銃と剣 53

「違う違う。N君、堅いなぁ。まるで、まるちゃんの上腕二頭筋みたいに堅いよ」

「なんだそれ。じゃあ、取引ではないと?」

「そう、これはただのお願いだし、提案かな。多分、次の出現場所は栄の錦通久屋の交差点。で、頼み事は僕達、春風もこの計画に便乗させてもらいたいと言う事」

「随分と行き成りだな」

「あそこの地形は僕達みたいにスナイパー向きだし、いて損はないと思うよ?」


 ニコニコと笑いながらなっちゃんは手を開く。

 信用なんかするなと、FはNを睨み付けるが、条件は確かに悪くない。ただ、なっちゃんが何を考え狙っているのかは、まったくもって分からないが。少なくとも、PIOにとっては不利な事ではないはずだ。

 でなければ、こんな提案に似た方法で一枚噛んでくるよりも、こちから協力を仰ぐような方法を取らせるに決まっている。この男は、そう言う男である事を、Nもよく知っている。


「そうだな。では、是非協力をお願いしよう」

「ふごぉっ!」

「わぁ、N君って話わかるしイケメンだし、本当に素敵だね!」

「ふごふごふごっ!!」

「あれあれ? F君が豚みたいに鳴いてるけど大丈夫?」

「大丈夫だ。問題ない」


 リアルの問題は、このゲームに持ち込むのはご法度だ。

 だって、それは、暗にリアルでお互いの正体を知っていると大声で話している様なものなのだから。

 同クランならば問題ないだろうが、他クランであればある程、その情報は意味を持っている。

 それをお互いよくわかっているはずなのに、なっちゃんとFはいつもこうである。二人とも、リアルの情報が割れた処でと思っているのか、それよりも、自分達から情報を聞きせる程強い奴がいないとタカを括っているのか。

 全部な気がしてきた。なんたってこの世界の、『妖精王』と『狙撃王』だ。

 

「じゃあ、作戦決まったら声かけてねー。ルーキー君もふぁいおー!またねー」


 のんびりと手を振りながら、なっちゃんは下へ落ちて行く。漸く、彼の姿が消えて、NがFの口から手をどかし、漸く全てから解放していやる。


「ちょっと、Nっ、正気なの!?」

「いいじゃないか。PIOには損害はないんだし」

「そりゃ、そうだけどさっ! アイツだよ!?」

「F、ここに私情は?」


 NはFを睨みながらトーンを下げる。一瞬、Fはうっとした顔をして、すぐさま、頬を膨らましそっぽを向いた。

 ここは分が悪いと判断したのだろう。

 その様子を見て、Nはため息を吐き、颯太達の方へ向く。

 気を取り直さなければならない。何故なら……。


「さて、じゃあこれからの計画を一通り確認しよう。金曜日まで、あまり時間はないんだから」

「はいっ」


 颯太達は再度地図を広げ、辻斬り討伐作戦の計画を進めたのであった。




『――瓶爆弾を上限ギリギリ迄集めたので、一度引き取って欲しいです』

『――え?マジで百個?』

『――嘘ぉ。マジにしちゃった感じ? 冗談だったのにぃ』

『――真面目かよ。怖ぇ。キモくね?』

『――キモーい。ドン引きだろ、それ』

『――おいおい、あんま苛めてやんなよ。それイジメですよー。黒川が泣いたらどうすんだよ。可哀想やろー』

『――いやいや、お前の方が苛めだからな。いいよ、受け取りに行ってやんよ』

『――じゃあ、金曜日に、また大須で』

『――無理、大須遠い。栄にしろよ』

『――お前、また彼女かよ』

『――俺も栄の方がいいわ。そのまま爆弾祭りしようぜ』

『――あそこ結構人いるもんな』

『――じゃ、栄で。黒川、またメールするわ。お前もう用ないから帰れよ。お前みたいに部外者がいたら、俺達クランの作戦立てれねぇからな』

『――自動アイテム集め機に向かって、それ酷くない?』

『――自動アイテム集め機とか、ロゴわるっ』

『――はい。お疲れ様でした』

『――集め機ちゃん、お疲れちゃーん』

『――略したな』

『――なげぇんだもん』

『――さっきから笑い過ぎて腹痛いんだけど』

『――てか、俺達なんもしてねぇけどな』

『――漫画読んでたしぃ』

 

 

 

『2栄町駅近くのでかい交差点1900』




 部室を出て、直ぐに潤一の携帯が震える。

 携帯をわざわざつける気にもならない。要件はわかきりってるのだから。いつみても、結果は変わらないメールは何だか苦手だと、潤一は思う。

 段々と、冷たく変わってく夜の空気の様に、自分次第で内容が変わればいいのに。でも、そんなものはこの世界には余りない。意外かと思うかもしれないが、自分の努力で何かが変る事なんて、思った以上少ないものだ。

 他人も物も不変に近い。

 他人や物が作った結果も、それは自分の努力が入る隙間なんて何処にも無い。

 上を見上げても、星は見えずに、ただただ月が見えるだけ。

 昔は、もっと夜空が遠くて、キラキラしていた様に思った。

 覚えたばかりの星座を颯太と一緒に探していたっけ。適当に三つ、何でも並んでるものを颯太は手あたり次第にオリオン座だと声を上げた。

 どれだけ夜空にオリオン座があるんだよ。

 笑いながら言えば、颯太も笑う。

 

『いいんだよ。俺が今から全部オリオン座に変えるからっ』


 無茶苦茶な理論をそんな堂々と。よく言えたものだな。一体、その自信はどこかに来るものなのか。教えて欲しかった。

 思い出も、変わらない。

 自分の力で変えれるものなんて、何てちっぽけで、何て少なくて、何て脆いのだろうか。

 目を細め、潤一は思う。

 どうすれば、変われるのだろうか。

 この夜空の星を全て、オリオン座で埋めつくしたアイツなら、変えれるのだろうか。

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