ユウレイがいた日

@syuumai

第1話 犬

幼い時から、俺はヤバイ奴自だと自覚していた。まぁ、某漫画とかアニメとかではそういう出だしで読者の心を鷲掴みにするだろうとかなんとか。

脱線したが、俺は生まれつき、死ぬほど、死んでいる霊が見える。

通学路で、電柱に喧嘩売ってるヤンキーの霊とか、土下座して微動だにしないオッさんの霊とか。はっきりくっきり見える。否、見えてしまう。

そして、見えてしまう奴には、特有の悩みがある。

ヤンキーと目を合わせると、標的をこっちに変えて走って来たりとか。オッさんに至ってはお金をせがまれたりとか、もう散々だった。

だから、精一杯の"無視"をすると決めた。

だが、

「グルル……」

犬には関係無かった。

「っ、離せ」

「グルゥ……」

小汚い茶色の犬は、俺の足にしがみ付き、決して離そうとしなかった。一体何の未練が残っているのか。しかも幽霊か地縛霊らしきものなので、もうあと3日は離してもらえそうにない。過去にもそんなことがあったのだ。ひょんなことからナマケモノが、頭に寄生したことがある。その時はただ単純にバナナが食べたいという未練もへったくれもない願望を当てた為、弁当になるはずだった俺のバナナを上げたのだ。お陰でナマケモノは秒で成仏した。呆気なく終わったナマケモノ生活も、今となっては良い想い出に…なるわけでもなく。

犬に好かれてします始末だ。もう泣きたい。一先ず、このまま家に帰ろうにも犬が邪魔で帰れやしない。

「チッ…。今度は食べ物が目的ってわけじゃなさそうだな…」

だって、見るからに丸々ふとった犬なのだ。亡くなる前は有数のお金持ちにでも飼われたのだろうか。

「はぁ……。でも、どうすりゃ…」

「その子、ボールで遊びたいみたいよ」

「ボールかぁ…でもボールなんてサッカー……え」

突如後ろから聞こえた声に、思わず身構える。

「お、お前、視えるのか!?」

「うん?……うん」

振り向いた先に見えたのは、小柄な少女の姿だった。小学生くらいの背で、俺を見上げていた。返事が歯切れが悪かったのが少し違和感を感じたが、すぐに犬と向き合う。

「うーんと、その犬は……」

手には黒い背景に可愛らしい白い幽霊のイラストが一体描かれているノート。ボールペンらしきものを使って何やら書き込むと、パタンとノートを閉じ、俺の足に噛り付いている犬を見下ろす。

「どうするの」

「どうするのって…」

このままだと学校に遅刻する。

「遊べば…いいのか?」

解決方法を問いかけると、少女はにぃ…と口角を上げ、口を開こうとした瞬間…。

「キャンキャンキャンッ!!!」

犬が途轍もないスピードで足から離れ、何処かへ行ってしまった。呆然と見送る2人。犬は俺のズボンに歯型を残し、帰ってくることはなかった。

「お前、視えるのか?」

あやふやになった疑問を二度目の言葉で伝える。小さい頃からあった特有の"個性"だったから、仲間が見つかったと、少女だろうが少し興奮した。

「うん」

特に犬を気にすることも無く、あっけらかんと少女は答えた。白いワンピースに、首には明らかに安物そうな、赤色のネックレスを下げていた。

「……」

少女は、叫んだ俺の顔を物珍しそうに見、そして言った。

「貴方、死んでるよ」

「…………は?」

はぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあああああああぁぁあぁああ!?!?

硬直する体。そんなことは御構い無しに、少女は続ける。

「まさかこんなに気が付かないなんて。珍しいこともあるんだなぁ。しかも自分が生まれてから幽霊が見えるーなんて。よっぽど頭の打ち所が悪かったんだろうなぁ」

腕を組んでけちょんけちょんにしたその少女は、ポケットから何か手帳を取り出すと、何かを書いてまた戻した。

「それで、何か未練はありますかー」

未だ内容が理解出来て居ない俺に問いかけても、真っ白なので何も考えれない。動かせるのは口をパクパクさせることだけ。「まだ理解出来てないのー?」という少女の声が、いつまでも耳の奥に残った。



***



それから、少女は自分を巫女と名乗り、俺の現状を教えてくれた。

「つまり、俺はもう死んでてそれに気付かなくて一週間程度彷徨ってた……。幽霊が視えるってのはただ頭の打ち所が悪かった…つーことだな。成る程分からねえよ!!!」

最後に思い切り空に叫んで、悲しみを訴える。こんなことしても無駄と思っても(2回目)悔やみきれない。

「そんで、巫女さんよう…。俺は何したら成仏出来るんだ」

暑かろう地べたに座り込み、上目遣いで見上げていた小さな目が揺れ、はぁ…と息を着いた。

「だから、それを聞いてるんだってば」

飲み込んだというより、この状態を飲み干した俺は、必死に打開策を考える。死んでる、と自覚するには十分根拠はある。最近友達が異常なくらい無視するし、出席取るとも先生は俺を飛ばすし。居眠りしても怒られないし、家に帰ってもご飯は何故か遠くに置かれるし。そして、信じる決め手となったのが、扉をすり抜けたことだった。下に続く階段と屋上までの扉。

それを「気合いでいけば通り抜けられる」という謎の言葉に乗せられ、気合いで突っ込んだところ、目の前には暗い階段。下半身は扉にめり込んでいた。流石にこれは応えた。「未練、未練……未練んんーーーー……」

呪文のように繰り返す。けれど、何回唱えたって答えは出てこない。

「あーじゃあ、死んだ理由とかは?そうすれば何と無く分かったりするかも」

「おお、成る程」

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