星が落ちてくる前に

大臣


3日後、世界は滅ぶ——————————


 今からちょっと先の未来、人類の、宇宙に向く技術は進歩し、今よりかなり多くの天体への調査が行われるようになったり、宇宙エレベーターによって、宇宙が身近になったりと、たくさんの恩恵をもたらした。


 しかし、進歩した技術は、人類に、向き合いたくない真実を告げた。


 今、これが書かれている時からみて、前日の早朝、宇宙エレベーター管理局の、宇宙望遠鏡担当班が、あるものを観測した。


 それは、地球を滅ぼすレベルのサイズを持つ小惑星だった。


 また、その軌道が、地球にぶつかることが、計算によってわかった。


 何故そこまでになるまでわからなかったのか知るものはいない。問題は、あと四日で、いかにして生き残るか、だ。


 しかし、わずか四日では、避難する手段なんて、用意できるわけがなかった。


 そんな真実を、告げるべきか?


 そんなわけがない。


 だから、政府は、このことを隠し、ただの彗星として発表。4日後、もっとも接近するとだけ、伝えた。


 なぜ、僕がこれを知っているのか? それは僕の父が、当該小惑星を発見した職員だったからだ。


 父は、この事実を伝えるかどうか悩んだ。事実、父の同僚は、家族にそれを伝えなかった


 でも、父は伝えた。後悔ないように、生きてくれ、と言って。


 後悔がないようにと言われたって、どうすればいいかなんて、わからない。でも、そう言うしかない事も、今はわかる。


「ほら、 早く!」


 そう言って、僕の前を行く幼馴染である彼女に、僕は何も言えない。



後悔のないように生きるのは、難しい。まして、3日後に世界が滅ぶなら。


私の母が勤める、宇宙エレベーター管理局宇宙望遠鏡班は、恐ろしい物を見つけた。


世界を滅ぼす悪魔を。


母は最後まで、伝えるか悩んだようで、1人しかいない母の同僚は、このことを伝えていないようらしい。


でも、母はそれを伝えた。


「後悔なく生きなさい」という言葉と共に。


だから、私は今、後悔なく生きるために、


「そんなに急いでどうするんだよ」


いま、後ろで冷静を気取って肩をすくめる彼に、告白をしようとする。



走る彼女を追いかけて、僕は街にある高台にたどり着いた。


そこは、僕らの街にある、海に面した、有名な展望台で、西向きゆえに、日没が綺麗に見えると評判だ。


だからこの時間にも人はいるんだけど、みんなの興味は空にある。


あと10分ほどで、僕らを滅ぼす、美しい光が見えるはずだ。


「こんなところに来て、何がしたいんだ?」


僕は彼女に聞いた。


彼女はニコニコ笑ったまま、何も言わない。


会話がないのも、なんとなく変だから、僕は話した。忠告のように。


「こういうところには、大事な人と来るべきなんじゃないか? 幼馴染程度の付き合いしかない僕じゃなくて」


彼女には、僕より相応しい人がいるはずだ。


でも、彼女はニコニコしたまま黙っていた。




全く、鈍いんだから。


こんな時に、こんな場所に連れて来るなんてそういうこと以外ないでしょ?


「私が好きな人はね、とっても鈍い人なの。親の仕事に影響されたのか、星が大好きで、いっくら誘っても、無愛想に反応を返してくれない。でも、誰よりも私のことを知っていて、誰よりも長く、私の近くにいた。」


彼は、やっと気付いたようだ。全く、自分の気持ちを自覚してから、かなり積極的に動いてきたつもりだけど、ここまで来るのに10年近くかかってしまった。


届いても、届かなくても、あと3日しか一緒にはいられない。


なら、せめて恋に生きたっていいでしょう?


彼は目を見開いてから、顔を伏せた。彼が顔を伏せるのは、照れ隠しだというのは、もう知っている。


顔を上げた彼は、何も言わずに笑って、私に歩み寄った。


「まあ、いいんじゃないか? お前が楽しいなら」


私の思いは、どうやら届いたようだ。



全く、バカバカしい。僕は君には相応しくないよ。


でも、昨日、後悔のない生き方って言葉を聞いた時、真っ先にこいつの顔が浮かんだ。


なんでだろうと思ったけど、いまならわかる。父の言葉に、どうやったら応えられるのかを


だから僕は、彼女の思い通りになるように、残る3日間を過ごすんだ。


僕の返答の後、彼女はあろうことか、抱きついて来た。柑橘系の香りがする。


僕は、彼女を抱きかえしながら、空を見た。


僕らを滅ぼす星の光も、今だけは、僕らを祝福していた。


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星が落ちてくる前に 大臣 @Ministar

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