新企画~坂井雅樹ver.~

「え~、お早うございます。坂井くん。」


…ゲッ…中井さんだ…。


「おはようございます…!」


サービス課の教育係になってもらったんだけど…メガネのキチッとした男の人で…


「全く、その声の大きさ、どうにかならないんですか?この部屋の規模と僕との距離を考えれば大きさの推定は出来るでしょう。」


何より毎日嫌味ったらしくて…吐き気がする。


「す、すみません…」

「謝罪ははっきりと!!」


どっちだよ!!

あんたこそ、教え方の推定をしてくれませんかね…人が病むことくらいわかるだろ…。


「全く…庶務課で何を教わってきたのか…。はぁ…向こうの教育係は、相当なドンでまだまだ新人だっていうじゃないですか。」

「…はぁ。」


また始まった…。

いっつもいっつも毎日毎日、遥くんのことを悪く言われ続けてる。


今日も我慢をしようと…していた。


「よっぽどコネかなにかで置かしてもらってるんでしょうね…」


…ッ!!

けど、今日は耐えられそうにない…。

「よく普通に会社にいられ「あの人の何を知ってるんですかッ」


「…はい?なにか言いましッ…ヒッ!!!!」


俺は中井さんに掴みかかっていた。

でも、これでも必死に感情を抑えてる…つもりッ!


「あなたに何がわかるんですかッ!はる…西島さんは、あなたが思うようなずるい人なんかじゃない!」


俺はそう言って中井さんを払った。

中井さんは、バタバタとメガネをかけ直した。


「き、君ッ!!こ、こんなことしていいと思ってるのかね?」

「はいッ!?」


「ッ…西島君がこういう教育をしたなんて、社長が知ったら、どうなるんだろうね…。」


…は?


「なッ「これを社長に伝えたら、西島君はここの会社からも居なくなるだろうね~。」


…そんな…。

俺…相当やばいことしちゃったんじゃ…。


「あ、あの…す、すみませんで」ガチャ


俺が頭を下げている時に誰かがオフィスのドアをあけた。


「あらぁ?お忙しいときにごめんなさいねぇ?」


「…。」

ケバッ!!!!


このケバいおばさんを見ると、中井さんは急に態度を変えた。


「矢間根黄花様じゃありませんか~!!」


「えぇ、覚えてくれてたのねぇ~。」

「もっちろんです~!!」


うわ、すごい人なんだ…。

今日は難は逃れれそうだな……。


…と思ったのに!

「で、どうしてあなたは、こんな朝から怒られていたの?」


「…え?あ、あの…フグッ!?」

俺の言い訳を、中井さんが塞いでしまった。


万事休す……。



俺の口を塞ぎながら、中井さんが話し出す。

「それはコイツがッ、教育係の僕に急に掴みかかりましてね。」



中井さんの言葉に、ケバいおばさんは口角をクイっと片方だけあげた。


「あら、そうなの?そこの若暴君?どうしてそんなことしちゃったのかしら?」


俺は声をあげたかったのだが…中井さんの手が邪魔で口を動かせない。


「中井くん?その汚い手をどかしてあげて?」


「!?」

「あの、僕の手ですか?」


「ええ。その新人をいびり倒して、辞めさせてサービス課で味方しか作ってない中井君の手のことよ?」


「…ちょ…あの「なにか間違えてたかしら?」え、いえ…。」


俺は二人の言い合いをただただ見ているしかなかった。


コツコツコツ……


「あの…先程はありがとうございました。」


中井さんはあれから小さくなってしまっていた。


「いいのよ、本当のことだったんだから。その代わり、あなたにはこの企画に参加してもらうから。はい、これ。」

「?」


矢間根さん…いや、黄花さん(本人が下の名前で呼べとうるさかった)から手渡されたのは、分厚いファイルだった。


「この資料を夕方までにまとめておいて。」

「まとめるって…、これ全部ですか!?」


ファイルの中をペラペラとまくってみたけど…、過去10年分の資料のようだった。


「統計と傾向をまとめるだけよ?"あなたなら"簡単でしょ?」


"あなたなら"?


「僕なら…ですか?」


「そうよ。あなた、庶務係で西島という教育係にたくさん仕事押し付けられてたって、噂で聞いたわよ?」


発端は三田さんだろんな…。

でもッ!!

「お言葉ですが、押しつけられていたわけではありません。西島さんは…僕に早く仕事を覚えるように、経験させてくれていたんです…ッ!!」


「そうなの?いい先輩さんなのね…。」

「はい!!あの人は、ずっと…ずっと良い人で…」


俺はそこからの言葉がうまく出てこなかった。


"尊敬"?いや、違うな…。

"師弟愛"?…じゃないな…。


他になんて言うべきなんだろう。



「大切な人?」

「…え?」


その言葉は、俺が一番言いたくても言えない…でも何回も頭に浮かんだワードの一つだった。


「た、大切な先輩です。」


俺は必死に気持ちに蓋をした。


「そう…。なら、大切な先輩の顔に泥を塗っちゃダメよね?」

「ええ、そりゃ……ッ?」


「ならこれ、上手にまとめておいてね。~♪」


黄花さんは花唄を歌いながら、オフィスを去っていった。

は、ハメられたッ!!!!


もう、なんなんだよ…あのオバサン!!


俺はムカムカしながらも、資料に目を通し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る