第4話 転生したら○コ○○だった件

 知ってた。

 まだあの世に行けないのは知ってた。


 耳を澄ますと──耳があるのかどうかは疑わしいが──いろいろな音が混ざり合っている場所ということがわかった。


「レジ応援お願いします」


 何かを販売しているところのようだ。

 アナウンスによると、自転車からキッチン用品、DIY用品に電化製品となんでもそろっているらしい。


 なるほど、今度の転生先はホームセンターにある何かか。

 だとしたら何になったんだ?


 自分の姿はよくわからない。

 ここは推理するしかないと思っていたら、あっさりと判明した。


「そういえばネコ草買っていかないと」


 かわいらしい声の主が俺を手に取ってカゴに入れたのがわかる。

 とりあえず、女性のところに行けるってことで俺はかなり舞い上がった。ツイていると。


 ネコ草というのは、猫が好んで食べる草のことを指しているのであって、種類ではない。イネ科の背の低い草を好む傾向にあるらしく、その中でも燕麦がネコ草として一般的に販売されている。

 栽培キットなんかもあるのだが、なにせこの燕麦はすぐに枯れてしまうということもあり、上手に栽培できる人は少ない。枯らしては買い足すというサイクルが多いそうだ。


 なかにはこういったネコ草が好きじゃない家猫もいるようだが、そこは好みの問題。仮に食べなくても健康に問題はないとか。

 逆に観葉植物の中にはネコにとって毒になるものもあるから注意しなければならない。


 生前──人間だった頃──実家でネコを飼っていたから知っていただけである。

 そんなことよりも、女性の家で生きていけるのであれば何も言うことはない。同棲みたいなものである。触れ合うことも語り合うこともできないけど。


「ただいま」


 にゃーんという声がお出迎え。

 どうやら一人暮らしのようだ。


 ビニールからガサガサと音を立てて俺を取り出すと、出窓らしきところに置かれた。日光を十分に浴びることのできる出窓は、とても嬉しかった。気がかりなのは水やりを忘れられて枯れてしまうことである。すなわち死だ。

 こんなかわいらしい声の持ち主がずぼらなはずはないと信じて疑わないと言いたいが、悲しくも転生先では長生きできないという経験則から、ちょっとだけ怪しんでしまう自分が悲しい。


 さっそく俺を食みに来るネコ。痛覚がないのか、くすぐったかった。ただ、枯れなかったとしても食い尽くされる可能性に思い当たる。

 それならそれで仕方ない──


 愛猫と戯れる女性というのは絵になる。目が見えないからなんとも言えないけど、たぶんそうだ。

 短い間かもしれないが、ここに居られる幸せを噛みしめたい。


   *


 次の日、あっけなくその夢は砕かれた。


 女性が外出している間にネコが俺を食むのではなくじゃれつき、出窓から落下。その短い生涯を終えたのである。

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