第27話 潜水艦

イズ王国王女ミスズさんの同行に関する手続きは『賢者のハイウェイ』本体の結界に入る許可と潜水艦という作業において重要な領域に入る許可が必要になる。

これらを速やかに終えた。

ナツさんとユミさんも潜水艦というエリアに入る許可を新たに得た。

軽く軽食を取り15時過ぎに潜水艦2隻と支援船2隻は出港した。

私とナツさんとユミさんとミスズさんが乗る潜水艦が実際の作業にあたり、1号艦と名付けられている。

乗員は私たち以外に操縦と作業補助の6人のオートマタがいる。

もう1隻の潜水艦は2号艦で周囲の警戒を行う。

ここにも操縦と作業補助のオートマタが6人いる。

海上の支援船の内の1隻、3号艦にハルさんが乗船している。

もう1隻が4号艦だ。

支援船の方も操縦と作業補助のオートマタが6人だ。

海上の支援船の主な任務は周辺の警戒である。

海にも魔物がいる。

だから陸上の街道同様に航路に魔物除けの結界が必要なのだが。

因みに魔物除けの結界は海面から上空100mと海中水深40mまでと海底に設置されている装置の周辺に張られている。

クジラやシャチやサメやエイやトドなどの魔物に加えて首長竜がいるということだ。

ということは並行世界の地球にも首長竜は生き残っているのか?


「ダイオウイカから魔物になったクラーケンやミズダコから魔物になったキラーオクトパスもいますがこの辺は少ないようです。ウミヘビの魔物化したシモダシースネークが多いと言います」


4隻は時速約20km、10ノット強で航行した。

途中で現れた魔物は少ないはずのクラーケンだったが、魔物の嫌がる結界を張ったためにすぐ離れて行った。

1時間ぐらいで現場海域に到着した。


『深度が深くなると魔物除けの結界が効きにくくなります。早めに攻撃して仕留めるのがよいでしょう。船も探索や攻撃ができますがユミ様の探索とミスズ様の水魔法にも活躍していただくことがあるかもしれませんのでよろしくお願いします』

「「わかりましたわ」」

結界維持設備にいるミオさんから通信が入り、それに対してユミさんとミスズさんが応えた。


16時過ぎ、2隻の潜水艦は潜航を始める。

これから夜という時間帯だが暗い海底では昼も夜も関係ない。

潜水艦は魔力発電で得られる電力と魔動エンジンと水魔法による推進力によって海中で自由に行動できる。

そして周囲の探知もお手の物だ。

魔法のお陰で地球での先行可能深度の5倍ぐらいの深さまで潜航が可能だ。

つまり潜水艦でありながら3000mまで潜れる。

魔法あってこそだよ。

今回の作業は深度1800m前後。

全く深度的には問題はない。


まずは最初に故障した結界装置の交換を1号艦が行う。

その間、2号艦は周囲の警戒を行う。

魔物の接近に対する警戒と海流の変動に対する警戒だ。

慎重に行わなければならない作業なので緊張はしたが潜水艦から周りに張っておいた結界も問題がなく、無事に交換と設定が終了した。

設定は私の管理者として認証も関係する作業だ。

問題を起こした代官と配下の魔術師は海上から魔法で修理しようとしてできず、さらに他の装置まで壊した。

そしてそのことが海の魔物を呼び寄せ、多数の怪我人を出したようだ。

よく死者が出なかったものだ。


あとから代官らによって壊された結界装置も無事交換と設定を行うことができた。周辺に異常がないか確認を行い、2隻の潜水艦は海面に向かって移動を始めた。


深度400mぐらいで潜水艦の探索装置に反応があった。

それと同時にユミさんが叫んだ。


「首長竜が12体接近しています」

「できるだけ殺さずに追い払いたいのだが、できるかな?」


作業員に尋ねてみた。


「今の結界では首長竜に対しては追い払うのは難しいでしょう」

「タカシさんって優しいんですね。それなら私が追い払いましょう」

「ミスズさん?」

「私の水魔法で傷つかないように追い払います」

「お願いできますか?」

「はい、任せてください」


別に私が優しいというわけではない。

こういう食物連鎖の頂点に近い所にいる動物を魔物とは言え殺すと環境へのダメージが大きいから殺さないようにしている。

この事は初めのレクチャーで注意された。

それも12体も一度に殺すのは影響が大きいからね。


ミスズさんが操舵室の全方位の探索と映像を見ながら水を操作し始めた。

水流が首長竜を押しやる。

初めは抵抗していた首長竜もたまらず逃げて行った。

(ただの水ではなく低温の水か。それも過冷却水)

様々なセンサーからのデータを表示していたモニターを見て気が付いた。

ミスズさんの作った水流は過冷却水の水による水流だった。

普通だったら衝撃で凍るところを魔法でマイナス10℃の液体の水を首長竜にぶつけたのだ。

(これでは首長竜もたまったもんじゃないな)

首長竜が凍傷にならないことを願うだけだ。

追い払うのに使った水はすぐに周りと同じ温度に戻っていた。

すごく繊細なコントロールが行われている魔法だ。

ミスズさんの水魔法に感心した。


潜水艦が浮上を終えると結界維持設備にいるミオさんに連絡をして結界の再構築作業をしてもらう。

1本の線から両側に拡げていくように結界を作ることによってこの領域に入り込んでいた魔物も追い出すことができる。

作業を終えたのは23時を過ぎたころだった。

私たちの4隻は日付が変わる頃に無事に専用の港に到着することができた。

『賢者システム』の港だけにある誘導装置が利用され、真っ暗闇でも危なげなく帰ることができたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る