初リスボーン&クリッピー
暗い意識の中、
ギチギチギチギチ……
という耳触りな音を捉えてジェームズは目を覚ました。
「んん……」
ゆっくりと上体を起こして頭を揺するジェームズ。
ここへ来た時を思い出す感覚だが、今はそんなのんびりとしていられるような状況ではない、
食われ、切り裂かれ、壁に叩きつけられて体が弾けた。
最悪な体験だった。
いまでも全身が鳥肌立っている。
今自分に起きたことを改めて思い出して落ち込むジェームズ。
ギチギチギチギチ……
重い瞼をゆっくり開けてこの耳障りな音の正体を確認しようとする。
霞む視界の中、薄暗い部屋いっぱいに広がる黒い影を捉える。
音の正体は、甲殻系の細長い、絶え間なく動き続けるいくつもの足だった。
ムカデか、蜘蛛か、
シャコか、カニにも見えるそれは、
関節部には筋肉繊維のような、いくつもの筋が見えるし、付け根にはうっすら毛も生えていてなお一層気持ち悪い。
「おはよう……クリッピー……だったか?」
とても「おはよう」なんていう気分ではないが、今のジェームズは、少しでもおかしなことをしても気分を変えないと、とても正気ではいられない気分だったのだ。
「キィィィィィィィィィ‼︎」
ジェームズの声に反応したのか、足をいっぱいに開いて威嚇(?)してくるクリッピー。
クリッピーの頭は、高さ3メートルほどの天井に届いていた。
10畳ほどの広さの部屋のうち、ジェームズがいるのは畳一枚分ほど、残りはクリッピーの胴体と足が埋め尽くしている。
ガチガチと左右に開いては閉じて噛み合う大きな顎のついたイカツイ顔に、大きな光る複眼。
かたい殻に覆われた胴体には、あちこちに棘がついていて、見ただけでいたそうだ。
尻のあたりにはうねうね動く尾のような部位までついているし、
部屋いっぱいに詰まっているせいか、圧迫感がすごい。
この部屋の空気自体なんだか重々しく感じるほどだ。
見ているだけでも気持ち悪い相手と狭い密室で二人きり、
今にも気がおかしくなりそうだ。
外はどうなっている?助けは来るのか?みんなは無事なのか?
焦りと不安から、一刻も早くこの部屋から出たいと思い始めるジェームズ。
焦ってはいるが、思考はむしろ冷静になる。
ジェームズは、そんな冷静な思考の中、
背中に冷たい感覚があることに気づく。
「……これは」
手で触ってみるとそれは、アドルフやカルロスを助ける際に見た、出入り口になっている鉄格子だった。
「魔方陣とやらで外からロックされているんだったか……」
まじまじと鉄格子を見つめて呟くジェームズ。
どうやら無事リスボーンできたようだと理解する。
「確か、この中にいる限り、私にできることは何もないんだったか……」
いつ襲い来るかもしれないクリッピーに見つめられ続けているにもかかわらず、不思議と発狂せずにいられるこの精神はなんだろうか。
「おい!生きてるか?」
外から聞こえた哲郎の声。
ガシャン‼︎
鉄格子が開くとともに差し出される手。
「遅くなった‼︎よく頑張ったな‼︎」
「ああ、すまない」
哲郎の手を取り、外へ出るジェームズ。
「じゃあな、」
最後まで見つめるだけだったクリッピーに別れを告げて再び戦場へと戻っていった。
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