第5話 おすし

今日は久々に夕飯は外食だ。

博士の歓迎会的なものも兼ね備えてる。

フレンズのままなら、共に食事を取るなんて事はなかっただろう。まさに、夢の様な状況だ。

俺はもう慣れてしまって感激は薄いが。


車で来たのは国道沿いの回転寿司屋だ。

「一度寿司を食べてみたい」と言ったのは博士本人で、彼女の瞳は今プラネタリウムの様に光輝いている。


「楽しみなのです!」


「あんま、興奮しすぎんなよ...」


冷たい笑いを浮かべた。

店内に入り、流れるレーンを見た瞬間

控えめな歓声をあげる。


「うおおおおお...、これが回転寿司...早く食べたいのです...、じゅるり...」


「大丈夫だよ、寿司は逃げたりしないから」


そっと、肩を叩いた。


「結人、木葉、行くぞ」


父を先頭に俺達はテーブル席へと向かった。

席に着くやいなや、

「良いですか?良いですか?」

と、急かし始めた。


仕方ない。ここは俺が人間代表として

寿司の食べ方を伝授してやるか。


「ちょっと待って、寿司の美味しい食べ方を俺が教える」


「ユイトがですか?」


何故か疑いの目を向けられた。


「いやいや、まずは、先に頼む順番がある。レーンに流れてるのは新鮮味が欠けた奴が多いんだ。だから最初に食べるべき物、新鮮さが命のマグロから行った方がいいから、そこのモニターで...」


「美味しいのです!」


「そうそう、注文して作るから美味しい...って...」


常にサーモンを口にしているではないか。


「なんで食べてんだよ...」


「俺が取ったんだ。結人、長い話は飽きられるぞ?要件を伝える時は手短に。

議員生活でそれを学んだ」


父さんは自慢げに話した。


「コノハちゃんの好きにさせてあげなさいよ、初めてなんだし」


「母さんまで...」


それをよそに博士は、食べたいと思った奴をレーンから次々に取っていた。

もう皿は4皿目だ。


「しかし、ヒトは凄いものを生み出すのですね。手で食べれる料理なんて初めてなのです」


「ちょっと俺にも何か取って...」


「これでいいですか?」


博士が取ったのは...


「ケーキじゃん!絶対食後に食べるやつ!」


彼女にツッコミを入れた。

しかし、彼女は開き直ったように


「だって何かって言ったじゃないですか。何か欲しかったらちゃんと名前を言うのです」


「そうだぞ結人」


父さんまで便乗してくる。

これではグウの音も出ない。


「わかった!わかったから...

普通のエビをください...」


何故こうなったのだろうか...。






島内のフレンズに聞き込みをして回ったが、博士の居場所についての情報は一切得られなかった。

助手から居なくなった時の情報を聞き、調べた結果ジャパリパークのフレンズの間で噂されている伝説との関連性が浮かんできた。


そんな伝説が本当にあるかどうかは怪しい所だったが、フレンズに話を聞くと

それに関連した場所があるという事だった。

かばんとサーバルはその場所へと向かったのだった。


「森の中にこんな場所があったなんて...」


古びた鳥居、小さな祠がある。

周囲は草が生い茂っている。


「噂によれば、ここが願いを叶えてくれるフレンズが住んでいるんだよね」


かばんは小さな祠の前に跪いて、手を合わせた。


(博士さんの居場所を知っていたら、教えてください...)


心中でそう願うと風が唐突に吹き、草木をざわつかせた。


「んみゃ...」


その特異な雰囲気にサーバルの毛が逆立った。


「ん?」


かばんもその雰囲気を感じる事が出来た。

すると光の球が祠から出た。


「なにこれ...」


「来てくれたん?嬉しいわあ!何年ぶりやろう」




「しゃ、しゃべったあああああ!?」


たしかに光の球から声が聞こえる。


「あの、誰ですか?」


「あたし、あたし。もそやけどもて見えてへん?」




「僕達にはただの光にしか...」


「ああ、すんまへんなぁ...」


更に眩く光ると出てきたのはキツネに似たフレンズだった。


「あたしは、オイナリサマどす...

よろしうお願いします」


妙に訛った喋り方をするフレンズだった。


「僕はかばんです。こっちが...」


「サーバルだよ!」


と挨拶した。


「かばんはんは人なのかな?むちゃ久しぶりに会うから嬉しいなあ。トコで、何でここまで来たん?」


「えっと...」


オイナリサマに要件を伝えた。

すると納得したような表情を浮かべる。


「流星の夜に願いを叶えるのは、キュウビギツネの悪戯どすな。ほして、その博士はんを探したいんどすか?」


「そういう事です...」


すると今度は呆れた顔を浮かべた。


「キュウビギツネも仕方ない奴や。恐らくは、ここに居ないという事は現実世界に飛ばしたんやろう。現実世界の何処にいるかわかれへんけど、あんた達を現実世界に飛ばすことくらいはあたしも出来るよ」


サーバルの顔を見た。


「げんじつせかい!?行きたい!」


嬉しそうな声をあげた。


「僕達は博士さんを探しに現実世界に行くんだよ?」


「あっ、そっか...」


「現実世界に行くんやったら、サーバルって言うたけ?フレンズじゃなくてヒトの姿になるけど、ほんでもええどすか?」



「ヒトの姿って事は、かばんちゃんと

一緒なんだね!」


ますます嬉しそうだ。


「あっ、一つ質問が...

戻る時はどうすればいいですか?」


すると、オイナリサマは祠から竹の皮の包みを取り出した。


「暇やった時に作っとった“いなり寿司”や。これを食べればこの世界に戻れるよ」


かばんにそれを手渡した。


「3個入っとるからな。

ほんまに戻りたい時にだけ食べて」


「それで、あと最後に一つ...

ワシミミズクの助手さんに僕達が博士さんを探しに行ったことを伝えといてもらえますか?」


「ええよええよ。あたし今むちゃ機嫌がええから、それくらい大丈夫だよ」


笑顔でそう言った。

サーバルとかばんは覚悟を決め、現実世界へ行くことにした。


「それじゃ行くよ?ええね?」






「この...、いなり寿司ですか?

美味しいですね。気に入ったのです」


「お、おい博士...、もう15皿目かよ

俺なんてまだ6皿しか...」


父も母も値段はそんなに気にしない方だ。まあ、今日はパーッとやるつもりなんだろう。


「あっと、そうだ。茶碗蒸しでも頼むか」


「ユイト、“ちゃわんむし”って、どんなムシなのです?」


「そっちのムシじゃないよ。

水を蒸発させることを蒸すって言うんだよ」


「食べてみたいのです!」


それで、茶碗蒸しが届いた。


「熱いから気を付けろよな」


俺は博士に注意を促す。

少し訓練して器用になった手でスプーンを持ち、すくう。言われた通り、息を吹きかけ、そっと口の中に入れた。


「とても、不思議な味がするのです...甘くなく、苦くもなく...」


非常に興味深そうだった。


「あっ、中に色々入ってるのですね!

ヒトは面白い物を作りますね!」


満足して頂けた様だ。

こうして、博士が加わった初めての川宮家の夕食は幕を閉じた。


(合計13685円、高いな...)


少し使い過ぎたなと思った父であった...






「ここは...」


かばんが目を覚ましたのは、小さな部屋の一室だった。


「あっ、サーバルちゃん!?」


サーバルを見ると、耳と尻尾が無くなり、本当にヒトになってる。


「うみゃああ...」


大きな欠伸をした。


机の上を見ると、紙と封筒がある。

メモにはこう書き記してあった。


『この封筒に現金とまあその他諸々用意しましたから、よく読んで生活してくださいね!あなたは料理が得意らしいから、ま、なんとかなるでしょ!

ヒトが参拝してくれたから凄く嬉しいよ!じゃあ、博士探し頑張ってね!

オイナリサマ』


「追伸、かばんちゃん達に特別に制服を用意したからよかったら着てね...?」


クローゼットを開けると、グレーのスカートと金のラインが入った濃い赤色のブレザー、ネクタイ、白のワイシャツが掛かっていた。



「かばんちゃん...、ここどこ...

って、なにそれなにそれ!!」


「あっ...、サーバルちゃん...」


試着した制服を見せた。


「すっごーい!似合ってるよ!」


「あ、ありがとう...」


少し照臭かった。

しかし、これを着る機会など何時あるのだろうか?


「なんか、お腹すいちゃったなぁー」


「じゃあ着替えて、どこか行こうか

ヒトの世界のことは僕も少し勉強してるし...」


「やったぁ!行こう!」


博士を探しにやって来た二人。

一体どんな共同生活が始まるのか。


見てみたい所もあるが、

これはあくまで、博士のお話。


はてさて、見つけられるのか…



「何が食べたい?」


かばんの問にサーバルは、考えを絞った。

本で見た、ジャパリパークで食べたことないもの。


「お寿司食べたい!」

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