第10話

「あっ、おじさん。美紀はいる?」

「おっ、幸ちゃんか。また、美紀に勝負を挑みに来たのか?」

「それで美紀はどこにいるの。道場?」

「ああ、道場にいるはずだ」

「ありがとおじさん」


コイツの名前は、神野 幸(じんの さち)。

コイツも一応黒巫女だ。


「たのも~!」


幸は、道場へと入って行く。


「あれ、幸じゃない。また、勝負しに来たの」

「あっ、早紀さんもいたんですか」

「なんだおまえ、またきたのか」

「そ、そうよ。今日こそは覚悟しなさい美紀」

「目上の人間に、呼び捨てはよくないだろ」

「ふ、ふん。あんたなんか、呼び捨てにしてもらってるだけで、光栄に思いなさい」


いまはゴールデンウィーク。

この幸は、暇が少しでもできると、美紀に会いに来る。

幸は美紀に対して、見た目は敵意を抱いているように見えるが、そうでもないらしい。

いわゆるツンデレというやつみたいじゃ。


「あんたさあ。暇になったらあたしに会いに来るけど、友達いないの?」

「うっさい!あんただって、早紀さんくらいしかいないんじゃないの?」

「あたしはいいのよ。あたしは、早紀さえいれば、他に友達なんかいらないから」

「なにそれ。美紀、あんたその気があるの。へんたいなの?」

「そうなの美紀?」

「いや、ちがうから」


こいつら一体何の話しとるんじゃ。

早く勝負せえよ。


「そんなのどうでもいい。勝負よ、美紀!今日こそは、ぎゃふんといわせてやるんだから」

「やれるものならやってみろ。礼儀がなってない後輩は、あたしがその根性叩き直してやる」


美紀の家に、ツンデレお嬢がやって来ていた頃、小夜は東北のある街にいた。

今俺たちは、岩手にいる。

少し西日本で暴れすぎたからな。

それにもう一つ理由がある。

それは、


1週間前


「おい小夜、次は名古屋辺りに行くか?」

「・・・」


ん、返事が無いな。


「おい」


むっ、なんか、小夜の奴の顔色が悪い気がする。


「どうした、お腹でも壊したのか?小夜、おまえ食べすぎるからだ」

「ちがう」

「ちがう?ならどうした」

「あつい。もう死にそう」


ああ、そういうことか。

こいつ、暑さには弱かったな。

俺は暑さなんてなんともないが、まだ5月なのに30度を超えるのは、普通の人間でもきついらしいからな。

ましてや、暑さに弱い小夜なら、地獄かもしれんな。


「もうだめ。死ぬ」

「まだ死ぬな。そうだな、ゴールデンウィークの休みと思って、北の方にでも行くか」

「きた?」

「ああ、東北の方とかな」

「うん、そうする」


そして、東北にいるのだが、


「村正、うそつき」

「嘘つき言うな」


東北に来たはいいが、異常気象のせいか東北でも30度を超えている。

この分じゃ、日本で涼しいところはないかもしれん。

いや、山の上ならそうでもないかもしれん。


「おい小夜、涼しいところがあるかもしれんぞ」

「えっ、どこ?」

「山の上だ。そこならきっと涼しいぞ。だから登山しろ」

「聞いて損した」

「なんだと!それでは、今日の仕事も休むのだな」

「うん。今は動きたくない」


そのころ美紀たちは、


「うりゃっ!」

「くっ」

「そろそろ負けを認めたら?」

「だれが!」


幸は圧倒的に押されていたが、なかなか負けを認めなかった。

うむ、なかなか根性があるな幸の奴は。

将来が楽しみじゃな。

じゃが、今はまだ美紀にはかなわんか。

なかなか諦めない幸を見て、早紀が割って入った。


「はいはいは~い、美紀も幸もそこまで。今日の所は引き分けね」

「早紀さん止めないで。あともう少しで勝てるから」

「無茶言わない。美紀もそれでいいよね」

「早紀がそう言うなら、それでいいよ」

「幸もいいわね」

「早紀さんがそこまで言うなら、仕方がないですね。引き分けと言う事にしておきます」

「助かったな幸」

「それはこっちのセリフよ。ふん」


幸の奴、すごい強がりだな。

もう、バテバテではないか。


「幸、兼光見せて。手入れしてあげる」

「ほんとですか。ありがとう。早紀さん手入れがホントにうまいからなあ」

「じゃあ、蝋燭立ててくれる」

「うん」


早紀は、手慣れた様子で手入れをはじめる。

紙を口に、唾が飛ばないようにして。

手入れが終わると、いつものように波紋を眺める。


「3尺もある大太刀を、幸はよく振り回せるわね」

「なれてますから」

「ただのバカ力」


幸は、大声を出すわけにもいかず、美紀を睨みつけた。


「冗談冗談」

「地鉄(じがね)に牡丹映り(ぼたんうつり)、刃紋は大湾れ(おおのたれ)に互の目(ぐのめ)。帽子は、先が乱れて匂いで尖った「兼光帽子」かあ」


美紀を無視している早紀が、何を言っているのかわからない、美紀であった。

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