この満天の星空を見上げて

やたこうじ

この満天の星空を見上げて

「ねえ、今日は新月だから、星空を見に行こうよ」


そう言うやいなや僕はオンボロ車に君を乗せて山奥に連れて行くことにした。

街の灯りが遠くなるまで走ろうなんて言いながら、自分が昔走った道だと思って辿れば結局迷っていた。


ここは山々の谷間。

空を見上げても、木が多すぎて何も見えない。


「もういいよ、帰ろうよ」


そう言って、君は僕の失敗を気にしていないよ、という風に振る舞ってくれる。その笑顔に嘘もなさそうだ。


僕はこんな日を待ってた。

昔、小学校の頃に見た、降り注ぐような星空を君に見せたい。

満天の星空、というに値する見渡す限り輝く空を。


折角の新月なのに、星を見る絶好の機会なのに、それを君見せることができない。


だから僕はいやだった。あの場所へ、あの空き地に連れて行きたい。


でも夜の山はなにか怖い。その気持ちを汲み取るように君もちょっと怖いな、って言ってくれた。


残念だけど、君が怖いなら、と僕は帰ることにした。そうね、と笑う君は全然怖がってなんかいない。


でも、帰り道に少し開けた場所を見つけた。


「ここでいいんじゃない?」


君がそう言ってくれたので、少し休むことにした。


何もない駐車場に座り込んで、空を見上げると、星がいっぱいだった。


これもきれいだ。

でも、降り注ぐような星空じゃない。


「綺麗だけど、こんなんじゃないんだ」


僕はそれがどれだけすごいか、もう一度君に説明する。


ここは少し街に近い。街の明かりが、近くの外灯が、星の光を僕たちに届かせない。


「場所も場所だし、こういうのは冬のほうがいいんじゃない?」


君は星空を見ながら、笑顔でそう答える。


「十分綺麗だよ」


見上げたまま、そう言ってくれる。


確かにそうかもしれないけど。


大きな、小さな、赤い、青い、様々な光が敷き詰められたあの空を。

あの星だよ、と指差したとしても、自分も結局どれを教えたかったのかもわからなくなるようなあの星の数を。

これが天の川なんだ、すごいね、と言わせたい。星々の大河の流れを君に見せたい。


また、もう一度、来よう。

そして君に見せるんだ。


「そう思ってたんだけど」


僕は皿洗いをしながらつぶやく。


「次、お風呂の掃除お願いね」


お腹の大きくなった君が言う。


来月には、僕たちの星が生まれる。

僕たちに満点の笑顔を見せる、そんな星が。

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この満天の星空を見上げて やたこうじ @koyas

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