第8話 古本屋の猫

 僕の家はテレビが映らない。というか地上波が見れないといったほうがよい。


 家のアンテナは地上デジタル放送を受信できないので、最新の液晶テレビを買っても仕方がない。ということで、テレビは今でもよわい20になろうかというブラウン管だ。


 とはいえ、何も見れないというのは流石に寂しい……。ということで僕の家のブラウン管は日夜有料の衛星放送(NHKが映らないヤツです!)を映している。いつかプシューと煙をたてて臨終しないかと日々恐々としながら使ってるけれど、いまだその気配も無くいたって元気。今や愛着すら感じる我が家の貴重な存在となっている。


 さて、そのブラウン管で毎夜視聴している衛星放送のチャンネルの一つにミステリー専門のチャンネルがある。主にドラマを放送していて、今昔入り乱れという感じ。ドラマ以外にもミステリーなどの本を紹介する番組もときどき放送されていて、普段の本選びの参考にしている。


 そのミステリー専門チャンネル。マスコットに黒猫を使っていて、これがいかにもこのチャンネルはミステリー専門ですよと言わんばかりの効果が利いている。恐るべし! 黒猫の魔力……などと感心しつつ、フッと我が家の愛猫に目を向けると、気持ちよさそうに窓際の自分専用のベットで熟睡していた。


 その隙だらけの姿を見て、大の違いだな……などと思っていたら、なんだか猫が出てくる物語を読みたくなったので、いつものように我が蔵書の内にないものかと探すことにした。


 しかし、しばらく本棚を上から下へと探してみたが、これがなかなか見つからない。一息ついて、そういえば? と記憶を頼りに隣の部屋の我が愛妻の本棚に目をやると、『猫は郵便配達をする』リリアン・ J・ブラウン(ハヤカワ文庫)のタイトルを先頭にズラリと作品がならんでいた。そのほかにも『病院が嫌いな猫』〈トラ猫ミセス・マーフィ〉リタ・メイ・ブラウン(ハヤカワ文庫)など、猫の名を冠するタイトルが本棚の一画を占めていた。


 その分量に半ば圧倒され、“猫本”探しを諦め、この内の一冊でも読もうか? などと悪魔の囁きに今にも心が傾きそうになりながらも、男の意地が許さじと誘惑を断ち切り、僕は再度我が書棚を探すことにした。

 ということで、作品を読むことができなかったので『猫は郵便配達をする』『病院が嫌いな猫』とも、内容を紹介することができないのでご了承を……。


 さて、“猫本”探しを再開してまもなく、最初に見つけた一冊『夏への扉』ロバート・A・ハインライン(ハヤカワ文庫)は SFハンドブック(ハヤカワ文庫)でオールタイム・ベストの1位に選ばれていた作品。


 ◇ ────────


 もしあなたが猫好きで子供好きなら、今すぐこの本を読むべきだ。

 あるいはあなたが、人に裏切られたり、恋人に捨てられたり、何かでしくじったりして、失意の日々を送っているのなら、やはり迷わずこの本を読むべきだ。

 …… 一部省略 ……

『夏への扉』は、要領と運の悪い人への応援歌なのだ。


(新・SFハンドブックより)


 ──────── ◇


 確かにこの主人公、要領が悪いのだ。読んでいて、「何をやっているんだ……」と、ついついイライラしてしまう。そのイライラも、主人公を応援したい気持の裏返し? 「ガンバレー!」と心の中で応援しつつ、夢中になっていた僕は、今更に思うと作品にのめり込んでいた証拠で、作者の術中にハマっていたのかも?

 大人の為のおとぎ話……という表現が一番しっくりとくるかも???……しれない?……かな〜という印象で、牧歌的でホノボノとした作品。日頃SF作品を読まない読者にも読みやすい作品だと思う。


 猫の「ピート」も可愛いし◎♡♡♡


 しかし、『夏への扉』は以前に読んでいたので、僕は同時に見つけたもう一つの作品『地球人のお荷物』ポール・アンダースン&ゴードン・R・ディクスン(ハヤカワ文庫)を読むことにした。


 可愛い表紙のイラストに“猫発見”と小躍りして、読み始めた僕は、途中で表紙に描かれた“ホーカ人”が、猫ではなく熊である事に気がついた。が、もうやめられない。面白い、面白すぎだ!


 ◇ ────────


 宇宙警備軍の一員だった地球青年アレグザンダー・ジョーンズは、船の故障によって太陽系から500光年はなれた一惑星上に不時着した。惑星の名はトーカ、住民の名はホーカ。このホーカ人は玩具のテデイ・ベアをそのまま大きくしたようなすこぶる愛嬌のある生物で、想像力にあふれ純真無垢。地球の文化に夢中になると、ありとあらゆるものをそっくり模倣してしまった。

 ─ 一部省略 ─

(『地球人のお荷物』(ハヤカワ文庫) より)


 ──────── ◇


 作中繰り広げられる愉快でドタバタなストーリーにハラハラ、ドキドキ……ホーカ人に振り回されるジョーンズがいささか不憫に思えたけれど、何となく憎めない達に魅了され、一気に読んでしまった。


 読了した僕の頭の中はこの文字が駆け巡っていた。

 

 小悪魔! 小悪魔だ〜♡♡♡


                 ◇◆◇


 とある休日の午後……その日は特に予定もなく、僕は居間で横になり、お茶を飲んでいた(日本茶ですよ!)


 暖かな日差しが心地良い。

 フッと、読了した『地球人のお荷物』のことを思い出し、


「しかし、僕がジョーンズの立場だったら……絶対にちゃぶ台をひっくり返しているよな……。小悪魔♡♡♡」


 などと、記憶の中のドタバタストーリーを楽しく思い出しながら、さて、我が家の人は? と所在を確認すると、またもや窓際のお気に入りのベッドで気持良さそうに寝息をたてていた。


「オイオイ、いくらなんでも仰向けで寝るなよな」


 あられもないその姿に、悪戯心が目を覚まし……僕は愛猫のお腹を「コチョコチョ」とくすぐった。


 お眠りなさい。私の可愛いホーカ……♡

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