ!」

「な、なんだと⁈」

「百鬼神。今まさにこの子は神の領域に足を踏み入れたのよ。少なくともアンタなんかよりははるかに上の存在になったわ!」

「な、何を言っておる! こんな弱タレがそんなわけなかろうが!」

「いいや、ウッチーの言う通りだ。この女の子は『どうなっても構わない』という無我の境地に達した。長い長いいじめの辛酸がこの子にありとある衝撃波を跳ね返す力を授けたんだ!」

「つまり、跳ね返った力はアンタに向かうしかないってことよ!」

「行け! ウッチー!」

「ほらほらほら! アンタの脳内セロトニン、全枯渇させてやるわ! 鬱に堕ちろっ!」

「ぐわああああああああああっ!」


萎えろ萎えろ萎えろ萎えろ。

もう誰もいたぶれないように、鬱の地獄で這いずり回れっ!


「あ、キミ! 大丈夫⁈」

「大丈夫よ、ポジトくん。その女の子は寝てるだけ。ほら、周りも見てみて」

「あれ? 全員眠りこけてる」

「鬱を全部百鬼神が背負っちゃったからみんな安眠してるのよ。この女の子も早朝覚醒でずっと辛かったと思うわ」

「そっか。で、この百鬼神はどうなったの?」


あらまあ。百鬼神の奴、体育座りして完全に表情が消えてるわ。

こうなってみるとちょっとかわいそうね。


「ポジト。百鬼神はこのまま置物にでもしておこう」

「え。それでいいの?」

「仕方ない。元はと言えば自分が蒔いた種だ。俺たちではどうにもできん」

「さ、ポジトくん。給食室に行くわよ」


さ。最後の仕上げね。


「ほら、ポジトくん。早くポジティブシンキングを注ぎ込んで」

「どうやるの?」

「こうやるのよ!」

「わあっ!」


わたしがヘッドバッドしてポジトくんと一緒に給食大鍋に飛び込んで、っと。


「プサム、出汁だしとって!」

「ああ」

「わわわわ!」

「ポジトくん。鍋ん中でゴロゴロしてたらあなたのポジティブシンキングのい〜い出汁だし取れるからね。ほら、ぎゅーっ!」

「わ、やめろー。抱きつくなーっ!」


五分ほどだったわね。十分だわ。


「どう? ポジティブシンキング抜かれてまたウツウツしてきた?」

「ああ・・・でも、さっきほどじゃない・・・」

「ふふ。言ったでしょう。ポジトくんは少しブルーな方が翳りがあってかっこいいのよ。さ、あとはみんながこの給食を食べれば全員極楽よ。この辺でおいとましましょ」



ああ。

来る時の軸のコンベアとまた違う爽快さね。

まあ、充実したわ。

百鬼神も再起不能にできたし。

ほい。

ポジトくんの部屋に到着、っと。


「ウツムキ」

「なあに?」

「そういえば、僕の好きな子の生まれ変わりが地獄の釜の淵に落っこちるのを救う、ってのもあったと思うけど、どうなった?」

「あら。もうちゃんと救えてるわよ」

「え? 嘘?」

「ほんとよ。ほら」


よ。ポーズとって、と。


「・・・何セクシーポーズとってんの」

「あらら。だって、ちゃんとポジトくんの活躍で救ってもらえたから、そのお礼よ」

「ちょ、ちょっと待って。僕の好きな子の生まれ変わりって」

「じゃーん。わたしでっす!」

「・・・・いや、そんなはずないでしょ」

「ううん、そんなはずあるのよ。で、どの時代どの空間に行こうが生まれ変わりのオリジナルはこの姿のわたし」

「・・・なんで」

「さあ。わたしにもわからないわ。でも、運命なんだからしょうがないでしょ」

「ポジト。鬱っ気のウッチーとポジ・シンのお前なら相殺してちょうどいいだろう」

「あらプサム。相殺なんて無味乾燥な言葉使わないで。せめて『融合』って言ってよ」

「い、いやだー!」

「ポジトく〜ん。わたしとウツウツポジポジ添い遂げましょうよ〜」


うーん。

清々しいエンディングね。


じゃあ、娑婆しゃばのみなさん。

ウツウツしたら呼んでね〜。

ポジポジしてあげるわ!

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ウツムキちゃんとポジトくん naka-motoo @naka-motoo

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