第7話 しょっぴんぐ

学校にも馴染めてきたのです。

図書館で色々な本も読めるし、

前よりも賢くなっている事が実感出来るのです。人間の世界でも友達が出来たのです。


「はーちゃん、今度の土曜空いてる?」


「空いてますけど?」


「じゃあ、一緒に出かけようよ!」


そう誘いを受けた。

彼女は、同じ図書委員の野蒜里奈のびるりな

ポニーテールが特徴的である、結人達とはクラス違いの同級生である。

彼女もまた、結人達に紹介し、グループの一人なっている。


「どこに行くのです?」


「駅の近くにモールがあるから、

そこに行かない?」


「別にいいですけど...」


モールの意味がわからなかったが、

恐らくは、建物なんだろう。


そう把握した。


「土曜の朝10時に駅前で!」






土曜日、結人に駅まで連れてって貰った


「気を付けてな。野蒜の事は良く知らないけど...」


「まあ、私は賢いので。リナの事は私が面倒見ますよ」


(・・・どっちも保護者役には向いてないと思うんだけどなぁ)


「では、行ってくるのです」


「ああ」


そうして結人と別れた。

駅のコンコースに入ると、真ん中の柱の所にいつもと変わらぬ容姿の里奈がいた。


「あっ、はーちゃん!」


「おはようです」


「ささ!行こっか!」


「あっ、はぁ...」


里奈はせっかちな所がある。

助手とは大違いだ。

そんな彼女に連れられて、駅北口の

モールへと向かった。



銀色の大きな建物が視界に入る。

こんなデカい施設は見たことがない。

人の数も多い。


「ここだよ!」


「はぇー...、すっごい...」






「こんな所あるんだねー!かばんちゃん!」


「たまには、こういう所にきてみるのもいいね」

(近くにこんな大きなところがあったなんてねぇ...)


この二人も、建物の中に入った。

はてさて、どんな買い物になるのやら。






里奈と博士は衣料品店に来ていた。


「この服はーちゃんに似合ってるよ!」


「あはは...、そうですか」


水色のワンピースを持ち当てる。

いまいちヒトがこれまで衣服に対して

執着を持っているのが、この世界に来てからの、個人的な疑問だった。


「やっぱりはーちゃんは青系が似合ってるよ!」


嬉しそうなのはよかったが、図書館で会う時より、テンションが高く感じた。

あまり、こういう人物とパークでも関わりを持つことは少ない。新鮮だった。


「じゃあ、リナの服も選びますか」


「えっ!本当!?期待してるよ!」




一方...


「へぇ...、これが家具なんだ...」


カーテンやソファーから色々展示してある。これ程の種類があるなんて知らなかった。

しかし、どれも値段が高い。

思わず血の気が引いた。


「...あれ?サーバルちゃん?」


後ろを向くと、サーバルがベッドで寝ているではないか。


「ちょっと!サーバルちゃん!?

まずいよ!」


「だってー...、この布団ふっかふかだし...」


「やめてよっ、20万だよ!?」


「ほらほら、すごく跳ねるよ!」


軽く飛び跳ねる。

※良い子はマネしないでね!


「う、売り物だからっ!ダメでしょ!」


「えー...」


少し残念そうな声を出したサーバルを

ベッドから下ろした。


「あの...お客様...」


すると、眼鏡を掛けた女性の店員がこちらを見て、声をかけた。なんとも言えない顔をしている。


「あっ...、ごめんなさい!ごめんなさい!あはは...、ホントに...、どうも...、申し訳ないです!あはは...」


何度も頭を下げてその店を後にした。


「あー、ごめんね、かばんちゃん...

あれ遊び道具じゃなかったんだね」


この天然っぷりである。


「次からは気をつけてね...」


それしか言う言葉が見つからなかった。






適当に服を見付け、先程、里奈がした様に見せた。赤っぽい鮮明な服を選んだが彼女は嬉しそうだった。

服屋を出て、次に3階へ上がるエスカレーターに乗った。


次に連れてこられたのは、ゲームセンターだった。


「どう?そういえば、ゲーセン来たことないって言ってたよね?」


記憶少し掘り返してみる。

たしかに、そんなことを口にしたかもしれないと思う。


「初ゲーセンなんかやってみよーよ!」


里奈は私の腕を引っ張った。


「いや、何が何だかサッパリ...」


「大丈夫!私に任せて!」


連れてこられたのは...


「なんなのです?」


「プリクラだよ!」


また初耳の単語だ。

改めて勉強になるなあと、感慨深く感じた。




一方その頃

奇しくも同じゲーセンにやって来ていた。二組の距離が最も接近した。


「何これ!すっごーい!」


「そうだね...」

(サーバルちゃんから目を離さないようにしないと...)


「これ、どうやって取るんだろう?

難しいのかなあ?」


「うん、難しいんじゃ...」


物音に気が付き、足元を見る。


「...!?サーバルちゃん!?」


なんとクレーンゲームの取り出し口に

顔を突っ込んでいる。

※良い子はマネしないでね!


「な、何してんの!!」


「えっとねー、取れるかなってー」


「ダメだよっ!」


「えー...」


無理矢理足を引っ張り、外に出したと同時に警報音がなる。


「うわあああああ!!に、逃げよう!」


「えっ?」


錯乱するかばんに対して、サーバルは

何がダメなのかさえわかっていなかった。


「ハァ...、ハァ...」


息を切らし、フードコートまで逃げた。


「あっ...、もしかしてダメだったのかな…、ごめんね、わたしって...」


「全然大丈夫だよ!次からは気をつけようね...」


サーバルを咎めることは苦手だ。

軽く息を吐いて、椅子に座った。


「なんか食べようか...」


再び彼女に笑顔を見せた。





「意外と面白かったでしょ?」


「まあまあですね...」

(あんな何度も何度も失敗するゲームは

あまり好きではないのです...)


「何か食べようかー」


「そうですね!そうしましょう!」


やはり花より団子だ。

食べ物を食べる方が良い。





ズズズズ...と、うどんを啜った。

麺類はパークで食べたことが無い。

サーバルもここでは何も問題を起こさないはずだ。

初めて来る人間の世界。それでいて、

パークで見た事ない物の数々。

僕は元々ヒトのせいか、順応出来たが、

彼女にとっては未知の世界そのものだ。

まあ、少し落ち着こう。

水を一口、喉に通した。




一方、里奈と博士はハンバーガーと一緒に買ったポテトを摘みながら話をしていた。


「そういえばさ、はーちゃんってさ、

結人くんのことどう思ってんの?」


紙ナプキンで指を拭きながら尋ねる。


「どう思うって...、優しくていいやつだと思ってますよ」


バニラシェイクを飲む。


「それってつまりさー...、こういう関係じゃないの?」


ジェスチャーで手を何やら動かす。

だが、その意図が掴めない。

彼女もそれを察したのか、単刀直入に

口で説明した。


「結人くんが好きかってことだよ」


「うん...?

好きか嫌いかで言ったら好きの方ですかね」


彼女の目はまるで星空が反射して映っているかの如く、輝いていた。


「好きなんだね!好きなんだね!」


何故か2回もコールする。


「・・・何が言いたいのです?」


困惑気味に尋ねた。


「もー...、鈍感だなぁ...

そう言うの、恋って言うんだよ!」


水に泳ぐ方ではないし、味付けの方でもない。

パークでもその単語を耳にしたかもしれない。記憶が曖昧だが。


「結人くんの誕生日とか、知ってる?」


誕生日...、ヒトにとって特別な日であると言ったイメージしかない。


「いや...。今度聞いてみるのです」


里奈は頬に人差し指を当て、天を仰いだ。


「あっ、ねぇ。男女の付き合いって物を勉強すべきだよ!」


唐突にそう言われても困る。


「告白の仕方とかさ、デートとかさ!

映画見に行くよ!」


「え、えいが...?」


立ち上がると、トレイを持った。


「さあさあさあ!」


急いで紙などをゴミ箱に捨てると、

博士の腕を取り、辻風のようにフードコートを後にした。


「いっ、意味がわからないのです!!」






「あっ、そうだ!かばんちゃん!」


「なに?」


「すりーでぃーのえーが見てみたい!」


「え、えっ?」





5階の映画館のフロアで里奈は速攻チケットとポップコーンを買った。

行動力が半端ない人だ。

きっと将来は行動が早い人ランキングで

1位を取るかもしれないと思った。


「さあ、この映画で勉強するよ!」


新作の恋愛映画みたいだ。

本当に自分のためを思ってここに来ているのか、はたまたそれはあくまで建前であって、本心は自分が見たいだけなのか。心の中までは読めない。

しかし、ポップコーンがあるならまあいいかと割り切った。




サーバルは絶対に大人しくしてると約束した。しかたない。

僕達は映画館に来た。少し手間取りながらもサーバルの言っていた3Dの映画の

チケットを取ることが出来た。


何故サーバルが3Dの事を知っているのか。本人に聞いたが、どっかで聞いたことがあるから、としか答えてくれなかった。




そんなこんなで上映時間になった。

初めて見る。しかし、動きと音声がついているので島のフレンズ達が見ても情報が伝えやすい物だなと思った。


「ちゃんと、見ててよ!」


小声で囁いた。


「あ、はい」


と言いながら自分は映画そっちのけでポップコーンを抱え込んで口の中に頬張っていた。


(あっちに戻ったらかばんに作らせるのです...)





一方こちらは...


「うわぁ!食べないでくださいっ!」


「かばんちゃん!」


サーバルに膝を叩かれる。


「えっ?」


「大声出しちゃダメでしょ?」


と人差し指を自分の口に当ててきた。

口には出さなかったがサーバルに対して

“お前が言うな”と大声で言ってやりたかった。


「みんみぃ〜...」


サーバルは恐竜に追いかけられるのが好きみたいだ。

時折、手で目前の蝿を追っ払うような動かし方をしているのは、野生の血が騒いでいるからなのか。

というか、逆に好戦的なタイプだっけと、不思議に思ってしまった。






ふっと、意識が戻った。

スクリーンには様々な文字が下から上へと流れて行く。

寝落ちしてしまったらしい。


「すっごいキュンと来たよね〜」


里奈は横の私にそう言った。


「はあ...」


寝てたから良く知らない。


「さ、これで勉強になったよね!

後は自分の勇気だけだよ!」


「わかりました...」


良くわかってない。

結局ポップコーンをたらふく食べて

眠ってしまった。


外へ出るとすっかり暗くなってる。

もう17時だ。


「じゃあ、私こっちだから!今日は楽しかったよ!はーちゃん!」


「こちらこそ...」


「またね!」


里奈はまた忙しなく、右側へと小走りで行った。


「さてと...、私も帰りますか...」




「今日はすっごい楽しかったよ!」


サーバルはとても笑顔だった。


「なら良かった...」


笑顔を浮かべた。

僕はとても疲れたが、サーバルちゃんが喜んでくれたなら、疲れがいがある。


ふと、僕は前を見た。

すると、人ごみの間から驚くべきものを

目にする。


(あれ...、博士さん?)


「どうしたの?」


僕はサーバルに言われて目を擦った。

しかし、その博士に似た後ろ姿は既になかった。


(気のせいだったかな...)


「いいや、なんでもないよ!

なんか買って帰ろうか」


「うん!」


サーバルと手を繋ぎ、帰路についた。




南口を出た所で結人が立って待っていた。


「あれ、迎えに来てくれたのですか?」


「いや、たまたま用事があって...」


本当はそうではない。


「なるほど」


しかし、里奈にエネルギーを吸い取られたせいか、突っ込む事が出来なかった。


バスに乗った。

駅から、結人の家まではバスを使うのだ。

後ろにある二人がけの席に座り、

里奈に言われた事を思い出した。


「ユイトって、誕生日はいつなのです?」


「7月21日だよ」


博士がやってきたのが、丁度5月の上旬、それで今日が6月最後の土曜だから、博士と出会ってもう長く経っている。

時の流れは早いものだ。


(7月21日...)


忘れないように心の中に刻んだ。

何かプレゼントしてあげよう。


バスのエンジンから小刻みに振動が身体に伝わる。道の凹凸でも揺籃の様に揺れる。


(もしかして、野蒜がなんか言ったのか...)


俺はそう尋ねようと思い、博士の方を見ると、彼女は俺に寄り添うように寝ていた。


(・・・)


降りるまで後、15分程ある。

俺は、車窓に映る博士の姿と、過ぎ去る街灯りを重ねて見た。


本当にここが、自分の住む世界なのか。

疑心暗鬼になる。


もしかしたら、1Q84の世界みたいな

おかしな交差が起きてるのかもしれない。




・・・俺は、いるのだろう。




現実から、目を背けたいのか。それとも。


無機質なチャイムの音が鳴り響いた。

それに、いちいち気を取られる様な乗客は皆無だ。


『次、止まります』


車内放送がそう伝えた。

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