第20話 貴族

直ちにメンテナンス作業を終了してユミさんをともなって医療施設に向かった。

医療施設ではナツさんと医療施設職員が治療費支払いの事で言い合っている。


「ナツお姉さんこういうことには敏感だから」


ユミさんが呟いた。

言い合っている二人を引き離して落ち着かせ、事情を聴いた。

医療施設側としては規定により昨日の治療に関して今日中の支払いを求めている。

駄目ならば借金ということで登録される。

ナツさんは自分が払うと言っている。

それでも借金になってしまう。

それも支払者がこの国の人間だないとこの国の援助が受けられず借金は倍額になってしまう。

ナツさんは少女を自分の侍女として雇い、支度金で支払うと提案したが外国の貴族や王族がこの国の人間を雇うには特別の許可が必要だということだ。

この許可はまず下りないということでもある。

許可申請を出した場合、不許可になった時点で借金が確定する。

申請を出すこと自体が無謀だ。

少女を借金から助ける方法はないのか。

外国の貴族や王族?


「私があの子を雇うことはできないかな?」

「可能だと思います」

「それでは・・「少し待ってもらえますか」」


振り返ると、仕立ての良い服を着た男性が立っていた。

「失礼いたしました。初めましてタカシ様。この地を治めます子爵のサカイガワと申します」

「はい、タカシです」

「ミノ王国の聖女ナツ様、公爵ユミ様、お初にお目にかかります。ここでは話もしにくいのであちらに部屋を用意いたしました。そちらでお話いたしましょう」


サカイガワ子爵に案内されて応接室にやってきた。


「改めまして。この地を治めています。子爵のサカイガワです。この医療施設も私どもで運営しております」

「それならば支払いを何とかなりませんか!」

ナツさんが叫んだ。

「この医療施設はこのカイ王国の規則に基づいて運営しております。それを曲げることができないのはナツ様もよくご存じだと思いますが」

「う、」

「子爵様、一つよろしいでしょうか」

「何でしょう、タカシ様」

「私が彼女を雇うのは問題ありませんか?」

「はい、ですがお勧めできません。そのような方法で助けると限度がなくなってしまいます。集落としてもタカシ様に借金をしていると聞きます」

「はい、そうです。ですからそれは最後の手段です。子爵様はカミクの集落に行ったことはありますか」

「いいえ、山道が危険ですので行くことができません。折角『賢者のハイウェイ』があるのに残念です。『賢者のハイウェイ』が利用できればいいのにと思います」

「そうですね、同感です」

「おや、『賢者システム』代表の方が『賢者システム』批判に同意ですか」

「改善すべきところは改善すべきです。大事な意見を否定すべきものではないでしょう」

「タカシ様は面白い方ですね」

「恐縮です。一緒に行ってみませんか。カミクの集落へ。今回の事件の調べも必要でしょう。12人も怪我をしたのですから」

「カミクへですか」

「ハイウェイでお連れしますよ。私の権限で。子爵様だけというわけにはいかないでしょうからそちらの秘書の方と護衛を1名の同行ということでよろしいでしょうか。ミオさんよろしいですね」

「はい、『賢者システム』の方としても問題ありません」


承認用の魔道具を準備して子爵ら同行者に渡した。

少女の姉にも同行してもらう。

ハルさんには付き添いとして医療施設に残ってもらった。

ミナミコウフサービスエリアの魔力車でカミクの集落に向かう。


「タカシ様は変わっていますね」

「はい?」

「規則にうるさい『賢者システム』の方なのに考えが柔軟だ」

「私も規則は守っていますよ。ただ権限が大きいのでそれを活用しています」

「私も賢者様の話は知っています。裏切りがあったり『賢者システム』や『賢者のハイウェイ』を利用しようとした貴族や王族がいたことも。そして賢者様に感謝しています。『賢者システム』と『賢者のハイウェイ』を守った賢者様を。もしこれらが貴族らに支配されたら世界は大変なことになっていたと思います。一方でもっと『賢者システム』と『賢者のハイウェイ』を活用させてもらえないだろうかとも思っています」

「同感ですね。利用してもいい所は利用すべきかと」

「そうですね」


魔力車はカミクサービスエリアを出て集落に向かった。

魔物が集落に入った現場を確認する。

その時、


「タカシさん。キラーベアが5頭こちらに近づいてきているわ」


ユミさんが探知魔法で魔物の接近を知らせてくれた。

キラーベアは凶暴な熊の魔物だ。


「ユミさん、電撃はできましたよね。キラーベアが行動不能になる程度の」

「2頭だったら大丈夫よ」

「ナツさんキラーベアの体温を下げて動けなくすることはできますか」

「私も2頭だったら大丈夫です」

「では私が1頭ですね。集落の皆さん、私たちがキラーベアの行動を止めます。皆さんは止めを刺してください」

「では私たちも」

「子爵様たちは見ているだけでお願いします。住民たちだけで倒しますから」

「あ、そうか」

「はい」


私も銃を用意する。

キラーベアを相手にできるように調節した。

住民は長物の武器を用意している。

キラーベアが襲撃によって怪我人の出た集落の一角に姿を現した。


「ユミさんは向かって右の2頭、ナツさんは左の2頭をお願いします。中央は私が」


ユミさんの電撃が炸裂して右の2頭のキラーベアが倒れる。

左の2頭のキラーベアはナツさんの魔法で音もなく昏睡状態になった。

早いね。

中央の1頭は私の銃で麻痺させる。

1発は外したけど2発目のゴム弾が当たってスタン機能が発動した。


「皆さん止めを刺してください。ユミさんとナツさんはキラーベアの監視を」


3分後、5頭のキラーベアは絶命した。

集落の中央に死骸を持って行って解体をするようにした。

解体したら集落で必要な肉を残してパーキングエリアの外部ゾーンで売却するようにした。

これで集落は少し潤う。


集落の代表を伴なって襲撃を受けたエリアに行く。


「代表。ここは副結界内ではありませんね」

「はいおっしゃる通りです」

「集落は特別の許可を得て副結界内に作られているはずですが」

「申し訳ありません。住民が増えたために集落を拡げなくてはならず、安い結界装置を購入しました。それを住民が設置しました」

「馬鹿な、素人が設置すると反対に危険だぞ。副結界と隣接させるのはとくに大変だ」

「どこかにお願いしなかったのですか」

「『賢者システム』に副結界内の集落の拡張を申請するにも領主様を通さなければなりません。副結界外の結界の設置も含めて申請はしたのですが、確認ができないということで却下されました」

「本当か」

「あ、担当に問い合わせます。少しお待ちください」

秘書が通信の魔道具で問い合わせをしている。

「確認しました。確かにここまで確認に来るのが無謀だということで却下したと」

「馬鹿者。それで今回の怪我人が出たのか。そうすると我々の責任ではないか。治療費と薬代は領主の方で負担しよう。直ちに『賢者システム』への副結界内の集落の拡張を申請を行い移築費用もこちらで出そう。すぐに医療施設にも連絡してくれ、『賢者システム』への連絡も」

「『賢者システム』への連絡はいいですよ。ミオさん」

「『賢者システム』から集落の副結界内の広さを5倍にすることの許可が下りました」

「そんなに簡単に」

「集落の隅にタカシ様の別荘を建てるということで許可されました。それに伴って副結界外の住居の移築は『賢者システム』が行います」


後ろから工事車両とオートマタが近づいて来た。

アサギリサービスエリアとミナミコウフサービスエリアから呼び寄せた。

彼らはハイウェイの工事だけでなく建物関係の工事もできる。

まずは集落の敷地の境界線に柵を作る。

魔法も使って6軒の住居の移築を完了した。

不法設置になってしまった結界装置は外され、サカイガワ子爵が買い取ることにした。

専門家が設置すれば問題なく使えるからだ。

近くのサービスエリアから材料が集められ私の屋敷もできた。

代金はもちろん私の口座から引かれる。

残りの土地には畑と果樹園が作られた。

持ち主は私だが集落全体で管理し、その働きに見合った作物が分配される。

夕方、サカイガワ子爵一行と少女の姉を乗せミナミコウフに戻った。

少女はあと2日も入院すれば大丈夫そうだ。

退院したらカミクまで送って行かなくてはならない。

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