第17話 かぞくりょこう(後編)

博士が文句を言う。


「そう決めつけるのは早い。そう言うと思って弁当を買っておいた」


白いビニール袋を掲げて見せた。


「しょうがないですね・・・」


芸備線の始発に乗り、車中で弁当を食べつつ終点の備後落合まで行く。

山中の無人駅だ。


木次線に乗換ということを察した。

・・・まあ知らないだろう人に概要を説明しよう。


広島県と島根県を結ぶローカル線。

何があるかと言うと・・・、

スイッチバック、そば、延命水、砂の器の舞台・・・


因みに初電は朝9時。東京に住んでる人ならば、「は?」と思うだろう。


ホームには俺たち以外にも人がいた。

電話で何かを話ながら、ホームをうろついている。


「・・・はい、読者のみなさんはこんな鉄道のシーンよりも、

二人のシーンが見たい?マジで?しょうがねぇなぁ・・・。

おう、なんとか俺が何とかするよ、はい、そういうことで」


(あの人何言ってんだ・・・?)


そう思いながら、その人を見送った。






16時頃出雲市のホテルへ到着した。


(あれ・・・?俺達まだ備後落合じゃ・・・?

おかしいな・・・)


「おおおっ!!ここの宿はすごいですよ!裸足で移動出来るのです!

すごくないですか!すごくないですか!」


博士が興奮して、俺に語り掛ける。

確かに、床は畳で、裸足で移動できる。

珍しいと言えば珍しい。


(・・・ん?あれは備後落合でいた・・・)


「もしもし、水川みずかわです。ああ、大丈夫です。違和感なんて無いと思います!

すぐリア充シーン書き込めば平気でしょう。はい。

このホテル実際にあるから、みんなに宣伝したいと思いまして・・・。

え?木次線?乗ったことないんですよ。僕の乗ったのは三江線です

はい・・・」


意味の分からない事を電話で話していた


「ユイト、何つっ立てるのです。行きますよ」


「お、おう・・・」


変な客を見送り、エレベーターに乗った。

エレベーターの中も畳。

裸足でエレベーターに乗るなんて、変な感じだ。


部屋に入る。畳の香り漂う綺麗な部屋だ。


俺がベッドの上に飛び込む様に寝ると、

博士もその横に寝る。


「楽しいですねっ!」


確かに反発性のあるふかふかのベッドに飛び込んで寝るのは楽しいけど・・・


「つか・・・、ベッド二つかよ!?」


「いいじゃないか。部屋代も安くなるし。結人も問題ないだろ」


父はそう言った。


「そうですよ。問題ありますか?」


「ま、真顔で言われても困るな・・・」


ぐうの音も出なかった。




備え付けの部屋着に着替えた博士と共に、夕食へ向かった。

ここの夕食はバイキングだ。つまり・・・


「は、博士・・・、取り過ぎじゃないか・・・?」


もう席と料理のコーナーを何往復もしている。


「だって、スゴイじゃないですか!目の前で作ってくれるんですよ。

美味しい物を目の前で出されて、無下にすることはできないのです」


確かに、彼女の言ってることはわからなくもないが・・・。


「ユイトは取らなくていいですよ。私の分を上げますから」


(そう言うことか・・・。食べきれなかった分を俺に横流しって・・・

俺はそういう役目なのかよ・・・)



夕食後部屋に戻ると...


「お風呂行きませんか」


「ナチュラルに俺と入ろうとするな・・・」


「えー・・・?貸し切りですよ?」


「いやぁ、でも・・・」


(悪乗りならともかく、普通に考えて年頃の女子だぞ・・・?)


「今更そんな事気にするのですか?ししゅんきですか~?

散々私のことが好きで将来の...」


「わかった!わかった!わかった!」


慌てて彼女の言葉を遮った。


「もう何でもいいよ...」





宿泊客が開いている風呂を自由に使う事が出来る。

珍しいシステムだ。


まあ、この前みたいにフツーに・・・。

い、いやらしいことはしてないから!



このフロアの横には小さな休憩所がある。


「アイスが無料で食べれるなんて最高じゃないですか!ここ!」


「食べ過ぎんなよ・・・」


幸せそうな彼女の横顔を見つめていると、端っこの椅子に

パソコンを開いて座っている人がいる。


(あれ?またあの人・・・)


「部屋に戻りますか...」


「あ、先に戻ってて」


「...?別にいいですけど...」


博士を先に部屋へ帰らせた。


俺は意を決し、その人に話しかけた。


「あの・・・、すみません」


その人は顔を見上げた。


「・・・備後落合にいた方ですよね」


「...あ、ああ」


「失礼なんですが...、一体何者ですか」


真面目に尋ねた。


「ははっ、何者って・・・。単なる作家だよ」


「作家?」


「物語を書いてるんだ・・・」


「そうですか...」

(この人か不思議な何かを感じたけど...、違うのか

だよな。この人は普通の人だ)



「どんな物語を?」


「アニメキャラと男子中学生の恋愛物語・・・」


「えっ?」


「怪奇小説だよ!やだなぁ・・・」


「ははは・・・」


俺は苦笑いをした。


「なあ」


「は、はい?」


「君は、彼女の世界に行きたいかい?」


(本当に・・・、この人は普通の人なのか・・・?)


「行きたいなら・・・、行きたいですけど・・・」


「いいね」


そう呟いた。


「そう思ってるなら、正直にそう思い続ける事だ、

僕から言えることはそれだけだな」


「・・・・あ、ありがとうございます」


俺は頭を下げて、部屋に戻った。


結局あの人がどんな人かは良く分からないが、

意味深なことを言われたのは確かだ。




翌日、出雲大社へ参拝した。

あの人に言われたことが脳裏を過ぎった。


『そう思ってるなら、正直にそう思い続ける事だ』


そうか・・・、博士の世界に俺が行ければいいのか・・・



縁結びの神に、祈る事は・・・













「じゃ、オイナリサマ。あの二人を任せるよ」


「ホンマ人使いあらいなぁ...。

ただでさえ三人組とキュウビ相手にすんの厳しいのに...」


「イナリ寿司買うからいいだろ・・・」


「しゃーないな。あんさんの頼みなら何とかやっとくわ。

キツイ試練あんま与えないでな?」


「ははっ・・・」


「なんやその笑い!気味悪いで全く・・・」

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