ナナイロ

@nanairo_ikino

第1話

「同性同士で結婚して意味あるの?」


 新聞ではLGBTという言葉を聞くようになり、映画やドラマでは同性同士の恋愛を描くものも増えた。

まだ、現在日本では同性婚というものが認められていない。パートナーシップ条例という法的拘束力のないものだけがあり、結局のところ判断能力が不十分であるとされる方が、ある程度の自身の管理を第三者に委託するという成年後見人制度を利用した上で、各自治体が同性パートナーであるという公正証書を発行するだけのもの。


結婚というにはあまりに遠く、社会にも承認されない、権利も持たない、まやかしの、空虚な制度だ。


 だからといって、特に気に病むこともない。気にすることもない。そんな言葉は生まれてかれこれ何度も聞いたような言葉だ。大人だから、意味を説明することもできる。説き伏せることもできる。


「さあ、どうなんでしょうね。私の周りにはこういった方はいないので。」


ふーん・・・と気のない返事をすると、同僚はお菓子を食べながら新聞記事の回覧を隣のデスクに置いた。


「それより、午後から出て行くんですよね。前回、局から手厳しく言われたそうですが、書類揃いました?」


「まだ、全然。揃ってない。手伝って。」


はっとしたように、お菓子を口の中にしまいこんで、慌てて引き出しから書類を取り出した。


 それなりに忙しく、それなりに充実した仕事をする。企業は法人税を支払い、労働から得た賃金は、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、市民税等を徴収され、それらがこの国に生きる人々の生活を保障し、支える財源となる。ただ、近年では労働人口の低下により、財源は足りず、ひとりあたりの負担を増やすことによって誤魔化し続けている。会社のそばを走る高速道路も、30年以上も前にできたもので老朽化が問題となっている。老朽化が問題となっている高速道路は日本の4割にもなるらしい。


見上げると、沈みかけた太陽が眩しく高速道路を照らし、対比となった影の部分は一層暗いように見える。大型トラックが継ぎ目を走り、道路はキシキシと悲鳴をあげる。

これから夏に向かおうという季節だから、会社を出てもまだ外が明るい。まだ外が明るいというだけで、なんとなく冬場よりは得をしたように感じる。足早に電車に乗り込むと、この季節なのに少し汗ばむ。金曜日の車内というのは、なんとなくほっとしたような空気に満ちている。早く帰れたときには、スマートフォンではなく、車窓からの景色を見るようにしている。なんとなく。たまには思考を自由で広い世界に放り出してあげたいから。


バニラスカイだ。今が夜なのか、朝なのかわからない。夜と朝の隙間にある、どちらにも属さない空。この空を、好きだと言った人がいた。


 そういえば、午前に聞いたあの言葉、あの子も言ってたな。






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