第4話集結

 ゾラはチェコスロバキアとソ連とのの為ウクライナにいた。ソ連赤軍にはサーニャがいた。作戦指揮はサーニャと同じ苗字の元帥が執っていた。3日前からジャマーの掃討作戦をしていて、ようやくジャマーの巣にたどり着いていた。巣は電話ボックス程度の大きさだった。

「ベルリンの時よりは素早く片付きそうね」

「そうね」

 ゾラとサーニャは短く言葉を交わすと巣に近づく。

「いつでもどうぞ」

 ゾラが手榴弾を投げ込める位置まで行くとサーニャが合図する。ゾラは手榴弾を投げ込む。

 ドカーン!

 手榴弾が炸裂すると巣はあっけなく崩壊した。

 爆煙が消えるとジャマーが姿を現した。サーニャはマガジン一個分の弾を撃ち込む。ボンボン音がする。これはジャマーが消滅する音である。ジャマーは手榴弾では効果がない為銃弾を撃ち込む必要があるのだ。そこが人間相手の戦いと異なる点である。しかも、ジャマーの大きさや種類によっては弾種を変える必要があった。

「リロード!」

 弾倉交換の為、サーニャが叫ぶ。今度はゾラが機関銃を撃つ番だ。

 ダン!ダン!ダン!

 ゾラはセミオートで狙撃する。ぼとぼと排出された撃ち殻が地面に落ちる。ジャマーも次々消滅する。10発程撃った所でジャマーの殲滅を確認した。

「ふう。これで終わりかな」

 ゾラはふぅと息を吐く。

「他のジャマーの気配も感じないし、任務完了ね」

 サーニャは立ち上がる。

 念の為周辺捜索も念入りに行う。今回は小型のジャマーのみだった様だ。馬に乗って引き揚げ、キエフに着いた時はすっかり夜が更けていた。ソ連赤軍の兵営に戻るなり当直士官より電報がゾラとサーニャに渡され、元帥にもモスクワから電報が届いていた。

「遂にお呼びが掛ったわ!」

 ゾラとサーニャは手を取り合った。正式に国際共同管理委員会からの召集が掛ったのだった。翌朝、準備の為ゾラはプラハへ、サーニャと元帥はモスクワに戻った。


 ゾラはプラハに到着すると参謀本部に向かう。報告の為総長室に伺うと、総長とクドルナ大佐の他、クドルナ大佐の末娘、ミリアム嬢もいた。更にレンカとユリエまでいた。ゾラは一通りの報告を済ませる。そして総長から通達を受ける。

「ゾラ君。ベルンの国際共同管理委員会から、国際連合部隊のメンバーとして召集が掛かっている。明日の汽車でベルンに向かい給え。」

「はい!了解しました!」

「それから‥。クドルナ大佐のご令嬢、ミリアムさんも国際共同管理委員会のスタッフとして一緒に同行する」

「ゾラ。よろしくね!」

「は、はい。よろしくお願いします」

 ゾラはビックリして声が裏返ってしまった。すかさず笑いが起きる。

「ゾラ。ミリアムを頼む」

 クドルナ大佐はゾラに頭を下げる。こんな事は初めてだった。

「はい!お任せください。大佐殿」

 ゾラは笑顔でクドルナ大佐に応えた。

 翌日、ゾラとミリアムはベルンへと旅立った。


 ゾラとミリアムはウィーンに向かう汽車の中にいた。ベルンには、ウィーンでジュネーブ行きに乗り換えだ。しかし、二人は退屈する事もなく、邪魔者がいないコンパートメントでおしゃべりに興じる。

「それにしてもミリアム。よく大佐がベルン行きを許してくれましたね?」

 ゾラはずっと不思議に思っていた事をミリアムに質問をする。

「うふふ。それはね、私が変わり者だからなのよ。お父様やお姉様達は、世の中に出て、私がどんなに変わり者なのか自覚して来いって送り出してくれたのよ」

 ミリアムは楽しそうにしてゾラに訳を話してくれた。

「はあ。ミリアムって策士ですね。私にはそういう心境というものがあまり理解できないです」

 ゾラはミリアムを見つめる。ミリアムはクスクスしたり顔で笑っている。

「ベルンでは学校に行かれるのですか?」

「ええ。勿論。お仕事は勉強の合間って感じになるわね…。まあそれが条件の一つでもあるけれど」

 相変わらずミリアムは楽しそうだ。汽車はそれ程遅れずに、ウィーンに到着した。ここでジュネーブ行きに乗り換える。ベルンには、暗くなる前に到着する。

「思っていたよりも寒くないわね」

 ミリアムはホームに立つとカッコを付けて開口一番感想を言う。

「ミリアム、早くこっち!」

 ゾラは初めて外国に来てフラフラ歩いているミリアムを呼びつけた。駅舎でマルガレータが待っていた。ドイツ空軍ルフトバッフエの青っぽい軍服は結構目立つ。ゾラとマルガレータは手を取り合って再会を喜ぶ。

「いつこっちに?」

「おとといさ」

 ゾラとミリアムはマルガレータが運転する車で宿舎に向かった。


 本部と宿舎は車で20分程の街外れにあった。街の方はなかなか適当な物件が見つからず、委員会も難儀した様だった。何とか適当な広さを持つ使われていない郊外の農家を買い上げたとマルガレータから聞かされた。宿舎に入ると、フイーネとアリーヌ、スザンナ、名子がいた。みんな再会を喜ぶ。名子は元々日本からイタリアに派遣されていたので、本国の指示の下、スザンナと一緒に来たとの事だった。

 ゾラはミリアムを五人に紹介する。ゾラの名付け親と聞かされていた五人はミリアムが自分達とあまり変わらない少女の容姿に驚く。

「ミリアム クドルノヴァ。ゾラを始め、チェコスロバキアの機関銃娘の名付け親なの。国際共同管理委員会のスタッフも学業の合間に勤めるわ。よろしくね」

 ミリアムは簡単な挨拶を言うとうやうやしくスカートを両手で少し持ち上げるポーズを取って見せる。六人の機関銃娘は歓迎の拍手をする。その時、誰かがぐう~~とお腹の虫を鳴らす。

「もう、誰?」

「ご、ごめんね。いい雰囲気だったのに」

 スザンナは顔を赤くしてうつむく。みんな大爆笑をする。

「さあさあ夕食にしましょう。マルガレータは二人のお部屋に案内して下さらない?」

 フイーネはマルガレータにゾラとミリアムの部屋の案内を依頼する。

「うん。分かった」

 マルガレータは快諾した。

「さ、こっちだよ」

 マルガレータはゾラとミリアムを案内する。三人は二階に上がる。農家にしてはやけに広い。ゾラは少し違和感を感じた。そのうち自分に割り当てられた部屋の前に着く。ドアには既に名札が掛けられていた。

「ゾラはそこ、ミリアムはこっちだね。シャワーとトイレは一階の裏の方にあるよ。荷物置いたらすぐに下に降りよう。みんなお腹が空いているから」

 マルガレータはウィンクをする。ゾラとミリアムは自分の部屋に荷物を置く。急いでダイニングルームに行くと、既に料理が並べられていた。

「かんぱーい!」

 こうして楽しい夕食兼歓迎会が始まった。


 翌日、朝食の後フイーネに施設の案内をしてもらう。本部は隣の二階建ての建物だった。しかしどの建物も石造りで立派かつ頑丈な造りだ。ゾラはフイーネにどんな使われ方をしていたのかを尋ねる。

「前は民兵隊の施設だったのよ。使われなくなったので譲ってもらえたのよ」

 と、フイーネは説明してくれた。今度はフイーネがゾラになんでそんな質問をしたのかと聞いて来たので、昨日のマルガレータの話をした。フイーネは聞き流していたが、後でこっぴどく叱られるマルガレータをゾラは想像してしまった。

 その後委員会に挨拶をする為、ゾラとミリアムはフイーネの案内で、ベルン市街に電車で向かう。トラムとは似て非なる乗り物にミリアムはいたく感動している。10分程で到着すると、徒歩で委員会事務所に向かう。事務所は立派だったが、急遽の設置の為なのか、委員会の人員は委員の他、副官や従卒、秘書といった人達で、極めて少数であった。

 事務所で委員長の赤いナポレオンとマントイフェル男爵に会う。

「やあ。初めましてバルチーコバァ大尉。ミリアム嬢お会いできて光栄だ」

「こちらこそ。委員長、男爵。ゾラとお呼びください」

 ゾラとミリアムはそれぞれ握手を交わす。

「ミリアム嬢はパートタイムながらチェコスロバキアの委員ですからなぁ」

 男爵がそう言うと、ゾラはえーと驚く。

「言ってなかったので?」

 今度は男爵が驚く。ミリアムはドヤ顔でVサインをしてニヤニヤ笑う。

「ミリアム。Vサインなどしている場合ではありません。所で機関銃娘達の隊長はどうなさいますか?委員長」

「勿論ゾラにやってもらう」

「はい。分かりました。ジャマーの討伐に全力を尽くします。」

 そう言うとゾラは敬礼をする。

「うむ。期待しているよ」

「はっ!」

「では、座ろう」

 赤いナポレオンはみんなソファーに腰掛ける様に言った。

 暫しの談笑の後、会議室に移動して、イギリスとフランスの委員も加わって会合が開かれる。国際連合部隊のメンバーについて、ファイルが男爵から渡されて説明を受ける。また活動規則についても副隊長に選ばれていたフイーネと共に法律顧問を兼ねるイギリスの委員から講義を受けた。各国からの出動要請は在ベルンの大使館から国際共同管理委員会を通じて行われる他、兵站関係も手筈を整えつつあるとの説明を受ける。指令は委員長から隊長に直接電話で伝えるとの事であった。会合は活動全般についての説明で終了した。

 会合が終わると、ミリアムは転校先の学校に向かう。ゾラとフイーネも同行する。学校で手続きをして宿舎に戻ると、アリーヌとスザンナが夕食の準備をしていた。

「今夜はビーフシチューよ」


 次の日、ミリアムは学校に登校した。ゾラ達機関銃娘達は本部で装備の点検や整備、倉庫で兵器弾薬、兵站物資の確認などをしていた。本部の電話が鳴ったのは昼下がりの時刻だった。

「はい。部隊本部」

 ゾラが電話に出た。電話の主は委員長だった。

「あ、ゾラ。今日の夕方、サーニャとエイミーがベルン中央駅に到着する。迎えを頼む。到着時間は…」

 ゾラが分かりましたと返事をすると電話はガチャと切れた。ゾラはマルガレータに電話の内容を伝え、迎えの依頼をする。それからみんなにも伝えて、受け入れの準備をする。勿論夕食はサーニャとエイミーの歓迎会だ。


 最後にアメリカからバニーが到着したのはその3日後だった。

「やっとみんな揃ったわね」

 部隊本部の事務室。みんなで記念写真を撮る事にした。

「はーい。カメラを見てー!」

 スザンナがセルフタイマーをセットする。

「早く、早く!」

 スザンナが列に収まった所でシャッターが切られる。

 カシャ!

 記念撮影が終わるとみんな妙にだらける。

「はーい、ちゅもーく!」

 ゾラはみんなの前に出る。

「今日只今から機関銃娘の国際連合部隊の始まりですっ。うーんと。フイーネ、マルガレータ、アリーヌ、スザンナ、名子、サーニャ、エイミー、バニー。ジャマーとの闘い。力を合わせてみんなよろしくね!」

 ゾラは手を差し出す。みんなも手を差し出した。

「ファイトー‼」

「オーーッ!」

 気合いが入った所でバニーがゾラに質問した。

「所でゾラ?」

「なあに?」

「チーム名はなんて言うの?」

「…考えてない…」

「えッ!」

 今度は名子がゾラに質問する。

「じゃあ部隊章エンブレムも?」

「うん…」

 ゾラの顔は青くなる。そこにフイーネが畳み掛ける。

「じゃあ制服のデザインも?」

「……」

「え?制服は今のでいいんじゃない?」

 マルガレータはフイーネに言う。

「駄目よ。制服はちゃんとお揃いにしなきゃ」

 アリーヌが横から首を突っ込む。フイーネとスザンナも頷いている。予想外の展開にサーニャとエイミーもポカーンとしている。

「そこまで考えつかなかった様ね」

「はい…」

「……」

「じゃあミリアムに手伝ってもらいましょ。彼女、こういうの得意そうだから」

 フイーネがまとめる。それを聞いてゾラはしくしく泣いて頷いた。


 そして、事情を知らされたミリアムは、はりきってネーミングやデザインのアイデアに没頭したのは言うまでもなかった。


                                 (完)

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絶好調 マシンガンガールズ 土田一八 @FR35

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