巡る愛

今、俺の目の前にいるのは一体誰なんだ?





"坂井雅樹"?




"中田雅樹"?






「遥さん、どうかしたの?顔真っ青だよ?」

「え…、そ、そんなことないよ…。な、なんでもないから。」


動揺しすぎだろ、俺。


「この跡、気になるの?さっきから俺の首ばっかり見てる。」

「いや、見てない!!うん、見てない。」


俺はそう自分に言い聞かせてその場を取り繕った。

って言っての俺の様子はもう坂井に伝わっているんだろう。


だとしたら、坂井ならしつこいくらいに聞いてくるはずなのに…。


「そっか・・・。」


坂井は、雅樹と同じように目だけ伏せて右の口角だけを上げた。


この癖は、雅樹が何かを隠したときや、我慢した時の癖だった。



俺は、また雅樹と坂井を比べてる…。

前までなら気にならないようにしていた。


でも…、今日は、今までの坂井の様子まで頭から引っ張り出して、雅樹と比べ始めてしまった。


「遥さん、もう少し時間かけて進めよっか。」


坂井もその様子に気が付いたのか、それ以上は何もしようとしなかった。


休みが明けて、俺と坂井は会社に出勤する日になった、やっっっと!!!


「おい、坂井!いつまで寝ぼけてんだ!!仕事だ仕事!!」


「ん~、まだ眠い~。あ、愛しの人からのキsッグフッ!!」


朝からあまりに可愛い顔だったのでぇえ!!!!!足蹴をお見舞いしてやった。


「俺の体にキスできただろぉ、早く起きて支度をしろ!!第一、家の主が起きてるのにお前はいつまでもぐーすかと!!あぁあ!!?」


「す、すみません、起きました!!あぁ、なんてすがすがしい朝なのでしょうかッ!!」


はぁ、朝からでかい声出させやがって…。


俺はさっさそ支度は済ませていたので、坂井の支度が終わったらさっさと外に出して、鍵を閉めて俺がカギをもちろん持って出勤する…はずだったのだが…。


「遥さん、先行ってください。俺、鍵閉めていくんで。」


「は?なんで?」

「同棲ナウだから。」


はぁぁあああああ!!!!!!!???????


「同棲するなんて一回も「だって昨日鍵外につけっぱでしたし。」…あ!」


は、外すの忘れてた!!!


「こんな危なっかしい主に鍵なんて預けられません!!」

「いや、これはたまたまで…「だ~め!!これは俺が預かりますので!!」…。」


こうして俺のカギは、坂井の手にいとも簡単にわたってしまったのだ。


あしからず、俺…(泣)

「もー、遥さんったら!!」


俺は家を出てから、一言もこいつと口を利かないと心に決めいている。

俺のカギを奪いやがって…ッ!!←自業自得だろ(;一_一)


「もう機嫌直し…あ゛。」


坂井の声が急に低くおどろおどろしくなった。


何事かと顔を向けると、そこはビルの隙間だった。

よくよく見ると、そこには…ッ


た、確か営業課の…誰かと矢間根部長がイチャこらサッサしていた。←おい…。


俺が名前を思い出そうともがいていた時、坂井が俺の肩に手をまわした。

「中井さんに矢間根部長…、楽しそうですねぇ。」


いや、目が笑ってないからな、坂井!

なのになんでそんな弱みつかんだ的な不敵な笑いになってんだよ!!


坂井の声にイチャコラは止んでパタパタと営業部の人の方が身支度を整えた。


「ご、ご機嫌麗しゅう…。」

この人中井さんっていうんだ。

中井さんは、恥ずかしかったのか、下を向きっきりになってしまった。


「おお。ふたりして、ついにくっついたか!!あははは!!!」

部長は全く恥じらいも臆面もないって感じだな。


「さすが、部長…堂々t「まあ、臆面もなく会社内でキスなんかできますよね。」ッ坂井!!」


俺はとっさに坂井の脇腹をつねろうとしたけど、簡単にかわされてしまった。


「ははは、坂井たちに言われてもな~。なぁ、水穂。」


ん?みずほ?え、この状態で水穂と呼ばれる人ということは…ッ!?


恐る恐るその中井さんって方を見ると、部長を見ながら口をパクパクしていた。


「や、矢間根さん…。会社では名前を呼ばないでと何度もッ!!」


「水穂~、別にいいじゃないか。この二人もそういう中のやつらだから警戒しなくても大丈夫だぞ?」


「だから余計恥ずかしいんじゃないですかぁ!!」


あれ?中井さんって坂井からの話では、きっつい性格で味方以外近づかせないって…。


「中井さん、普段はそんな言葉づかいなんですか?」


坂井の質問に、中井さんは涙を浮かべた眼で睨みつけた。


「そうだよッ、いつもはなめられない様に嫌味にしてるだけだしッ!!ワルイか、バーカ!!」


うわ、可愛い性格…。

「うらやましい…。」


「え?」「は?」「ん?」


ハッ口に出してたかッ!!


すると中井さんは何を思ったか、俺たちの目の前で部長に抱きついた。

ってほかの人もいるのに、大丈夫なのかな…。


「時男さんは譲らないから!!」


・・・はい?

あ、まさか…この人また面倒な誤解をしてくれてる感じ!?



「中井さん!そういうことでうらやましいって言ったわけじゃないですから、ね!!」


「うぅ・・・。」

あら~、まだ警戒心MAXなようで…。


「じゃ…なんでそんなこと言ったのさ…。」

女子か!!


俺はこの場で言うには気まずすぎて、中井さんだけ引っ張って二人で話をすることにした。


俺に引っ張られた手が痛かったのか、中井さんは手首を抑えながら頬をぷーっと膨らませている。


「で?どーして"うらやましい"って言ったの?」


「それは…。」


俺は自分でも情けなくなるような意地っ張りさをそこまで知らない中井さんにすべて打ち明けることになった。


「…なるほど…それで自分で可愛げがないとそのたびに思うってことか~。」

「はい…。」


「ばっかじゃねぇの?」


「・・・は?」


「坂井はそんなことでいちいち愛想尽かすやつでもないデショ?」

「ん…まぁ。」


「ならいいじゃん。それがいつものあんたなんだろ?ならあんたらしく堂々と意地っ張りでいたらどうだ?」


「…そうですn「って時男さんなら言うと思わない?かっこよくドヤ顔決めちゃって!」…はぁ…。」


どうやら中井さんは矢間根部長にベタ惚れのようで、それから朝会になるギリッギリまでのろけ話を聞かされて、逃がしてもらえなかった。


おかげで俺は、見事に朝会に遅刻した。


「おはようございます、遅れてすいません、会社にはきてたんです信じてください、僕が嘘つくとお思いですか?そんなこと僕しませんから、何より営業課の課長さんに呼ばれて話をしていただけです、確かに一度ここにきて付箋でもなんでもおいておけばと今後悔しています、わかってください!!」


「お、おおう。どうにか理解した。というか遅れてくるだろうから責めないでやってくれと坂井に言われてるから大丈夫だぞ?」


「え?」

なんで坂井の名前が出てくるんだ?

営業課は上の階だしだからと言って…、エレベータの方が早いはずだし…。


「なんでか気になりますか?」


背後から聞こえたのは、


「坂井?」

「黄花さんの提案で、ここに戻るように言われたんです!!」


そう言って坂井は満面の笑みで?サインをした。


「俺、せっかくの部長の恋を邪魔するかもしれないからって。自分だって最初は…ね~先輩!!」


「はは…。」


俺の心臓は、この状態でも爆発寸前だしッ!!


坂井の声をこれから毎日一日中聞くなんて…。


俺の体が持ちませんよ神様ぁ!!!

「遥さん、ここの資料なんですけど…。」

「ん?」


「プレゼンの資料にするには、1年間の差より過去5年間の数をグラフにした方が利益が見やすいと思うのですが…。」


「あー、そうだな…、でもそうすると3年前の損失が浮き彫りに見えないか?」


俺と坂井はこないだの企画の成功が良かったのか、"会議の二重奏(デュオ)"なんて呼ばれて重宝されている。


何となくホイホイされている気もするけど、大変な仕事の分やりがいも感じているから…、まぁいっか!


「では、こちらももう少し資料を集めてみる。」


そう。俺は必死に仕事をしているだけなのだが…。


ピコン♪

また来た…。


俺は新着メールをクリックする。

『遥さん、俺のこと避けたでしょ!』


これだ…。

俺の彼氏になった俺の隣の席の坂井は、話しが終わるたびにメールをよこす。


まぁ、そりゃ、坂井のことうまく見れないけどさ…、仕方ないじゃないか!!坂井を見るたびに俺の寿命は縮む音が聞こえるんだよ!!


『避けていない。仕事の時くらいきちんとしろ。俺が怒られるんだ。』


まったく…、メールを無視しようにも、坂井の隣だし、パソコンを閉じてできる仕事なんてない。


一応無視はしてみたことはある…が、しちゃいけないような気がして良心が痛んでしまってからできていない。


今日もこれで俺の仕事の時間の半分は坂井との会話でつぶれる。

ま!い!に!ち!


「遥さん、待ってってばー!なんで無視すんの?」


「メールで話してるんだし、そんなに必要無いだろ?」


「そんなぁ~!!」


うーさいな、もう!

俺だってお前と話したいけど…心臓がいうこと聞かねぇんだもん…。


まるで…初恋でも蒸し返してるみたいに…。


そういえば、坂井…雅樹とそっくりなところ…多くなってきてるんだよな…。


そして最近になって、雅樹と名乗る付箋が俺のデスクのところに毎日貼ってある。


返事を求めるものもあってなんとなく返したりしてるけど…。


俺のデスクに逆さまに貼っておくのが返事のサインってのも…

いつの間にか俺のデスクから付箋がなくなるタイミングも…


不思議なことばっかりだ。


「遥さん?聞いてる?」


やべ、考え事しててうっかり坂井の話を筒抜けにしてしまった。


「わり、もう一回言ってくれね?」

「だーかーらー、俺と遥さんにそれぞれ同級会の招待状が来てるの。もう出席にしちゃいましたけどいいよね?」


…え?

「なんで?」

「だって、遥さんクラスの中で輝いてた…んだろうなって想像出来たから。」


『馴染んでそうだし。』って…俺のことまるで全部知ってるみたいで…でも、嬉しそうにそう話す坂井に、ちょっとだけ嬉しくなったのも…確かだけど…


これは言うの照れくさいから言ってあげないもんッ!

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