第10.5話 最高のバースデー

学校にて...


「ここに、気賀っていう人はいますか?」


「なに?俺が気賀だけど」


博士は近寄って、こう頼み込んだ。


「一生のお願いです!プランを考えてほしいのです!」






俺は珍しく電車に乗っている。

電車でどこか行く機会が少ない。

もちろん、旅行とか行く時乗るけど、

電車通学じゃないし、月に数回乗るくらいだ。


鉄道もそんな詳しくない。これが何線だくらいしか知らない。

俺が電車に乗っているのは、博士に出かけようと誘われたからだ。


冷静にこの状況を言い表すと...。

誕生日デートだ。


つまり、今俺は無敵だ。

彼女がアニメキャラに似てるんじゃなくて、彼女はアニメキャラだ。俺は今次元を超越した存在になっている。

リア充共冷えてるかー?


「ユイト...」


小声で呟かれた後、博士に膝を叩かれた。

そして俺は、ハッと目覚める。


「もう着きますよ」


「ああ、もう...?」

(あれ、俺何時から寝てたんだっけ?)


車窓はトンネルの中だ。


『まもなく、みなとみらいです

出口は右側です』


轟音の中、放送が聞こえた。


今日は結人の誕生日、特別な物にしたかったのだ。



今日は快晴で心地よかった。

港町である横浜は海風が吹き込み、夏であっても多少は暑さを和らげてくれる。


俺は博士がどこに向かおうとしているのか、察しが付いた。遊園地だ。


先週くらいだろうか...

“ジェットコースターでも乗りてえなぁ...”と、俺は確かに愚痴を吐いていた。


博士は俺の為にこのデートを決行したのだろう。


ニヤニヤ顔を必死に見せないようにして、橋を渡った。


遊園地に着いた。

休日で人は多い。曇り空なので気温は低い方で過ごしやすい。


「博士はジェットコースター乗ったことないよね。平気?」


俺は上空の軌道を指差した。


「平気に決まってるのです!

私は元々鳥なのですよ。宙を舞うくらいチョイチョイに決まってるのです」


胸を張って自信満々に答えた。


「...そう」


列に並びその時を待った。

そして、乗車する。


ガタガタと震わせながら頂上まで登る。


「大丈夫?」


「へ...、平気なのです...」


物理の法則に従いジェットコースターは

勢いを増して落ち始めた。


「おおお...」


俺は絶叫系で騒ぐような奴じゃない。

静かに楽しむのが俺流だ。

一方隣の博士はやけに静かだ...って、


「気絶!?」


むしろそっちに驚いてしまった。




「だ、大丈夫...?」


「ハァー...、遊園地のアレがあんな危険な物だとは思いませんでした…

帰ったら撤去しなければ…」


あんなに平気だと豪語してたのに...

なんて事は言わないでおこう。


「じゃあ今度は怖くないやつ乗ろう」


そう言って俺が誘ったのは水路の上を行くアトラクションだ。



「本当に怖くないのですか...?」


「平気だって。最後に滑り落ちるだけだもん。ジェットコースター見たいに回転しないから平気だよ」


さあ、そして乗った結果どうなったか。


坂に差しかかたところ。

後ろの方から呪文のように、

“大丈夫大丈夫大丈夫...”と聞こえた。


「おおぉぉ!」


「うあああっ!!」


やっぱり、平気じゃないみたいだ。




「み、水が掛かるし、速度は早いし...お、おぞましいのです...」


「ビビり過ぎだよ…。死ぬ訳でもないし…。博士だったらこんなの平気じゃないの?」


「私は元々臆病なのですよ...

助手が居て守ってくれてたから、

島では偉そうにしてこれたんですよ」


彼女から思っても見なかった本音が飛び出した。


「俺の前じゃ偉そうにできない?」


悪意はないが口からそう言う言葉が自然に飛び出した。


「そ、そういう訳じゃないですけど...何ていうか...。その...」


「こっちの世界では、俺が助手の変わりだから!無理かもしんねーけど、俺を助手だと思っていいから!」


俺はそう言って彼女の肩を叩いた。


「...」


「ほら、折角の俺の誕生日なんだし、

一緒に楽しもうよ」


もうどちらが企画者なんだか良くわからない。


その後、俺と博士は色々と楽しんだ。

昼食の時の博士の喜び様は半端なかった。


楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去った。


殆どのアトラクションに乗った。

あと乗っていないのは...


回転する密室空間だ。



俺と博士は向かい合わせに座った。


「今日はいい誕生日だよ。ありがとな、博士」


「私も楽しかったですよ」


と言って微笑んだ。

窓の外をチラッと見ると、港に夕日のオレンジ色が海に反射してキラキラ輝いていた。


俺が窓の外に意識を向けているうちに

博士は俺の隣に座っていた。


「ユイトに誕生日プレゼントなのです」


そう言って俺に彼女が渡してきたのは

白い箱だった。

開けてみると俺が父さんに欲しいと言っていた腕時計だった。

まさか、博士から渡されるとは思っても

いなかった。


「マジで!?すげぇ...」


感謝しても感謝しきれない気持ちで一杯になった。


(やっぱり...、喜んでくれたのです!)


ユイトの父に、これを渡されたのだ。

“これを結人に渡せば、アイツ喜ぶぞ”と

言われた。結果通りだった。


「本当にありがとな、博士!」


「...ユイト、助手だと思ってくれって言いましたよね」


「うん...?」


「申し訳ないですが、ユイトは助手になれないのです」


「どういうこと?」


「助手は私にとっての助手

ユイトは私にとってのユイトなのです」


意味が深そうな事を顔の間近で言った。


「助手もユイトも私にとって特別な存在なのには、変わりないですよ」


奇妙な縁で彼女を助けて、今まで知らなかった面を知ることが出来た。

そして、家族の一員として、また、親友として...、触れ合いを積み重ねてきた。


俺の気持ちとしては...。


「なあ、博士」


「なんですか?」


正直に言えればいいけど、なかなか

その言葉が出てこない。


俺がそこで躓いていると、クスッと彼女は笑った。


「ユイトの言いたいこと、わかりますよ。賢いですから、私は」


「本当?」


彼女の言ってることは冗談だと思った。

そして、彼女は俺の耳元でこう囁いた。


「...私も好きですよ」



頬に触れた感覚がした。


もう、色々言いたいことと夢みたいな事が交錯して何が何だかわからない。

でも、こう言ったのは覚えている。


「これからもよろしく」


って。



今日は最高のバースデーだ。

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