第3話 転生したらア○○ンだった件

 身体が火照ってきているのがわかる。

 あの世に行くときはこういうものなのかもしれない──そう思っていたが、尋常じゃないほどの熱を帯びてきた。このままでは融けてしまうのではないかというレベルだ。身体から精神が解き放たれるというのはこんな感じなのか──


 背中を力強く掴まれて我に返る。

 そうだよな、そう簡単にはこの世を旅立てそうもないのはここ2回の転生で覚悟していた。今度は何になってしまったのだろうか。


 人間の肉体ではおそよ耐えられない体温になった俺は、大きな布に押し当てられた。白装束に包まれるというわけではなく、その皺を伸ばしていく。布の向こうには固めだが表面は少し弾力のある板が敷かれていた。


 アイロンかよ。


 どうやら、俺はカッターシャツに全身を押し当てられているようだ。どうせなら可愛らしい女性のブラウスがよかったんだよな──


「毎回めんどくせぇな。形状記憶にしたいけど、全部取り換えると意外に高いし」


 手間を取るか金を取るかという極めて当たり前のことをご主人様は呟いているようだ。ご主人様? なんかこの表現は著しい誤解を与えそうだが、実際に俺の身体を所有しているのはこの男なのだから。

 ここまで何度も転生しているわけだし、次こそは美人OLなんかの持ち物になればいいのにどうして叶わないんだ。生前……というか人間だった頃の行いが悪かったのかもしれない。自覚はまったくないけれども。


 仮に形状記憶シャツに買い替えたとしても、他にハンカチやらアイロンをかける場面はあるはずだ。中にはズボラでかけない人もいるのは知っているけれども、そういえば俺はどうだったかな。はっきりとは憶えていないが、モテ非モテを分かつひとつのラインなのかもしれない。しらんけど。


 ご主人様は文句を垂れながらもシャツだけではなくハンカチをはじめ、多くのものに俺を押し当てていった。マメなのかもしれないが、彼女がいるのかどうかはわからない。それにアイロンに転生して日が経っていないし、外で遊ばれてしまうと確認できないのだ。

 とりあえずは前2回と違って早々に寿命を迎える感じではないだろう。文句は腐るほどあるが、今を受け入れて観察を楽しむとするか──


 毎日出番があるわけではないが、一人暮らしの男に多くを期待してはいけない。俺も人間だった頃は週末にまとめて洗濯することが多かった。 夜遅くに洗濯機を回すのも気が引けるし、下着類も含めてそれで足りる分だけストックしておけば事足りるのだ。

 そう考えると、ご主人様は火曜日・木曜日・週末といった具合に3回ないし4回は洗っている。俺の出番も考えると、いわゆる清潔感を大事にしているのかもしれない。


 クローゼットの奥に仕舞われたまま埃をかぶっているわけでもなく、定期的に出番のある今の生活も悪くないかな──そう思い始めていたとき、インターホンが鳴った。どうやら荷物が届いたようだ。

 鼻歌交じりに開封している。楽しそうでなによりだ。


「これこれ! 安かったから買っちゃったんだよね。スチームアイロン! これでアイロン台ともおさらばだ!」


 確かにアイロン台を用意するよりも、ハンガーに掛けたままの方が便利である。それは知ってる。じゃあ俺はどうなるの? 捨てられるの?


「使ってたやつも、相当年季が入ってるしな」


 ああ、今までありがとうと言って捨てるんですね──

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