9 待ってる

「アルド坊ちゃま、帰ってきませんねぇ」


「やっぱり、私が逃げちゃったからでしょうか。『ごめん』って言った意味、ちゃんと伝わってないのかも」


「それはしかたありませんよ。それは確実にアルド坊ちゃまが酷いですから!」


「でも……」


「好きだろうが何だろうが、心の準備ってものがありますよ! それをすっ飛ばしていきなりとか! それは確実に犯罪級の性暴力ってもんです!」


「でも……なんだかすごく、普通の状態じゃなかった。だからあんなこと……って思ったら……」


「ユナさんは本当に、人がよろしいですね。そんなだからアルド坊ちゃま、安心して付け上がって暴言吐くんですよ」


「そうですね。あんな暴言、他に誰にも吐きませんもんね。ある意味特別扱いしてくれてますけど、あんまり嬉しくはない特別扱いです」


「はぁ。それなのになんでユナさんは、アルド坊ちゃまのこと好きなんですか?」


「なんか……本当は家族に愛されてるのに、全然それに気づかなくて、それを見てたらなんか……キュゥウウってなります」


「わからなくもありません。旦那様がキリル坊ちゃまの将来を決めてしまったから、アルド坊ちゃまには将来をアルド坊ちゃま自身の好きなように決めて欲しいから『好きにしろ』って言ったのを『テキトーにあしらわれた』と思い込んでるところとか、可愛いですものね」


「か、可愛いかどうかわかりませんけど、たぶん私がそれを指摘しても絶対信じないと思うので、言えないんですよね」


「んなわけあるか、って怒りますよね」


「そうなんです。なんであんなに捻くれてしまったのか」


「旦那様が不器用なせいですわね」


「……はぁ。アルド、今日中に帰ってきてくれるでしょうか」


「誕生日だってこと、絶対にお忘れでしょうからね」


「せっかくケーキ、作ったのになぁ……」


 アルドの好きな、生クリームをふんだんに使ったイチゴケーキがテーブルの上に鎮座している。店に置かれたケーキと比べると不器用な出来だが、味には自信がある、とユナが作ったケーキだった。

 何があったのかわからない。でも、本当に落ち込んでいたのだとしたら、これを食べて少しでも元気になって欲しい。

 そして、あの時はびっくりしたからだと。ちゃんと本当にアルドのことが好きだと告白しよう。


 ――だから、早く帰ってきてね、アルド。

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黒い男は芥掃除をしてくれる あおいしょう @aoisyou

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