第14話(最終話) エピローグ

こうして一つの物語は、幕を閉じようとしている。しかし、ハミー達は語り足りないようだ。ロストはウスバに問う。

「失ったものとは、ウスバがアクイにこうあり続けて欲しいという『固執』だった。失ったものは、失った途端に泡となって消えたんだ。俺でも見つけられないわけだ。満足したか、ウスバ?」

「思い出だもの、無理に決まっている」

失った物が泡となって消えたのは、アクイが成長しようとしたからだ。アクイは、変化し続けていく人間の心の中で、失った物は置き去りになり消えた。つまり、アクイはウスバの思い出で止まりはしないから、変化するのが人間の心だから、失った物は消えたんだ。一人の観客だから、ハミー達はカプセルで頑張っている人達が、よく理解出来る。だけど、『一人』だから、それらを強く指摘出来ないでいる。間違いに気づいてもね。

ヒリュウは言う。

「俺は『本体』に、もっと周りを見て欲しいんだ。ライバルのアクイしか見えていないじゃないか」

オッサンはいつもの口調で語る。

「俺の本体は、みんなと笑っている。言うことはあまりない」

ゴウとアオイは提案する。

「応援団を作ろうよ。何倍もの応援になるはずだ」

だけど、みんなはすぐに気がつく、一人一人応援する者も応援する事も違うのだ。応援団とは、普通一つのものをみんなで応援するもんだよ。そこで、オッサンは提案する。

「応援団がダメなら、応援協力団でもいい」

みんなはオッサンの意見にうなずいた。好きな時に好きなように助け合う、そんな団体をオッサンは理想としたよ。一人も見捨てない。はみ出し者のハミー達は、観客だから欲張りだ。自分の弱点が、観客の視点だとよく見えるものさ。みんなは僕に問いかけてくる。

「ねえ、アクイはどう思う?」

僕は一つのことが頭から離れない。

「僕とヒリュウは楽しそうに笑っている。ライバルとは、そういうものだ。ヒーローショーとしては、どうかと思う。でも、今はいい。二人のいいところを吸収して、いつか本物のヒーローと悪役になればいい」

例えばヒリュウは、僕と交わることで『つながり』を見つけていくことが出来るんだ。人脈は広がる。観客のヤジは、ステージを彩る者達への大切な贈り物だ。それで成長できたのなら、素晴らしい演技で観客を楽しませないとね。観客の文句は、きっとステージだけではなく自らを映す鏡だから。ヒーロー達が成長する頃には、観客も成長しているよ。

だから、僕は言う。

「ねえ、ウスバ。失った思い出とやらに、まだこだわるのかい?」

「当然よ。私達ハミーは、観客だからわがままなの。ここからだとステージが見えすぎるから、わがままなの。私はアクイを待っている!」

そう言うウスバは、笑顔だった。失ったものは、もう何処にもないことを意味する。だって、僕達を見守る『ハミーではない』ウスバは、楽しそうだったから。僕とヒリュウが楽しそうだったから、ウスバもそれにつられたのさ。

悪役からの贈り物を、ロストは配達する。ロストは配達する者を応援する。ロスト自身でも、お客様でもない。僕達悪役からの贈り物とは、ヒーロー達を困らせるびっくり箱だよ。ヒーロー達がそれを乗り越えたのなら、素晴らしいヒーローショーさ。

僕はハミーでない者達に告ぐ。観客であるハミー達を楽しませてくれよ。応援だけでなく、自らの要望に応えて……。

「さようなら、失ったもの」

「うん!」

(完)

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悪役からの贈り物 大槻有哉 @yuyaotsuki

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