¶11

 機動隊の男は俺を警察署に案内し、所長室に通した。防音室のおかげで普通に会話が出来る。そこには対策部長である男がいて、機動隊の男が部屋を去ると、開口一番、俺を罵った。まあ、そういう初め方には慣れている。俺は真剣に耳を傾け話の要点を探る。すると対策部長はただ、自分のキャリアに汚点が付いたと憤り、収拾の提案は一切しなかった。どうやらこの男は引責の為に、急遽役職に置かれたトカゲの尻尾らしい。それ以降俺は、ええ、はい、全く仰る通りです、わが社に責務が……などと言葉を並べ表情を作り、対策部長の怒りをかわしながら、クビになるだろう彼に同情した。一時的だがコイツが上司になっている機動隊も気の毒だ。

 対策部長が頭を抱えて黙ったので、俺はようやく、

 「安全を優先するなら、夜まで待てば終わるはずです」と言った。

 「どういう事だね」

 「ここに居る蜂ロボは全て充電式です。設計上、日暮れには内臓電池を使い果たすので、ここで動かなくなるか、正常な動作で巣箱に戻るか、自動的にそうなります」

 「バッテリーが回復したらまた繰り返しではないか」

 「いいえ、ご安心を。全ての巣箱には非常用の集合スイッチが搭載されています。そして同時にキルスイッチでもあります。ですから異常をきたした蜂ロボは、戻った時点で即座に過電圧を与えられ、破壊されます。持ち主と推測される人物は、このスイッチを押しています」

 対策部長は、

 「ただ待てと? ふざけるな。 今すぐプログラムを書き換えろ」

 と怒鳴った。想定内だ。俺も夜まで待つつもりはない。俺はここで、

 「すみません、今、エンジニアから電話が」と言って部屋を出た。実際はこれから掛けるところで、携帯でバッキーに電話した。

 「もしもし、ん、アランか」と非常に冷静なバッキーが出た。やばい、これは経験上やばい。いつも以上に聞き役に徹しよう。

 「ある果樹園が丸っきりハッキングされている。でも侵入経路と意図が判らない。挑戦状的動画は上がってない。僕らの公式サイトは無事だしウイルス、マルウェア、ランサムウェア感染なし。社内メーリングソフトからの流入もなし。DOS攻撃なし。社員IDのロックダウン済み。そのほかも諸々を考えると、僕は内部犯だと思う。セキュリティークライアンス的に最高の、つまり僕かアランだけど」

 俺じゃない。あり得ない。俺はパスワードを付箋に貼るような馬鹿げた真似はしない。

 「アラン、僕を疑っているかい?」とバッキーが言った。

 「多少」

 「正直だね。管理者はそうでなくちゃいけない。僕じゃないけどセキュリティはいつも人から破られる。僕かもしれないしアランかもしれないし社員かもしれないし第三者かもしれない。とにかく今、一番やってはいけない事、それは外部から異常エリアに疑似キルスイッチを流す事だ。僕があくどいハッカーなら、一斉送信されるその信号に乗って、もっと侵入するか混乱を広げるだろう。僕らが何もしなくても明日の朝には終わる。けどアランが連絡してきたのは終わらせる為だろう?」

 ひとつため息をついて俺は答えた。

 「そう。夜前に解決したいんだ。終わらせよう。きちんと手を打ったと知らしめないと、他のオーナー達が危ない。きっと俺の人選に穴があったんだろう。何か考えてくれるよな?」

 少し間があった。

 「残念だけど僕がやれる事は全部やった。最終手段を取るなら、どちらかが現地に行かないと。でも多分、その前に夜が来ると思う」

 オーケー。それなら一つ目の課題クリアだ。

 「実はハックされた蜂ロボで封鎖された、話題の街の警察署にいる」

 「ワオ! もしかして逮捕されたの⁈」

 驚いたような喜んだような返事だ。

 「まだ自由の身だよ。ちょっと話をし過ぎたな。蜂ロボを破壊せずに回収したい。バッキー、俺はどうしたらいい?」

 バッキーはすぐさま答えた。

 「僕としてはサーバーを物理的に壊して蜂ロボも壊すのを推奨するけど、そうだね、蜂ロボのバッテリーを消費させればいいから、ええと、馬鹿げたアイデアに聞こえるけど、近くに行って虫網を振り回せばいいよ。採るのは難しいけど避けて飛び続けるから、いつかはポテンってね。あとは散水。消防車みたいなのだったら、当たれば粉砕、外れても飛行にバッテリーを使う」

 「ありがとうバッキー。ご立派な対策部長さんがいらっしゃるんで、きっと承認されるよ」

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