第一章 旅立ち3

 翌日のユヒトたち使者の見送りには、村人たちが総出で駆けつけていた。村の入り口であるそこから先には森が広がり、遠くには草原が広がっている。高台に位置しているトト村からは、そんな様子が眼下に見えていた。

「ユヒト。どうか無事で。きっと帰ってきておくれ」

 ユヒトの母親が涙を流しながら、ユヒトの手を握っていた。

「母さん。大丈夫だよ。僕はきっと帰ってくるから。それまでは寂しいとは思うけど、村の人たちと仲良く暮らしてて」

 ユヒトがそう言うと、母親は何度もうなずいていた。しかし別れが惜しいのか、なかなかユヒトの手を離そうとはしなかった。ユヒトはそんな母親を一人残していくことが、とても心苦しかった。

「ユヒト。レシルのことはわたしらに任せておいて。オーゲンさんが行方不明となって、さらにお前さんまで旅に出ることになってしまったレシルの寂しい気持ちは、痛いほどよくわかる。だけど、レシルとわたしらは家族みたいなもんだ。一人で寂しいなんて思わせないよう、わたしらがちゃんと見ておいてあげるよ。だから、ユヒトは心配せず、旅立っておいで」

 隣の家に済む婦人が、母親のレシルの肩を抱いてそう言ってくれた。婦人のおかげで、レシルもようやくユヒトの手を離すことができた。

「母さん。絶対に帰ってくるから。そして父さんのこともきっと見つけ出してくるから」

 ユヒトはそう、自分に言い聞かせるように言った。

 ユヒトの父親であるオーゲンは、一年程前から行方不明になっていた。そのころから各地で異変が少しずつ起きてきていて、オーゲンは調査に出ていたのだ。しかしある日に調査に出かけていったオーゲンは、その日以来、村に帰ってくることはなかったのである。

 ユヒトが使者となり、セレイアへと旅立つことが決まったとき、ユヒトは父親のことを考えた。オーゲンは村でもかなりの剣の使い手で、腕は確かだった。そんな父が死んでしまったわけがない。きっと今もどこかで生きているはずだ。ユヒトはそう信じていた。そして、旅の中でなにか父の足取りが掴めるかもしれないと考えたのだった。

「さあ、ユヒト。そろそろ出発するとしようか」

「いつまでも感傷に浸ってばかりいられないからね」

 ギムレとエディールが愛馬に跨ったまま、ユヒトに呼びかけてきた。二人ともすでに旅立ちの準備は万端だ。

「はい。すみません。僕ももう行けます!」

 ユヒトは脇で待たせていた愛馬のパルを連れ、ギムレたちのところに駆けつけた。そしてその背に跨ると、もう一度村のほうを振り返った。

「ユヒト!」

 そのとき、村人たちの間から一人の少女が前に飛び出てきた。ラーナだ。

「絶対絶対セレイアにたどり着いてね! そして風の竜をよみがえらせたら、きっとこの村に帰ってきてね!」

 ラーナは目を赤く腫らしていた。随分と泣いたのだろう。けれど、その顔には笑顔が浮かんでいた。昨日ユヒトとした約束を守ってくれたのだ。

 ユヒトはそんなラーナの姿を見て、胸が熱くなった。

「ラーナ! 約束するよ! 絶対にセレイアに行くって! そして村に無事に帰ってくるって!」

 ユヒトはそう叫び、ラーナに手を振ると、前を向き、愛馬を走らせた。

「いってらっしゃい! ユヒト!」

 ユヒトたち三人の使者たちを、トト村の人たちはいつまでもいつまでも見送っていた。

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