早すぎた再会

「荷物持ったか?」


「はい、大丈、夫です…ヒック」


「お前…まだ車にすら乗ってないのに緊張しすぎだ。」


「す、すすす、すみみませんん!!!!」


「とりあえず落ち着け、深呼吸。」


「深呼吸、深呼吸…スゥ……」


バタッ

やばい、息吸いすぎた…。


「…おいおい…。」


今日は、企画のメンバー全員で集まるらしい…けど。


三田さんによると…相当厳しい人だって…。



はぁ…今から緊張しちゃうよ…。


俺のため息が聞こえたのか、矢間根さんはクスリと笑って、俺の頭を撫でた。


「お前は、ただクリックをするだけだ。緊張しすぎるなよ?」


「は、はいぃ…。」


やばい、緊張しすぎるなって言われると…余計…あぁ…吐きそう…。


俺は企画概要をペラペラとめくっていた。


すると、急に企画概要が手から離れていった。


「…え?」

「そんなことしてたら余計に緊張ますぞ。俺の車で酔われても癪だからな。」


「ハッ…す、すみません…。」


っていっても…手が空いてしまってると落ち着かない…。


「お前、助手席に乗せたんだから、分かってるよな?」

「…はい?」

「左の安全確認を頼む。」


そ、そうか…ちゃんとやるべきことあったじゃん!!


「…は、はい。」

「余裕を持って!!な。」


「…はい。」


ブルルル…

矢間根さんの車が大きなエンジン音を立てて、走り出す。


…………………


「着いたぞ。」


「う゛っ…ちょ…と、トイレ行ってきます…。」


「お、おう。」


矢間根さん…運転雑過ぎ…何してても酔うよありゃ…。


皆さんも急発進急ブレーキは出来るだけなさらないように!!




「はぁ…」


企画の準備は初めてでやることなんか少ないとか考えてたけど…甘かった…ッ!!


前より寝れなくなった…。


精神的なことが忘れられるくらい…って言っても、忘れられた日なんか無かったけど。


やべ…走ったから髪ボッサだ!!


俺は慌ててバックをあさった…ッ!?


あれ?無い!無い!!

櫛が…あれれ???


「良かったらお使いください。」


お!今日ついてるかもッ!!


「ありがとうございま…ッ!!?」


顔を上げると、鏡越しに…アイツが…坂井がいた。

うそ…なんで?なんでここに…?


俺は混乱してうつむいてしまった。


「櫛、ここに置いておきますから。」


優しい声でそう伝えると、坂井はトイレを出て行った。


俺にとっては、その優しい声すら…苦しさの種になるわけで…。

その優しさに、また触れたくなってしまうわけで…。


…洗面台の櫛をそっと手にとった。


髪…梳かさなきゃ…。





俺は坂井の櫛を髪に通した。


その櫛からは、悔しいくらい…坂井の匂いがした。


「お前…なぜ行ってきた前より顔色悪くなるんだ?」


「あは、ははは…。」


いつもの笑顔すら…引き攣る。

俺は櫛を胸ポッケにしまったまま…だ。


ど、どしよ…返さないとダメだよな、うん。


でも…俺…口聞いてもらえんのかな…。


「マジで大丈夫か…?顔色悪いぞ…。」


ハッ…いけないいけない!!

矢間根さんに心配かけるわけには…ッ

企画ダメなったら俺のせいになるッ!!


「だ、大丈夫です!!元気ピンピンです!!」

「…ならいいが…。」


矢間根さんは怪訝そうに俺の顔をのぞき込んだ。


俺は慌てて話を変えることにした。

…あのこと質問するにはちょうどいいかもしれないしな!


「あ、そういえば、相手方の人が怖い人だって伺ったんですけど…本当ですか?」


「ん~?」

矢間根さんは俺の顔をちらりと見た。

そして、一瞬目を見開くと、立ち止まって俺の肩をガシッと掴んだ。


「お前…あの人の怖さ知らないのか…。」

「…え゛…。」


俺の反応に矢間根さんの顔はみるみる強ばって、がくんと肩を落とした。


「…頼むから、あの人を怒らせないようにしてるんだぞ?」


「…はぃッ…。」


よっぽど怖い人なんだ…。

ま、また緊張が…腹から何か上がってくる…ッ!!


「う゛…。」

「…吐くなよ?」


俺は首だけでコクコクとうなづいた。

「お前こそ、坂井のこと知ってるんだろ?あいつ怖くねぇの?」


…ん?

どうして急に坂井の話に…?


「あの子ですか?…怖くないですよ…相当怒らせなければ…。」


「…ん?何か言ったか?」

「え?い~えッ!?」


まぁ、上司の人に怒るような人じゃないだろう…あいつは……多分ッ…ってかそんなひどい奴に育てた覚えねぇしッ!!


「ここだな、第一実務室は。」


話してるうちにもう着いてしまった…


「…戦場ですね…。」


俺の言葉に、矢間根さんは高らかに笑った。

「じゃ、いざ戦場に出発だな。」


「ちょ…矢間根さん…。」


「ははは…ッ!!でもな、確かにこの中は戦場だぞ?」


「…は、はい?」


何?武器とか仕込まれてたりする?ま、まさか入った途端に赤い糸みたいなのが張り巡らされてたり…!?


「お前の考えるのとは違うが…意見の投げ合いってことだ…。」


あ、何だそう言う事か…。


「残念か?」


「…いえ!死なないだけありがたいです、はい。」


俺の発言に笑いながらも矢間根さんは俺の肩に手を置いた。


「じゃ、入るぞ……」



コンコンッ






「「はい。どうぞ。」」


…ん?男女の声が同時に聞こえた気が…。


「どうかしたか?」


「んえ?いえ、は、入りましょう。」


ガチャッ


俺がドアを開いた途端、若い男がこちらに走ってきた。


「は、はじめまして、この企画の担当補佐になりました。…"坂井雅樹"です!!」


…え゛…!!!!


「さ、坂井…?」


俺が名前を呼ぶと顔をあげた。

「はい、よろ…ッ……。…え…?」



そして、その顔は俺を見てみるみる固まっていった。


「ど、どうしてはるッ…、さ、西島先輩がここに…?」


「…坂井こそ…。」


俺と坂井が混乱するのをよそに、矢間根さんはさっさと席に移動していた。


「西島、こっちだ。」


「坂井くん、こっちよ。」


矢間根さんに呼ばれて、俺は慌てて横の席についた。


坂井も女の人の指示に従った。


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