さよならサンタさん
くりすます・プロローグ
『くりすます』という言葉を初めて聞いたのは、アカネが兄に連れられて、アル中の暴力父親の元から逃げ出し、星々を宇宙船に密航しながら転々とするストリートチルドレンの宇宙時代版、スペースチルドレン、略してスペチルとなって一年を過ぎた頃だった。
リーダーのシュウが、次に密航する船を、仲間の年上の子供達と下見に行っている間、アカネは兄のヒデキと、もう一人の仲間の女の子と一緒に、宇宙駅前の広場のオブジェの影にいた。
良く晴れ上がった青い空を背景に、大きな細長い三角の木が、金や銀のモールや、白い綿、星やリボンの3D映像を浮かべてそびえ立っている。その周りには端に白い、ふわふわのついた赤い服を着、黒いブーツを履き、ポンポンの付いた赤い帽子を被った男の人や女の人が、なにやら声を上げて周りの人に呼び掛けていた。
「アレ、なあに?」
「アレはね、太陽系出身の人達が、今の時期にお祝いする『くりすます』っていう祭りだよ」
女の子は羨ましそうな目で、大きな木を見上げた。
「周りにいる人はサンタクロース。お祭りの日の晩に、宇宙中の子供達にプレゼントを届けるんだって」
「へぇ~」
初めて聞く不思議で楽しい話に、アカネは目をキラキラさせて、隣の兄に笑い掛けた。
「お兄ちゃん、すごいね!」
「バカ……。嘘に決まってんだろ」
いつもはアカネの喜ぶことは、一緒に喜んでくれる兄が、ぶすりと仏頂面でそっぽを向く。
「サンタクロースなんて、いるわけないだろ。いるんだったら、なんで、アカネのところに一度も来ないんだ」
聞いたばかりの素敵な話を、大好きな兄に不機嫌な顔で全否定されて、アカネがしゅんと俯く。
「そんなモンだよね……」
女の子が諦め顔で呟いた言葉が、更にアカネの胸に重く落ちた。
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